通勤手当の基礎知識 テレワークにどう対応すべきか

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基本給とは別に多くの企業で通勤手当が支給されます。しかし、最近ではコロナ禍をきっかけにテレワークが浸透し、旧来の通勤手当の考え方が適切でないケースも出てきており、各企業で通勤手当の制度について再検討され始めています。今回は通勤手当の基礎知識からテレワークにおける対応方法まで解説していきます。

通勤手当とは

通勤手当とは居宅(自宅や社員寮)から勤務先までに生ずる通勤費用を手当として支給することで、税法上、交通機関または有料道路を利用している従業員に支給する際の通勤手当は1か月あたり15万円までが非課税となります。

また、自家用車や自転車を利用して通勤する従業員に対して支給する通勤手当も、距離に応じて非課税枠が設けられています(例えば通勤距離が片道2キロメートル以上10キロメートル未満の場合4,200円。通勤距離が片道2キロメートル未満である場合は全額課税対象となります。)

通勤手当の法律上の解釈

誤解が多い部分ですが、労働基準法上、通勤手当の支払い義務はありません。一般的に通勤手当を支給する会社が多いですが、法律上義務とされているわけではありません。

しかし、会社の就業規則(後述)において、就業 規則が適用される対象従業員に対して通勤手当を支給する旨の定めをしている場合には、就業規則 の最低基準効(就業規則で定める内容は最低基準であることからその定めを下回ることはできない)が働きますので支給しなければならなくなります。

通勤手当の認定基準

従業員から通勤手当の届け出があった際には、その内容を担当部署で精査する必要があります。これは従業員を疑うという意味ではなく、その経路が「経済的かつ合理的な経路」であるかを精査するという趣旨です。

そもそも会社の資金は従業員の労働によって生み出されたものであり、何の基準もなく青天井で支給することは望ましくありません。特に複数の通勤経路が候補として挙げられる場合、金額にかなりの幅が出ることがあります。
申請のあった経路を認定することが通勤時間の大幅な短縮に繋がるのであれば認定することもあり得ますが、金額が高いにも関わらずほとんど通勤時間が変わらないというケースもあるので精査が必要です。特に従業員が増えてくるにつれ、自宅が近隣という従業員も出てきます。

過去に承認された経路が他の従業員の申請時に否決された場合には、過去と異なる取り扱いをした理由を求められるケースもあります。
このため担当部署内で統一的な方針を定めておく必要があります。

しかし、妊産婦労働者等、明らかに通常の労務管理が馴染まない労働者に対しては一定期間、特例的な対応をすることもあり得ます。

就業規則上の留意点

就業規則を定める際に通勤手当の項目に関して具体的な規定が難しいという声が多く挙げられます。

もちろん、自動車や自転車を利用した場合、「〇キロメートルから〇キロメートルまでは△円とする 」という規定は単純ですが、地下鉄やバスの認定基準の詳細までは明文化するのは困難と言わざるを得ません。規定するにあたっての認定基準の考え方として「経済的かつ合理的な経路」に限って認定するという記載内容とすることで、会社側に裁量権がある規定となります。

将来的に起こり得る問題(年金分野)

通勤手当は年金額にも影響します。日本の年金制度 は原則として65歳(生年月日によってはそれより前からも支給される場合あり)からの年金支給となります。年金額を決定するにあたって、いわゆる現役世代が保険料を支払う際の基準となる「標準報酬月額」や「標準賞与額」がありますが、これらは年金額の計算時に組み込まれるものです。

厚生年金保険法で定める報酬とは厚生年金保険法第3条に定めがあり、「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける全てのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。」と定められています。

結論として、通勤手当は(税法上は一定額まで非課税ですが)報酬に含まれるということです。
つまり、後述する在宅勤務などにより、通勤手当がなくなった際には標準報酬月額も下がることが予想され、将来受け取る年金額も下がる可能性があります。

テレワークの形態と通勤手当

コロナ禍を契機にテレワークが浸透しており、通勤手当の検討において考慮すべき範囲が拡大しています。

まず、テレワーク には次の3種類があります。
1点は起居寝食等を営む自宅で行われる在宅勤務、2点目は会社付近に設置されたサテライトオフィス、3点目は従業員が働く場所を自由に選ぶことができるモバイル勤務が挙げられます。

通勤手当の支給可否について検討すると1点目の在宅勤務のみを行う場合、理論上通勤が起こり得ないことから、通勤手当の支給をすることは難しいと言えます。実務上通勤手当は「実費弁償」としての性質を持っており、そもそも生じていない費用については支払うという発想がありません。しかし、緊急事態宣言も解除され、在宅勤務のみという会社も減ってきています。その場合、出社回数分の実費を支給するという形で通勤手当を支給する会社が一般的です。コロナ禍前まではむしろ出社が前提であったことから「定期代」として支給していた会社が一般的でしたが、言うまでもなく、出社しない日の方が多いにも 関わらず、定期代で支給するとなると「払いすぎ」の状態が続くこととなるため、規程見直しの必要性が高まっています。

2点目のサテライトオフィスについては単にメインの社屋に出社しないに過ぎないので通勤手当の支給対象となります。もちろんメインの社屋よりサテライトオフィスの方が自宅から近くなった場合、手当額は減少することとなります。

3点目のモバイル勤務については特段の事情がある場合を除き、そもそも費用が発生するような遠方に出向いてモバイル勤務する必要があるのかという議論があります。多くは自宅付近のカフェやコアワーキングスペースでの勤務になろうかと考えます。その場合、通勤における費用が生じないことの方が多いでしょう。

通勤時に事故に遭遇した際の留意点

万が一、通勤時に事故に遭遇した場合、労災保険の対象となり得ます。労災保険は業務災害だけでなく、通勤災害も保護の対象としていますが、経路を逸脱中に事故に遭遇した場合などは対象外となるので注意が必要です。

しかし、通常は電車通勤であるにもかかわらず、何らかの理由により合理的に代替し得る車通勤に変更し、不幸にも事故に遭遇した場合には支給対象となり得ます。通常代替し得ない他の選択肢を用いて事故に遭遇した場合には対象外となる場合がありますが、その決定は会社所轄の労働基準監督署にて行われますので、有事の際は速やかな連携を意識することが重要です。

最後に

通勤手当は法律上の支給義務はないものの、在宅勤務が原則の場合を除き、通勤手当がある会社とない会社では、求職者がそれぞれにどのような印象を抱くかは想像に難くありません。
また、通常の対面業務から在宅勤務に切り替えたにも関わらず、就業規則の見直しが追い付いていない場合、最低基準効との関係上、適切でない状態となっている場合もあることから一度見直しが必要と言えます。

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