厚生労働省は、近年の社会情勢の変化等に鑑み、最新の医学的知見を踏まえて「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」において検討を行い、7月に報告書が取りまとめられたことを受けて、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、9月に通達を発出しました。改正内容の1つとして心理的負荷が生じる具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)や「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」が追加されました。
今回はその中で、カスタマーハラスメントについて紹介していきます。
労災認定の要件
労災として認定される業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。業務上の負傷、疾病、障害または死亡であるか否かは、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件に基づいて判断されます。
「業務遂行性」とは、労働者が怪我や病気をしたとき使用者の支配下にある状態で業務をしていたかどうか、「業務起因性」とは、労働者に生じた災害と業務に関連性があったかどうかを意味します。
今回の改正でのカスタマーハラスメントの追加
事故による身体的な怪我だけでなく、長時間労働やパワハラなどによる精神疾患も労災として認定される場合があります。その認定基準として「業務による心理的負荷評価表」が用いられますが、今回の改正によりカスタマーハラスメントが具体的出来事として新たに追加されました。
また、今までの具体例は、包括的な記載が多くありましたが、具体的な例を拡充し、具体的出来事において「強」「中」「弱」の強度ごとに例示してより明確になりました。
例えば、新たに追加された具体的出来事の「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ケースにおいて、心理的負荷が「強」と判断された場合、労災認定基準の要件の1つを満たすことになります。
以下は厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」から一部抜粋したものです。
・顧客等から、治療を要する程度の暴行等を受けた
・顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた
など
「中」の例
・顧客等から治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない
・顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を受け、行為が反復・継続していない
など
「弱」の例
・ 顧客等から、「中」に至らない程度の言動を受けた
これらの迷惑行為に至る状況、反復・継続など執拗性の状況、その後の業務への支障、会社の対応の有無等が総合評価されることになります。
参照:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け 基発0901第2号)
カスタマーハラスメントの発生状況
厚生労働省の実態調査で、ハラスメント等について、過去3年間に相談があったと回答した企業の割合は、パワハラ、セクハラに続いてカスタマーハラスメントが高く、相談件数は増加傾向にあります。
受けた行為の内容は、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」、「著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要等)」の回答割合が高く出ています。
顧客等からの著しい迷惑行為を受けての心身への影響として、「怒りや不満、不安などを感じた」、「仕事に対する意欲が減退した」という回答割合が高く、結果的に「眠れなくなった」、「通院したり服薬をした」という深刻な影響も確認されています。
労働者の就業環境が害されることで業務のパフォーマンスの低下や健康不良を招くものと考えられます。
会社が講ずべき対策
会社は、カスタマーハラスメント対策への取り組み姿勢を明確に示す必要があります。会社として姿勢を明確にすることにより、労働者を守り、尊重しながら業務を進めるという安心感が生まれます。
相手が顧客や取引先となると、言いたいことも言えずに我慢することになり、最後には自分を追い詰めてしまうかもしれません。
会社に相談しやすい雰囲気作りや顧客や取引先との関係性を把握し、会社として適切な対応をしていくことが求められます。
今回の改正を機会に厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考にしながら職場環境を見直してみましょう。
参照:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」