組合健保と協会けんぽ 経営者が知っておくべき健康保険の基礎知識

労務お役立ち情報

労働者等の業務災害以外の疾病等に対しての保険給付を 行うために健康保険があります。我が国では国民皆保険とされ、生活保護受給者を除き、必ずいずれかの健康保険に加入しなければなりません。

法人企業へ勤める会社員の場合は原則として、国民健康保険ではなく、健康保険への加入が必須となり、健康保険には組合健保と協会けんぽの2つの選択肢があります。

今回は、経営者として知っておくべき健康保険の基礎知識にフォーカスをあて解説していきます。

健康保険とは

会社役員や労働者とその被扶養者の業務災害以外の疾病等に対して保険給付を行う制度です。保険給付とは端的には体調を崩し、病院に受診した際に健康保険証を提示することで、3割の負担で済むということが最も馴染みのあるサービスと言えるでしょう。

健康保険への加入は法律上避けることはできません。そこで経営者目線では同じ健康保険であっても組合健保と協会けんぽではどのような相違点、メリットとデメリットがあるのかは気になる部分です。

端的には、中小企業が加入する場合、ほとんどのケースで協会けんぽとなります。反対に一定規模以上の企業が加入する方が健保組合となりますので、詳しく内容を確認していきましょう。

健保組合とは

健保組合とは企業単独またはグループ等の複数の単位で設立するケースに分けられ、都道府県別に存在する協会けんぽとは全く別の組織となります。

前提として、企業が単独で健保組合を設立する場合を単一健保組合と呼びますが、事業場で勤務する被保険者が常時700人以上、2以上の事業所が共同で設立する場合は被保険者が合計3,000人以上であることが要件となります。

そして、実際に設立させるには、設立しようとしている事業場で、勤務する被保険者の2分の1以上の同意(事業場が2以上の場合には各事業場の2分の1以上の同意)が必要となり、最終的には厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。

よって、一朝一夕にできるものではありませんので、健保組合を設立する意図を明確化し、経営者と被保険者が一枚岩となり進めていくという姿勢が重要です。当然、設立はゴールではなくスタートです。設立後も地方厚生局等へ各種資料を届出し、必要な報告、労使間での協議、調整を行っていくことが求められます。

次に健保組合のメリットを確認します。メリットは大きく分けて3つあります。

保険料

協会けんぽの健康保険料は、都道府県ごとに定められており、当該保険料を労使折半となっています。これは都道府県ごとに定められていることから、会社の所在地が決定した時点で保険料も決定することを意味します。

反対に健保組合の保険料は一定の範囲内で組合が自主的に決定でき、かつ、労使の負担割合も独自に決定が可能となります。

よって、安定した財政状態の健保組合であれば、協会けんぽよりも安価な保険料となる 場合があり、協会けんぽよりも自由度の高い設計になっています。

経営者目線では、健康保険料の支払いは毎月発生するものであり、保険料が安いというメリットを享受するために上記の1にメリットを感じ、協会けんぽから健保組合への移行を検討する場合も少なくありません。

付加給付

労働者等が医療機関で診察を受けた際には原則として3割の負担が生じます。この点は協会けんぽでも健保組合でも同じです。

しかし健保組合では、出産時に独自の給与を設けるなど、法律を上回る「付加給付」を受けられる場合があります。
この点も健保組合のメリットとなります。

信頼できる企業の証

組合健保を設けていることは福利厚生に注力している企業であることの証にもなり、一定の求人効果や、勤務する労働者への長期勤続への誘引にもなるでしょう。

また、上記2点のメリットで述べたとおり、組合内で保険料を決定できるという側面は、協会けんぽと比べてより健康保険制度をより身近に感じることができ、被保険者の意見が反映される機会があるという 意味でも健保組合のメリットと言えます。

協会けんぽとは

協会けんぽは、北は北海道、南は沖縄県まで支部が設けられています。多くの経営者にとって気になるのは、健康保険料が都道府県ごとに変わる点です。

例えば、執筆時点でも、神奈川県と東京都では東京都の方が健康保険料は低額となります。ただし、一度決定した保険料は不変ではなく、例えば本社が神奈川県から東京に移転した場合は、「適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」を移転前の神奈川県の所轄年金事務所へ届け出ることで、保険料も東京都のものに変更されます。

日本の企業の9割以上は中小企業なので、加入企業数は協会けんぽが大多数となります。しかし健保組合にはメリットも多いので、会社規模が大きくなった際に、協会けんぽから健保組合への変更を検討する企業も少なくありません。

健保組合と協会けんぽの相違点とは

健保組合も協会けんぽも、適用される法律は健康保険法ですが、保険料は両者で異なります。

多くの場合は、健保組合の方が協会けんぽよりも低額です。なお、保険料は被保険者数および被扶養者数、医療費、年齢構成、標準報酬月額、標準賞与額などを総合的に勘案し、設定すべきことはもちろん、将来にわたって安定的な運営が可能な保険料水準でなければ長期的な運営が困難となることから、過度に低額な保険料を設定すると健保組合の設立が認可されない可能性もあります。

健保組合と協会けんぽのメリット・デメリットとは

組合健保のメリットは保険料が協会けんぽより安価な設定が可能であることや、付加給付の設定が可能であることを述べてきました。

反対にデメリットとしては、多くの組合が赤字経営に陥っており、黒字経営していくには、相応の経営努力が必要となります。参考までに下記のデータを記載します。

健保組合数は2019年時点で約1,388組合あり、労働者とその家族を中心に約3,000万人が加入しています。しかし、2019年4月1日付で大規模組合を含む5組合が解散するなど、厳しい時代となっており、赤字組合は全組合の6割を超える約856組合となっています。

【引用 健康保険組合連合会

よって、デメリットとしては、安定的な運営を継続するには相当の経営努力が必要であることが浮き彫りになっているということです。

協会けんぽのメリットについては、2008年10月から、旧来、社会保険庁で運営していた政府管掌健康保険を全国健康保険協会が設立され運営していくこととなりました。

通称「協会けんぽ」と呼ばれますが、厚生労働省所管の特別の法律により設立された法人であり、日本最大の保険者であることから、財政的に厳しい状態に陥った健保組合と比較するとなると協会けんぽの方が安定しているとも言えます。

反対にデメリットについては、健保組合とは異なり、加入する中小企業単体の意思で保険料率を設定することが出来ないという点が挙げられます。

会社としての選択肢は?

企業として永続的に発展し事業運営をしていくには、毎月発生する人件費(健康保険料)は無視できません。健保組合へ加入することで、協会けんぽより安価な保険料の設定が可能となります(その後も安価な保険料を継続できるかは別問題。

また、付加給付を設ける等、健保組合独自のインセンティブを付与することで、労働者の帰属意識を高められるというメリットがあります。このようなメリットを考えると、組合健保の方が優位であると思われますが、一方で健保組合の財政面を考えると、必ずしも組合健保が優れているとも言えません。健康保険を選択する際は、この記事で述べたような点を充分考慮のうえ、各社の状況に合わせて選択することが重要です。。

最後に

健康保険への加入は会社として避けて通ることが出来ませんので、協会けんぽへの加入、けんぽ組合の設立、そのタイミングなど、自社にとってのメリットを勘案し、専門家を交え決断することが肝要です。

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