社員の副業について経営者が知っておくべきこと、考えるべきこと

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働き方改革の施行もあり、「多様な働き方」が尊重される時代が到来しています。また、人生100年時代となり長く働くことが前提とされる現代において、旧来よりも転職市場が活況となっているのが現状です。また、転職とは別に副業に対する許容度も広く認められるようになっており、原則として副業禁止としていた企業も許可制に緩和するなどの対応が見られます。今回は社員が副業を行う際に経営者として抑えておくべき点にフォーカスして解説していきます。

働き方の変化

企業にとって切っても切り離せない「労働基準法」は昭和22年に制定され、以後複数回の改正を経て現在に至っています。当時は工場労働者をモデルとして法律を組み立てており、時代とのギャップも指摘されますが、罰則が設けられている強行法規という性質上、働き方の変化はあったものの今なお企業にとって中心的な法律であることは変わりありません。

昨今の働き方の変化については多様な働き方(例えば子供を養育する労働者に対しての時差出勤や副業兼業)が挙げられます。有能なビジネスパーソンにとって、多様な働き方が整備されていることはメリットとなり、応募に至る誘引、長期雇用のインセンティブにもなり得ます。

副業における法律上の留意点

労働基準法第 38 条では以下の定めがあります。

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合も含むとされています。労働基準法第32条では「使用者は、労働者に休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて労働させてはならない。」また、「1週間の各日については、労働者に休憩時間を除き、1日について8時間を超えて労働させてはならない。」と定めています。
すなわち、36協定を締結していない場合、本業先と副業先の労働時間を合算して既に法定労働時間に達している場合はそれ以上働かせることができないこととなります。

尚、適法な36協定を締結していたとしても割増賃金の支払いは発生します。では、割増賃金は本業先と副業先のどちらが支払い義務を負うのでしょうか。

実務上は労働時間の通算規定により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を「後から締結した使用者」が支払うこととなります。これは、労働契約の締結に当たって、労働者が他の企業等で労働しているか否かを確認した上で契約締結すべきであることから、このような解釈となります。

しかし、例外なく「後から契約した使用者」だけが割増賃金の支払い義務を負うかと言うとそうではありません。例えば先に契約した使用者が副業を認め、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら本業先で労働を命じる場合、「先に締結した使用者」も含めて延長させた労働時間に対して各使用者が割増賃金の支払い義務を負うことがありますので注意が必要です。

副業の労働者側メリット

副業を行うに至る動機として本業先で得られない知識を獲得したいことや単純に収入を増やしたいなど様々な動機が想定されます。

副業が容認される労働者側のメリットとしては、現職を退職せずとも副業先で様々な知見を獲得できると いうことです。仕事に関わらず、安定があるからこそ新しい分野にチャレンジができます。そもそも本業先の安定がなければまずは生活資金を得ることに奔走せざるを得ず、新たな知見の獲得にまで手が回りません。

次に収入が増えるメリットがあります。これは単に毎月の収入が増えることに留まりません。コロナ禍により、終身雇用制度や年功序列賃金が保障されない時代背景となり、また、正社員であっても定年まで雇用の安定が保障されるとは言い切れなくなっています。万が一企業の存続が危ぶまれても一定期間であれば副業収入があることで生活資金の補填となり、有事の際に自身を助けることにも繋がります。

副業の労働者側デメリット

労働時間の増加が挙げられます。労働時間が増えることで、家族と過ごす時間が少なくなり、ワークライフバランスが崩れるとの指摘があります。

次に健康問題です。デメリットの1点目の労働時間の増加により、副次的に健康問題への影響も示唆されており、睡眠時間が短くなったことに起因して免疫力が低下し、感染症に罹患しやすくなるなどのリスクは予め考慮しておく必要があります。

副業の企業側メリット

副業を容認することで優秀な従業員を退職させることなく、雇用し続けることが可能です。副業禁止であれば、本業先だけでは身に着けることができない知識の獲得のために転職を決断する従業員もいますが、副業を容認することでそのようなリスクが少なくなります。

次に人件費の節約です。決して良い文化ではありませんが、企業には「お付き合い残業」という文化があり、周りが残っているから仕方なく会社に残るという従業員もいます。しかし、副業を行うとなると所定労働時間内に計画的に業務を行わなければ副業することは事実上困難となります。必然的に残業時間が減るということです。

また、労働生産性の向上も挙げられます。副業先で得た知識が例外なく本業先で直接的に活用できるとは断言できませんが、業務の進め方など、副業先で得た新しい視点が入ることで、これまで当たり前とされた業務フローに工夫が生まれます。そして、所定労働時間内の業務の効率が良くなり、労働時間も少なくなることもメリットとして挙げられます。

副業の企業側デメリット

まずは、情報漏洩のリスクがあることです。故意に情報漏洩させることは言語道断ですが、過失によって、情報漏洩を起こしてしまうこともあります。その場合、内容や程度によっては、社会問題化してしまう場合もあり、副業を容認する段階で、機密情報の取り扱いについて、誓約書を取り扱うなどの対応が必須です。

また、競合他社への転職も挙げられます。副業は認めなければならないものではなく、限定的(競合他社は避ける)に認めることも可能です。副業を認めたことを契機に、副業先の業務に興味を持ち、一定期間経過後に転職ということも想定されます。憲法で保障する職業選択の自由があることから、退職を制限することはできませんが、副業先を制限することは可能です。そもそも競合他社となると営業秘密の漏洩にも繋がり、通常の事業活動にも負の影響が想定されます。

最後に、企業には安全配慮義務が課せられ、疲れが見えた労働者には面談の機会を設けるなど、副業を容認するだけでなく、その後のケアも必要となります。

副業における対応失敗事例

採用時に他社の就労状況を確認していないことです。労働時間は原則として後から契約した使用者が割増賃金の負担義務を負います。採用時に確認したものの虚偽申告した場合や、黙秘したなどの場合を除き、予め確認しておくことが適正な労務管理の観点からも重要です。

次に年末調整時では当然、副業先の収入は含まれていません。よって、副業を行う従業員に対しては確定申告を行うようアナウンスしておくことが重要です。

最後に

副業における労働時間の通算規定はあくまで双方で労働者として雇用契約を締結した際に発生するもので、成果物を提供するのみの業務委託契約やフリーランサーとして行う場合は対象となりません。しかし、安全配慮義務は信義則上当然に課せられますので、副業容認後の労務管理も気を抜くことなく行う必要があります。

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