健康診断はほとんどの企業で定期的に実施されていますが、実は法律で定められた企業の大切な義務の1つです。
その実施の対象となる社員や検査の項目など、健康診断について企業がおさえておくべきポイントをご紹介します。
企業が健康診断をおこなうべき4つの理由
企業が健康診断をおこなうべきである理由について、4つの観点から説明します。
法律で定められているから
社員への健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条により企業の義務として定められています。
またこの健康診断実施の対象となっているのは正社員だけではなく、パート社員や契約社員でも、次の要件の両方にあてはまる場合には、健康診断を受けさせる必要があります。
・契約期間が1年以上
・同じような業務である通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上勤務している
これらの内容は、個人事業や中小企業、大企業といった企業の規模や職種に関係なく適用されます。
なお派遣労働者に関しては労働者派遣事業法にもとづいて、一般健康診断は派遣元で実施しますが、有害業務従事労働者の特殊健康診断については派遣先で実施します。
健康診断の結果を保管する義務があるから
労働安全衛生規則第51条により、企業は健康診断を実施するだけでなく、その結果から個人票を作成し、原則5年間保管する義務があります。本人に結果を渡した上で、企業でも保管しておく必要がある点に注意しましょう。また企業で健康診断の結果を保管する場合には、口頭や書面、メールなどで本人の同意を得る必要があります。
なお、社員が自分で健康診断を受けた場合、企業での実施と結果の保管が義務づけられている一般健康診断の項目以外は、保管の義務がありません。
派遣労働者の取り扱いについては、一般健康診断は派遣元でおこなうので、その結果も派遣元で保管するのが一般的です。なお、派遣元の事業者が派遣労働者の同意を得ずに、派遣先へ健康診断結果を渡すことなどは禁止されているので、注意が必要です。
健康診断の結果を労働基準監督署に報告する義務があるから
労働安全衛生規則第52条により、常時50人以上の労働者を使用している事業者は、健康診断結果を所轄労働基準監督署長へ提出することが義務づけられています。
雇入れ時の健康診断結果には提出義務がなく、提出義務があるのは定期の健康診断についてのみです。
また、有害な業務に常時従事する労働者がおこなう特殊健康診断の結果については、使用している労働者の人数に関係なく、全ての事業者に提出の義務があります。
社員が健康的に働く環境をつくる義務があるから
社員は企業にとって大切な存在ですから、健康診断によって健康異常をいち早く見つけ、社員が健康的に働けるよう対処する必要があります。このため、健康診断で所見ありと診断された労働者については、通常の勤務を続けて良いのか、休ませる必要があるのかなどについて、医師などへの意見聴取をおこない、対処する必要があります。
この意見聴取をおこなう医師について、労働者が50人以上の事業場(企業全体ではない)の場合は、産業医の資格をもった医師を選任する義務があります。
労働者が50人未満の事業場の場合には、地域産業保健センターの相談窓口などを活用し、労働者の健康管理について必要な知識をもった医師などから意見聴取をおこないます。
企業が健康診断をおこなわなかった場合の罰則
健康診断は労働安全衛生法第66条で定められた企業の義務ですが、これを守らなかった場合には罰則があります。
健康診断を実施せず違法行為とみなされた場合、まず労働基準監督署から指導が入ります。それでも健康診断を実施しなかった場合には、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金となります。
健康診断の種類と検査項目
健康診断には雇入れ時や定期検診をはじめ、次のような種類があります。
また雇入れ時の健康診断と定期健康診断の検査項目は次のとおりです。
【検査項目】
・既往歴、業務歴の調査
・自覚症状、他覚症状の有無の検査
・身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
・胸部エックス線検査、喀痰検査(雇入れ時の健康診断では喀痰検査はなし)
・血圧の測定
・貧血検査
・肝機能検査
・血中脂質検査
・血糖検査
・尿検査
・心電図検査
定期健康診断に限っては、医師が総合的に判断して必要でないと認めたときには、省略できる項目があります。
企業が知りたい健康診断の疑問点5つ
企業が健康診断を実施する上で、よくある疑問点5つを解説します。
入社時にも健康診断が必要なのか
通常、入社の直前か直後に健康診断を実施する必要があり、これを雇入れ時の健康診断といいます。
ただし入社前の3ヶ月以内に、雇入れ時の健康診断で必須となる検査項目を検査していて、その結果を会社に提出できる場合には、雇入れ時の健康診断は不要となります。
どのくらいのペースでおこなう必要があるのか
各健康診断をおこなうべき時期は次の表のとおりです。
何処でどのようにおこなうべきなのか
健康診断の実施方法に特に決まりはなく、企業で指定した病院を受診したり、各自で予約して受診したりと、企業によってさまざまです。
健診車などを事業場に手配して受診させると、受診直前まで業務ができ、受診直後もすみやかに業務に戻れるため、社員の負担も少なく済みます。
また各自で予約して受診させる場合には、受診する検査項目に間違いがないよう、注意しましょう。
健康診断の時間も賃金の支払いは必要なのか
一般健康診断については、業務をおこなう上での直接的な関連はないため、賃金の支払い義務はないとされています。
ただし、企業の運営を円滑におこなうために必要不可欠であることを考えると、健康診断を受けた時間についても賃金を支払うことが望ましいとされています。
また注意しておきたいのが、特殊健康診断については、業務をおこなうために必ず実施が必要な健康診断ですので、賃金の支払い義務があります。
健康診断の費用はだれが負担するのか
健康診断の費用は、労働安全衛生法に定められた必須の検査項目については企業が負担します。
このため、これ以外の検査費用については企業に負担義務はないので、各自で予約をさせる場合には費用の負担範囲を伝えておくようにしましょう。
まとめ
一言に健康診断といっても、その対象者や検査項目などは法律により細かく決められています。ただ健康診断をおこなうだけでなく、その結果を保管したり報告したりする義務もあるので、この点はしっかりおさえておきましょう。
健康診断については社員の関心が高いこともあり、さまざまな質問があることも予想されます。
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