PEST分析とは
PEST分析とは、マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏が提唱したマクロ分析手法です。コトラー氏は著書の中で「調査をせずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場参入しようとするようなもの」と市場参入時のマーケティングの重要性を説いています。
PEST分析は、その中でも自社を取り巻く外部環境について、マクロな視点で分析するために利用されるマーケティングフレームワークです。
PEST分析で利用する4要素
PEST分析では企業の外部環境を、以下の4つの観点で分類し分析します。
● 政治的要因(Politics)
● 経済的要因(Economy)
● 社会的要因(Society)
● 技術的要因(Technology)
政治的要因(Politics)
政治的要因は、主に政治・法律・税制といった要素が企業に与える影響を分析します。
近年であれば消費税の増税などが具体的な例と言えます。消費税が増税されれば、消費が冷え込むことで売上に影響がでる企業は少なくないでしょう。また、自社の製品に関する業界で助成金などがあれば、大きく事業戦略に影響することもあるでしょう。
経済的要因(Economy)
経済的要因は、景気や賃金、物価などの経済動向が与える影響を分析します。
物価や賃金の高騰が続けば、自社のコストは上がっていってしまうため価格の値上げに繋がり、売上低下を招く可能性があります。
社会的要因(Society)
社会的要因は、消費者の動向の変化に関する要素が与える影響を分析します。
人口分布や流行などが主な要素として挙げられます。少子高齢化などは代表的な要素と言えます。また、グローバルな展開を検討している場合には文化や流行、価値観なども大きな影響を与えるでしょう。
技術的要因(Technology)
技術的要因では、進化する技術動向などが与える影響を分析します。
近年で言えば、AIや自動運転などが代表的でしょう。特に5Gやスマホなどのデバイスの進化は著しく、これらに関連する通信サービスの変化は大きな影響を与えるでしょう。
PEST分析が重要な理由
PEST分析が重要な理由は、企業の外部環境、つまり社会の状況やその変化が事業の成功に大きく影響を及ぼすからです。
例えば、自社の商品やサービスが法律の改正や規制の対象となり、販売できなくなってしまえば、事業はたちまち立ち行かなくなってしまいます。しかし、事前に状況の変化が予測できていれば規制に応じた商品のリニューアルなどで対応し、販売を継続することも可能です。
このように、外部環境の変化を分析しておくことで、事業への影響を踏まえた事業運営を行えることが、PEST分析が重要だと言われる理由です。
PEST分析の方法
では実際にPEST分析はどのように行うのでしょうか。より正確に外部環境を分析できる方法を以下でご紹介します。
PEST分析の目的を明確化する
PEST分析をする際には、まず何のために行うかを明確にするようにしましょう。
PEST分析ではあらゆる外部環境を4つの要素に分類していきます。目的が明確になっていないと、各要素に関連性の低い情報が並べられ、PEST分析後の戦略立案に有効なものとなりません。
例えば、
● 新事業を開発するにあたって外部環境からどのような商品が良いか分析したい
● 既存商品の競合が激しくなっているため今後の事業戦略を検討したい
というようなケースでは、それぞれ分析の観点は大きく異なります。
新事業の開発であれば、法律や規制、国・地方自治体の動向、社会インフラなどあらゆる方向から網羅的に分析する必要があるでしょう。
一方で、競合戦略であれば競合商品を意識した上で、流行や新技術に関する情報などを中心に分析することが重要です。
このように、分析する目的によって重点的に分析すべき事項が異なるため、できるだけ具体的な目的を設定しておくことが重要です。
各要素について情報収集する
目的が明確になったら、次に「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」の各要素について情報を収集します。
情報収集する際には、公的機関や業界紙、専門家のレポートなどいわゆる一次情報と呼ばれる信頼性の高いものを集めましょう。
この段階では、情報の取捨選択はせず、できるだけ幅広い多くの情報を集めることが重要です。
収集した情報を要素別に分類し整理する
情報が集まったら、各種情報の要素を4つの環境要因に分類して整理しましょう。
各要素ごとに自社にどのような影響を与えるのかをイメージしながら分類することが重要です。情報によっては、切り口によって捉え方が変わるものや複数の要因にまたがって影響を与えるものもあります。このような場合は、はじめに決めた目的に従って分類することを意識すると良いでしょう。
機会と脅威に分ける
情報の分類・整理ができたら、次にこれらの各要素を「機会」と「脅威」に分類します。
この場合、自社に与える影響を基準に分類するようにしましょう。業界全体からすると機会となることでも、自社にとっては脅威となったり、またその逆も考えられます。
例えば「少子高齢化が進む」という予測があったとします。若年層をターゲットとした商品・サービスを扱う企業にとっては脅威となりますが、高齢者向けの商品・サービスを扱う場合は機会になる可能性が高いでしょう。
また、「機会」と「脅威」に分類する際にはその影響が長期的なものか短期的なものかも見極めます。先程の少子高齢化であれば、ある程度の年数をかけて徐々に影響が市場に広がっていきます。
一方で、コロナ禍による働き方の変化などについては、短期間の間に急激な影響が出ることが予想されます。
それぞれの要素について、時間軸を整理しておくことで次に検討する具体的な戦略をより有効なものにできます。
具体的な戦略を策定する
ここまでの分析を元に、具体的なマーケティング戦略を検討します。
この際、分析した各要素が緊急で対応を要するものかどうかや、自社に大きな影響を与えるものがどうか、すぐ実行する必要があるものかどうかなど、を意識して検討するとよいでしょう。
他のフレームワークとの連携も有効
PEST分析は外部環境をマクロで分析するのに秀でた分析手法ですが、分析結果をより効果的に活用するためには、他のフレームワークとの連携が有効です。
ここでは、PEST分析との連携が有効なフレームワークを2つご紹介します。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社のビジネス環境を、外部環境と内部環境に分類し分析することで、戦略やマーケティングの意思決定、経営資源の最適配分に活用するフレームワークのことです。
外部環境に加え、内部環境も含めて分析することでより有効な経営戦略・マーケティング戦略を立案します。
4P分析
4P分析は、商品・サービスを販売という側面から最大化するために利用されるフレームワークです。
4Pはそれぞれ以下の要素の頭文字から構成されています。
● Product(製品)
● Price(価格)
● Place(流通)
● Promotion(販促)
まとめ
今回はPEST分析の概要や分析方法について詳しくご紹介しました。
PEST分析は事業戦略を検討する上で重要な外部環境について、マクロな視点から分析できる手法です。外部環境は、SWOT分析などの事業戦略のフレームワークにも不可欠なものです。より精度の高い分析ができれば、その後のマーケティング戦略や事業戦略がさらに有効になり業績改善を後押ししてくれるでしょう。
PEST分析をやったことがないという方でも、まずはこの記事を参考にマーケティング戦略に役立つ分析を行ってみてはいかがでしょうか。