日本企業は内部留保が多い?経営者なら知っておきたい影響

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2008年のリーマンショック以来、日本企業は内部留保を増加させ、内部留保が多い国といわれるようになりました。

内部留保を増加させることは、株主への配当が小さくなり、従業員の賃金へ還元されないため世間から批判が多いのが実情です。国は「留保金課税」という税制を作り、特定の会社に対して資金流出のプレッシャーをかけてきました。

しかし、2020年のコロナウィルスの流行から、この内部留保について見直されるようになりました。内部留保が潤沢な企業がコロナ禍のリスクに耐え、結果として内部留保が企業の財務を支えたのです。

そこで今回は「内部留保とはそもそも何なのか」という基本的な内容から、「内部留保について批判される理由」「それでもなお内部留保を高めるべきなのか?」などをご紹介します。

経営者は経営判断のために、「内部留保」についてしっかりと理解をしておくことが重要です。内部留保についてまだ理解が足りていない部分がある、という心当たりのある方はぜひ本文を確認して経営判断にお役立てください。

内部留保とは?

では、内部留保とは何のことか。基本的な内容からおさえていきましょう。

簡単にいうと、利益から社外流出分を除くことで、社内に残る利益部分です。内部留保には様々な観点があるため、社外流出にどこまで含めるかは議論のある部分ですが、税金、従業員や役員に対する賃金、賞与、退職金、また株主に対する配当と考えていただけるといいでしょう。財務の健全性を示す指標としても利用されます。

また、内部留保=現金預金、とイメージされがちですが、内部留保は会計でいうところの利益剰余金に該当するため現金預金がそのまま余っているというわけではありません。利益剰余金は、収益から費用を差し引いた当期純利益(損失)が毎期累積して構成されます。収益には評価益などの含み益も含まれるため、現金化していないものも含まれているのがポイントです。

内部留保があるから、とあてにしすぎたらお金が足りなかった、ということもありえるので内部留保と現金は分けて考えましょう。

日本で内部留保が多い理由

次に、日本で内部留保が多い理由についてご説明いたします。

戦後の経済成長からバブル、バブル崩壊後2000年ごろまで、企業の内部留保は主に設備投資に使われてきました。この時期の企業の利益剰余金は財務省の法人企業統計調査によると20%前後でした。その後、2000年以降は人件費削減、法人税の減税、事業環境の改善による利益の増幅などから内部留保が増加しました。

内部留保の増加により生まれた資金は少子高齢化など経済成長への期待感が失われることにより、年々、設備投資に使われなくなってきます。財務省の法人企業統計調査によると2016年の利益剰余金は40%前後、2020年の内部留保は9年連続で過去最高となります。

このようにして日本は会社内に資金が蓄えられるようになります。

内部留保が多いと成長への意欲が後ろ向きと批判もありますが、2020年のコロナ禍においては、倒産を回避したり、資金繰りに困らなかったりと内部留保が企業を支えました。経済成長への見込みがたつまで、日本企業の防衛策として内部留保を高める流れは続くでしょう。

内部留保を高める具体的な方法

それでは次に内部留保を高める具体的な方法をみていきましょう。

内部留保を高める方法には「人件費を減らす」「配当を減らす」「利益を大きくする」の3つがあります。

「人件費を減らす」は、人員を最小限にとどめる、給与や賞与の金額が過剰となっていないか、計画通りに運用できているかなど従業員の不満を増幅しない範囲で調整をしていきましょう。給与はデリケートな部分であるため、安易に削減すると生産性が低下します。

「配当を減らす」は、株主の理解が十分に必要な方法です。というのも、株式会社の経営者の役割は利益を株主に還元することだからです。配当を減らした結果、企業の今後の業績があがり株主側にメリットがあることを論理的に説明して理解を得ましょう。
当然といえば当然ですが、上場していない会社、株式会社以外の会社は配当を減らして内部留保を増やすという手段は選べません。

「利益を大きくする」は、当期純利益を増やすために事業を大きくしたり、新規事業をたちあげたり、不要なコストをカットする、などさまざまな施策が考えられます。採算がとれない部門の見直しや、固定費の見直しなど会社全体の利益にかかわる数字を整理していきましょう。

以上のように、生産性をおとさない範囲で人件費を削減したり、配当を減らしたり、当期純利益を増やして会社の内部留保を高めることができます。

内部留保が高いことのデメリット

では逆に内部留保が高いことによるデメリットについても押さえていきましょう。

内部留保が高いことは、社会問題として新聞やニュースでとりあげられることも少なくありません。その際によく言われるのが

・企業が過剰に現金預金を内部に蓄えているのではないか
・従業員の給与に還元されてない
・配当を渋ることによって株式市場が活性化しない
・設備投資を行わないので景気が上向かない

などの批判です。社会にお金が行き渡らず、使われないことで景気に影響すると考えられています。このように会社が利益を内部に蓄えることはネガティブな印象を抱かれやすいのですが、特に特定同族会社と呼ばれる筆頭株主のグループで50%以上株式を保有するファミリー企業については「留保金課税」という税金が課されています。

これらの課税がされる場合については、内部留保に10%~20%程度税金が課されます。
(後述しますが、この税金は大企業に適用される税制のため、基本的には中小企業に適用されることはありません。)

また、現金を過剰に手元に残していることで、収益を生み出さない資金をかかえることになるため、事業の成長を止めかねない面もデメリットと捉えることができるでしょう。

内部留保に関する税金・会計

内部留保に関する税金・会計についてご紹介いたします。

会計上、「内部留保」という勘定科目はありません。しかし、税務上は「留保金課税」という税金が存在します。「留保金課税」は、特定の条件にあてはまる会社の内部留保にあたる部分に課税される法人税法上の税金です。その「留保金課税」の適用条件および計算方法についてご紹介します。

特定同族会社とは、同族株主グループの株式の割合が発行済み株式の総数の50%超の会社をいいます。同族株主グループとは、親族や内縁関係の者、使用人、また個人株主から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者をいいます。身内をイメージするとわかりやすいでしょう。またこれらの同族株主グループが50%超所有している同族会社も同族株主グループに含まれます。つまり支配関係にある個人や会社も同族株主グループに含まれるということです。

「留保金課税」の計算方法は

(留保所得金額―法人税等の金額)―留保控除額=課税留保金額

このようにまずは課税留保金額を求め、このあと、この課税留保金額に税率を乗じます。

課税留保金額×特別税率(10%~20%)=税額

留意点として、資本金が1億円以下の法人は基本的には留保金課税の適用がありません。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

内部留保は日本国内では批判が多い一方、コロナ禍で企業を助けたことが評価されています。

日本企業は、内部留保が高い傾向がありますが、2000年以降の景気後退に基づく設備投資の減少、法人税の減税、事業環境の改善など必然的に内部留保が高くなったともいえるでしょう。

内部留保を高めたい場合については今回3つの方法をご提案させていただきましたが、従業員や役員の給与、株主への配当を減らすなど繊細な判断が求められます。また事業計画の見直しや、コストカットについても客観的な判断ができず困る場合もあるでしょう。

キャシュモでは、財務コンサルタントが、内部留保の適正化を始め、様々な経営課題へのアドバイスを提供します。また税金や労務に関する相談も、税理士・社会保険労務士を含めたチームで対応しますので、ワンストップでのサービスを提供します。内部留保に限らず、経営に関するお悩みは、ぜひキャシュモへご相談下さい。

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