会社を守る雇用契約書・労働条件通知書

労務お役立ち情報

新年度を迎え、新しく社員を雇い入れた会社も多いことと思います。入社の際、雇用契約書や労働条件通知書(以下、雇用契約書等)は交わしていますか?中小企業では、いまだ交わしていない場合も多くみられます。しかし、雇用契約書等を整備することは、労働者に安心感を与えるとともに、ひいては会社を守ることにもつながります。現在、雇用契約書等を交わしていない場合は、一般的なひな形を用いて、ただちに締結されることをおすすめします。ひな形は、厚生労働省webサイトでも提供されています。

今月号では、いざというときに会社を守れる、経営者が知っておくべき雇用契約書等のキホンと、一般的なひな形を用いた場合の注意点について解説します。

雇用契約書・労働条件通知書の重要性

使用者は、採用時に労働時間や賃金等を明示しなければならないことが労働基準法で定められています。実際の中小企業においては、「作るのが面倒だから」「書面を従業員に渡すと後で変更しにくいから」などという理由で、作成していない場合もあります。しかし、労働トラブルが発生した際に、雇用契約書や労働条件通知書(以下、雇用契約書等)が存在すると、ほとんどの場合、使用者に有利に働きます。

例えば、時間外労働に関するトラブルが生じた場合、雇用契約書等があれば、そこに記載されている労働時間や休憩時間を起点として、本当に時間外労働があったのか検討することになります。一方で、雇用契約書等が存在しない場合、裁判所は実際の労働時間を起点として時間外労働を推定します。使用者としては、これを覆す材料がないことになります。休憩時間についても、「休憩時間はほとんどとれなかった」という労働者の主張を起点として、労働時間の算定が行われかねません。

このように、正しく雇用契約書等を整備することは、会社を守ることにつながります。

雇用契約書と労働条件通知書のちがい

法的に雇用契約を成立させる際、契約そのものは口約束で成立するため、「雇用契約書」という書類の作成は不要です。しかし、使用者は雇用契約成立後、一定の労働条件について書面により明示しなければなりません。これを「労働条件通知書」と呼んでいます。このふたつの書類の違いは、「署名捺印の有無」です。雇用契約書は、使用者と労働者の双方が内容に合意し、署名捺印を取り交わすのに対し、「労働条件通知書」は、使用者が一方的に労働者に渡す書面というイメージです。

労働条件通知書の作成により、労働基準法の定めはクリアしていますが、会社を守るという側面から考えると、雇用契約書も作成しておくほうがよりよいでしょう。実務上は、二種類の書面を作成することが負担になるため、「労働条件通知書兼雇用契約書」とし、「本労働条件通知書の内容に同意します。 署名押印」欄を備えた書面を作成することもあります。

労働条件通知書の注意点

労働条件通知書には、必ず記載しなければならない事項があります。これを「絶対的明示事項」といいます。一般的なひな形を使用した場合の、各項目の注意点は次のとおりです。

労働契約の期間 むやみに契約期間の定めなしで契約すると、後に深刻な解雇問題に至るおそれがあります。
就業場所 固定してしまうと、後に変更させることが困難になります。

将来的な事業展開にも考慮し、「なお、業務上の必要がある場合には、変更することがある」という柔軟な一文を加筆しておくことをおすすめします。

業務内容
就業時間 実態と異なる労働時間を記載すると、訴訟などで証明力が減る可能性があります。
休日
休暇 むやみに法定以上の休暇を規定すると、後に撤回することが困難になります。
賃金 固定残業制について、その有効性について厳しく判断される傾向にあります。その他変形労働制なども法定の要件を満たしているか確認し、慎重に記載する必要があります。
退職 社内が高齢化した場合にそなえ、定年を定めておくことをおすすめします。

参考資料:「ビジネスガイド 2016年2月号」株式会社日本法令

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