中小企業にフレックスタイム制は必要か?

労務お役立ち情報

多様な働き方が推進され始めた現在、定労働時間制の他に様々な労務管理手法が採用されています。

多様な働き方の一つとして「フレックスタイム制」が挙げられます。フレックスタイム制は労働者の職業生活と家庭生活との調和を図るための制度として注目を集めています。

フレックスタイム制は労働基準法に根拠規定が置かれる正当な労務管理手法の一つで、大企業では積極的に活用されていますが、中小企業でも活用できるのかという問題があります。

今回は、対象範囲を中小企業に限定し、中小企業においてフレックスタイム制は必要か否かにフォーカスをあて解説します。

フレックスタイム制とは

前提条件として、フレックスタイム制は一定の期間(1~3か月)の総労働時間を定めておき、労働者にその範囲内で始業および終業の時刻の決定を委ねる制度です。どちらか片方のみの決定に委ねる制度ではフレックスタイム制ではありません。

しかし、どのような企業であってもこの時間帯は働いてほしいという場合もあるでしょう。そのような場合には「コアタイム」を設定するのが通例です。コアタイムとは、その日に必ず働かなければならない時間帯を指します。例えば顧客からの問い合わせが集中する時間帯や、定例の会議やチームでの業務があるためにコアタイムを設定する企業は少なくありません。

また、コアタイム以外の勤務可能時間帯を定めるフレキシブルタイムというものもあり、これは労働者が選択可能な働く時間です。例えば会社のセキュリティ上の関係で、深夜に出勤されては困るということもあるでしょう。その場合には、フレキシブルタイムで〇時~〇時までと設定することです。尚、フレックスタイム制は深夜の割増賃金は適用除外となりませんので、もし、労働時間が深夜に及んだ場合は深夜割増賃金が必要となります。

尚、労働基準法上、コアタイムもフレキシブルタイムも導入義務はありません。

フレックスタイム制のメリットとデメリット

フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制は始業および終業の時刻を労働者が決めることが出来るために、子育て中の有能な労働者にとって、離職を検討せずに働き続けられるメリットがあります。通常の固定労働時間制であれば、例えば保育園への送迎が本来の所定労働時間内である場合、日常的に遅刻早退が発生しますが、フレックスタイム制を採用することで、解消されます。

次に、労働基準法上の時間外労働については、1日と週で一定の時間を超えた場合に時間外労働として、割増賃金を支払わなければなりません。突発的に、業務の都合上1日だけ退社が遅くなった場合で、かつ、その日の労働時間が8時間を超えた場合には8時間を超えた以降の時間に対して25%以上の割増分を付加した賃金を支払わなければなりません。しかし、フレックスタイム制は「総労働時間」を超えていなければ割増賃金の支払い義務は発生しません。よって、労働時間を適正に調整する(例えば前日に遅くなった労働者に対して翌日はチームで仕事を割り振り早めの帰宅を促す)ことで残業代の支払いが生じないという点もメリットです。

フレックスタイム制のデメリット

フレックスタイム制の特性上、始業および終業の時刻を労働者が決定することから、必ずしも労働者が社内にいてほしい時に社内にいるとは限らない点です。特に大企業であれば「フルフレックスタイム制」と言い、コアタイムのないフレックスタイム制を採用している場合がありますが、その場合、定刻のミーティングを開催するとしても、労働者には就労義務がありませんので、社内にいないということも想定できます。そのような場合であってもいなかったことを理由に不利益な取扱いはできません。

次に、光熱費がかさむ点です。フレックスタイム制を採用した場合、導入前より幅広い時間帯で業務が可能になります。労働者全員が同じ時間帯に出退勤するとは考え難いことから、会社としてはより長い時間稼働している状態となります。必然的に光熱費が上がることが予想されます。

どのような中小企業がフレックスタイム制採用に向いているのか

突発的な残業がある場合にはフレックスタイム制採用に向いているといえるでしょう。

フレックスタイム制の場合、残業代の支払いは日単位で計算するわけではなく、予め決められた「総労働時間」を超えた分を残業代として支払うこととなります。例えば清算期間が1か月のフレックスタイム制を採用し、その月が31日で週の法定労働時間が40時間の場合は177.1時間が総労働時間となります(30日の場合は171.4時間)。すなわち、フレックスタイム制を採用すると清算期間を平均し、1週間または1日の法定労働時間を超えて労働しても残業とはならないため人件費の節約になると言えます。

フレックスタイム制導入時の注意事項

導入するにあたっては就業規則その他これに準ずるものに定めることがスタートとなります。そして、以下の項目について労使協定の締結が必要です。

・対象労働者の範囲
・清算期間(3か月以内の期間に限る)
・清算期間における総労働時間
・標準となる1日の労働時間

以下は任意項目です。

・コアタイム(定める場合はその開始および終了の時刻)
・フレキシブルタイム(定める場合は開始および終了の時刻)

尚、労使協定については、1か月超のフレックスタイム制を採用する場合、事業所所轄の労働基準監督署へ届出が必要となります。

一般的には、精算期間が1か月を超えると1か月以内の場合と比べて管理しなければならない項目が多岐にわたることから、まずは精算期間が1か月のフレックスタイム制で運用を開始し、必要に応じて1か月超のフレックスタイム制の導入を検討するというケースが多いです。

フレックスタイム制の成功事例

多くの事業所では常に繁忙期と言うことは多くなく、繁忙期(例えば月末)とそうではない時期(例えば月の中途)があります。

通常の固定労働時間制の場合、繁忙期ではない時期であっても必ず定められた終業時刻までは在社していなければ欠勤控除の対象となります。しかし、フレックスタイム制を導入することで生産性のある働き方が可能となります。

具体的には繁忙期ではない時期には早めに帰宅して家族との時間を楽しみ、繁忙期にその分を働くという働き方が可能となり、仕事と家庭生活の調和を図ることができたという成功事例があります。

フレックスタイム制の失敗事例

いきなり大企業のようにフルフレックスタイム制を導入した事例です。

人員が多いとは言えない中小企業の場合、大企業とは異なり明確に担当課、担当業務が区分されていることは少なく、お互いがフォローし合って業務を遂行することが通常です。よって、人員が欠けている状態では顧客が求めるサービス水準を満たすことが難しく、「対応が遅くなった」と、クレームに発展してしまった事例があげられます。

まとめ

フレックスタイム制は労働者にとって仕事と生活の調和が図りやすくなり、多くの場合はメリットになります。しかし、フレックスタイム制導入後は、会社に社員が在社していない時間帯がでてきてしまう可能性があります。だからといって、フレキシブルタイムが所定労働時間とほぼ同じでは制度の形骸化を招くことから注意が必要です。

フレックスタイム制の導入に当たっては、まずは通常のフレックスタイム制を導入し、導入後の課題を検討し、コアタイムやフレキシブルタイムの撤廃をするか否かを検討すべきでしょう。

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