2023年10月1日スタート!「インボイス制度」ってどんな制度?<第11回 インボイス制度開始後の経理業務はどう変わる?~具体的な経理業務ごとの留意点~>

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過去の記事「2023年10月1日スタート!「インボイス制度」ってどんな制度?<第8回 インボイス制度開始後の経理業務はどう変わる?~インボイス制度が経理業務に与える影響~>」でご紹介したとおり、2023年10月のインボイス制度開始後は、経理業務が大きく変わります。特に買手側の経理業務の事務負担が増大することが予想されます。

小規模事業者については、2割特例や少額特例といった負担軽減のための特例措置も設けられていますが(過去の記事「2023年度税制改正でインボイス制度の負担軽減措置が創設されました」をご参照ください)、これらも時限特例であるため、小規模事業者でも特例期間終了後は事務負担が増加することになります。

今回は、具体的な経理業務ごとに、必要となる対応を考えてみたいと思います。

インボイス制度開始後の買手側の経理業務の変更点

まず、インボイス制度開始後の買手側の経理業務の変更点について、おさらいしておきましょう。

インボイス制度開始後は、課税仕入れについて仕入税額控除をするためには、一定の事項が記載された帳簿とインボイスの保存が必要となります。そのため今後は、すべての課税仕入れについて、インボイスが交付されているかを確認するという「インボイスチェック」が必要となります。

「インボイスチェック」で確認すべきチェックポイントは、次の3点です。

<インボイスのチェックポイント>
1.課税仕入れ(※)について請求書等を受領しているか
  ※ 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められている仕入れを除く
2.受領した請求書等がインボイスの要件を満たしているか(=以下の記載事項が漏れなく記載されているか)
  (ア) インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
  (イ) 取引年月日
  (ウ) 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  (エ) 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
  (オ) 税率ごとに区分した消費税額等
  (カ) 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称(※)
  ※簡易インボイスに該当する場合は記載不要
3.取引先がインボイス発行事業者に該当するか(=適正な登録番号の記載があるか)

インボイスチェックを行った後は、消費税の仕入税額控除を正しく計算するために、すべての課税仕入れについて
① インボイスを受領しているもの
② 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められているもの
③ インボイスの受領がないもの(②の帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められているものを除く)

に区分する必要があります。①②は仕入税額控除の対象となりますが、③は仕入税額控除の対象とならないためです。経過措置により、③の課税仕入れについても、インボイス制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除することができるようになっていますが、区分をしっかりしておかないと、正確な仕入税額控除の計算ができません。また、②については、仕入税額控除の対象とはなりますが、帳簿に一定の追加事項を記載する必要があるため、区分しておいた方がいいでしょう。

それでは、これらの変更点が、経理の各業務にどのような影響を与えるか見ていきましょう。

現金

小口現金などの現金がある場合には、Excel等で「現金出納帳」を作成して管理をしていると思います。現金からの支払いについても、インボイス制度開始後は、原則としてインボイスが必要となります。支払いの際に受領した領収書等についてインボイスチェックを行い、インボイスが必要な課税仕入れのインボイスが揃っているかを確認しなければなりません。そして、「現金出納帳」に印をつけるなどして、インボイスの区分がわかるようにしておく必要があります。

そもそも現金があると、日々残高を確認するという作業も必要となるため、経理の負担軽減のために、この機会に立替経費精算への切り替えを検討することをお勧めします。

立替経費精算

従業員の立替経費がある場合には、Excel等の「経費精算書」や、経費精算ソフトを使用して、経費精算を行います。一般的には、従業員が「経費精算書」を提出すると、経理担当者が「経費精算書」と領収書等の内容が一致しているかを確認し、承認、精算を行うフローになっていると思います。
インボイス制度開始後は、この「経費精算書」等の確認の際にも、インボイスチェックが必要となります。従業員にインボイスの知識がない場合には、インボイスには該当しない領収書等が添付されていることもあると思います。しっかりインボイスチェックを行ったうえで、「経費精算書」に印をつけるなどして、インボイスの区分がわかるようにしておくとよいでしょう。

なお、電車やバスなどの公共交通機関の運賃については、税込価額が3万円未満であれば、インボイスの保存は不要となります。この場合には、「3万円未満の鉄道料金」などと帳簿に記載しておく必要があります。

経費精算クラウドサービスの中には、添付された領収書等がインボイスに該当するかのチェックを自動で行ってくれるインボイス対応のサービスもあります。このような経費精算クラウドサービスを利用すると、経理の負担軽減につながるでしょう。

また、経費精算を行う従業員がインボイスの受領を失念しないよう、従業員に対してインボイス制度の研修を行うなど、従業員の理解を深めておくことも重要です。

請求書払い

請求書払いの支払いについては、届いた請求書等に基づいて「支払一覧」等を作成して、その月に支払う振込をまとめて管理するのが一般的です。インボイス制度開始後は、この請求書等のインボイスチェックが必要となります。継続的な支払先については、一度インボイスチェックを行っておけば、支払いの都度登録事業者番号のチェックまでは行う必要はありませんが、インボイスの有無は確認しておかなければなりません。そして、その他の支払方法と同様に、「支払一覧」に印をつけるなどして、インボイスの区分がわかるようにしておくとよいでしょう。

また、経費精算と同様、自動でインボイスチェックを行うことができる振込データ作成クラウドサービスなどもありますので、この機会に導入を検討するのもよいでしょう。

なお、家賃や顧問料の支払いなど、定額の支払いについては、請求書等の発行がない取引もあると思います。この場合には、契約書等の他の書類でインボイスの要件が満たされているかを確認する必要があるため、注意が必要です。

クレジットカード支払い

経費の支払いに、法人名義のクレジットカードを使用しているケースも多いと思います。インボイス制度開始後、一番厄介となるのが、このクレジットカード支払いの経費ではないでしょうか。クレジットカード支払いの場合でも、原則すべての課税仕入れについてインボイスが必要となります。クレジットカード明細に記載された支払いについて、インボイスチェックを行い、インボイスが揃っているか確認をしなければなりません。ネットショッピングやカード引落しになっている支払いについても、サイトからインボイスをダウンロードするなどして、インボイスチェックをする必要があります。インボイスチェック後は、クレジットカード明細に印をつけるなどして、インボイスの区分がわかるようにしておくとよいでしょう。

インボイスチェックが不要なケース

消費税の計算方法について、簡易課税を選択している場合には、インボイスの保存が不要となるため、インボイスチェックを行う必要はありません。

これまで免税であった免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になる場合に、消費税の納税額を売上税額の2割に軽減する「2割特例」を利用する場合にも、インボイスの保存は不要なため、インボイスチェックを行う必要はありません。

また、基準期間(前々年・前々事業年度)における課税売上高が1億円以下である事業者については、インボイス制度の開始から6年間、支払対価の額が1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となるという「少額特例」を利用することもできます。ただし、この場合でも1万円以上の課税仕入れについてはインボイスが必要となるため、基本的にはすべての課税仕入れについて請求書等を受領し、1万円以上のもののみインボイスチェックを行うなどの対応をとるのが望ましいでしょう。

まとめ

「ただでさえ忙しいのに、ここまで対応するのは無理!」と感じた事業者さまも多いことと思います。インボイス登録のために新たに課税事業者になる場合には「2割特例」か「簡易課税」、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合は「簡易課税」を選択することで、このようなインボイスチェックは不要となります。消費税の原則課税と簡易課税の有利不利にかかわらず、負担軽減のために「簡易課税」を選択するという方法もあるでしょう。

インボイスチェックを避けられない場合でも、経理業務を見直し、インボイス対応を行っている各種クラウドサービスを駆使した経理フローを構築することで、負担を軽減することが可能です。
また、インボイス対応のサービスを行っている記帳代行会社や会計事務所に、インボイスチェック自体を委託してしまうということも可能です。自社の経理業務の増加量と業務委託料を比較して、自社の状況に適した方法を検討することをお勧めします。

インボイス制度下での経理フローの構築にご不安のあるお客様は、ぜひキャシュモ担当者にご相談ください。

「インボイス制度」ってどんな制度?過去回はこちらから。
第1回 インボイス制度について
第2回 登録申請手続
第3回 売手の留意点
第4回 売手の留意点:「売手負担の振込手数料」の経理処理
第5回 請求書等の交付がない場合の対応
第6回 免税事業者からの仕入れがある場合の取引条件の見直しの検討
第7回   買手側の留意点
第8回 インボイス制度開始後の経理業務はどう変わる?~インボイス制度が経理業務に与える影響~
第9回 売手側における事前準備の実務手順
第10回 インボイス制度開始までに免税事業者が対応すべきことは?

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