今年も残すところ3ヶ月、年末調整の時期となりました。
2020年分の年末調整からは、所得控除の見直しなど複数の改正が適用されるため、申告書の作成や年末調整の計算が複雑化することが予想されています。
今回は、2020年分の年末調整における変更点についてご紹介します。
変更点①給与所得控除の引下げ
給与所得控除とは、所得税の計算において、給与所得者の給与等の収入金額(年収)から控除される金額のことです。給与所得控除額は、年収に応じて段階的に設定されていますが、この控除額が一律10万円引き下げられるとともに、控除を受けることができる年収の上限および控除額の上限が引き下げられました(年収850万円超は一律195万円)。
変更点②基礎控除の引下げ
基礎控除とは、所得税の計算において、すべての所得者が控除することができるもので、昨年までは一律38万円が控除されていました。2020年分からは、この基礎控除額が最大48万円に引き上げられる一方で、所得制限が設定され、所得が2,400万円を超える高所得者については段階的に控除額が引き下げられました。
変更点③所得金額調整控除の創設
1・2の改正により、年収850万円を超えると所得税が増税となります(年収850万円以下の所得税は変更なし)。ただし、年収が850万円を超えていても介護や子育てが必要な世帯については負担が増えないよう、新しく所得金額調整控除という控除が創設されました。所得金額調整控除の適用を受けることができるのは、年収850万円超、かつ、以下の3つの条件のいずれかに該当する所得者となります。
(イ)本人が特別障害者である場合
(ロ)23歳未満の扶養親族がいる場合
(ハ)特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる場合
ポイント
共働き世帯の場合、扶養控除の対象となる「扶養親族」は、夫婦のいずれか一人の扶養とみなされるため、一人の子どもに対する扶養控除は夫婦のどちらか一方しか受けることができません。
一方、所得金額調整控除の適用については、扶養控除とは異なり、扶養親族に該当する23歳未満の子どもがいる場合には、夫婦の双方で所得金額調整控除の適用を受けることができます。
したがって、子どものいる共働き世帯の場合には、世帯で考えると実質減税となる可能性があります。
変更点④扶養親族等の合計所得金額要件の見直し
上記の改正に伴い、各種所得控除の対象となる配偶者等の所得金額要件が10万円引き上げられました。年収要件としては従前と変わりません。
変更点⑤未婚のひとり親に対する税制上の措置および寡婦(寡夫)控除の見直し
婚姻歴や性別にかかわらず、所得金額が500万円(年収678万円)以下のひとり親で生計を同じとする子がいる場合には、「ひとり親控除」として35万円を控除することとなりました。
また、所得金額が500万円(年収678万円)以下で、子以外の扶養親族がいる寡婦(寡夫)または扶養親族がいない寡婦(寡夫)については、引き続き寡婦控除として27万円が控除されます。
これにより、所得金額500万円以下のすべてのひとり親に同様の控除が適用されることになります。
以上が、2020年分の年末調整の税制上の変更点となります。
なお、2020年は年末調整の手続き自体にも変更点があるため、最後にご紹介させていただきます。
年末調整手続きの電子化
年末調整時に提出する保険料控除証明書等については、従来は書面(ハガキ等)での提出が必要でしたが、2020年分の年末調整より、電子データでの提出が可能となりました。これに伴い、国税庁からも電子データから申告書を作成できる「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」が無償提供され、国を挙げて年末調整業務の効率化に取り組んでいます。
出典:国税庁HP
今までは、従業員が保険会社などから届いた控除証明書の内容を申告書に転記し、控除証明書と併せて会社に提出。提出後、労務担当者が申告書と控除証明書をチェックする、というフローでした。
出典:国税庁HP
2020年からは、控除証明書等の情報をマイナポータルや保険会社等のHPから電子データで取得できるようになります。取得後、国税庁の「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」を利用して電子データをインポートし、年末調整申告書の電子データを作成。そのデータを労務担当者が給与システム等にインポートし、年税額を計算する、というフローが可能になります。
年末調整手続きの電子化のメリットは?
《会社側のメリット》
① 従業員への申告書用紙の配布・周知・回収の事務負担の軽減
② 記載チェック・検算などの確認事務の負担の軽減
③ 電子化による年末調整書類の保存コストの削減
《従業員側のメリット》
① 手書きによる手続を省略でき、年末調整申告書の作成が簡単になる
② 控除証明書等データを紛失しても再取得が容易
③ 提出のオンライン化により押印が不要
おわりに
2020年分の年末調整では、上記のとおり多くの改正が適用されており、申告書の様式も変更され、以前にも増して記載方法が複雑かつ難しくなっています。国税庁から提供される「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」以外にも、質問に答えるだけで申告データが作成できるクラウドサービスなどが数多く提供されていますので、業務の効率化、ペーパーレス化のためにもご利用を検討されることをお勧めします。
キャシュモグループでも、2020年分年末調整より本格的に年末調整の電子化を進めていきます。ご興味のある方は、ぜひ担当者までご相談ください。