副業・兼業を推進する働き方改革を背景に、多様な働き方を選択する方やアルバイトやパート労働者等で複数の事業所で就労している方が増加していると言われています。
このような中で複数事業労働者の方が安心して働くことができる環境を整備するために、2020年9月に労働者災害補償保険法が改正されました。今回はこの改正内容について説明するとともに、今後増えていくことが予想される副業・兼業について会社としてどのような点に注意しなければならないのかをお伝えしていきたいと思います。
複数事業労働者とは?
業務や通勤が原因でけがや病気になったり死亡した時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者のことをいいます。
また、特別加入をしている方(労働者として働きつつ特別加入されている方、複数の特別加入をされている方)についても対象になります。
雇用類似のUber Eatsの配達員や、業務委託・フリーランスは対象外となりますので注意が必要です。
次に、具体的にどのような場合に複数事業労働者となるのか見ていきます。
◆傷病等の発生した日または診断によって疾病の発生が確定した日(算定事由発生日といいます)に事業主が同一でない複数の事業場で就業している場合
⇒複数事業労働者となります。
◆「傷病等の原因または要因となる事由が生じた時期」に事業主が同一でない複数の事業場で就業している場合
⇒複数事業労働者となります。
法改正について
①保険給付額の算定方法の変更
【改正前】災害が発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等を決定
【改正後】すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等を決定
②労働時間やストレス等の負荷の判断方法の変更
【改正前】それぞれの勤務先ごとに負荷を個別に評価して労災認定できるかどうかを判断
【改正後】それぞれの勤務先ごとに負荷を個別に評価して労災認定できない場合は、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断
参考:厚労省『複数事業労働者への労災保険給付/わかりやすい解説』
副業・兼業を推進する上で会社として注意すべきこと
今後ますます副業や兼業を希望する従業員が増えていくことが予想されます。副業や兼業は、裁判例を踏まえれば、原則として認める方向で検討することが適当です。
気を付けなければいけないのは、労働基準法において、他の使用者の事業場における労働時間についても通算されるということです。そのため使用者は自らの事業場の労働時間はもちろんのこと、他の使用者の事業場における労働時間についても把握する必要があります。会社としてどのように複数事業労働者の労働時間を管理していくのかは、非常に難しい課題と言えます。
ガイドラインでは、他の事業場での労働時間について「労働者の申告」により把握することが示されました。就業規則等に「届出制」などのルールを定め、副業・兼業の内容、労働時間等を会社が確認できる仕組みづくりが、これからの重要なポイントとなるでしょう。
長時間労働が原因で労働者の健康に支障が生ずることのないよう、会社の安全配慮義務としての労働時間管理は、当然必要です。それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、まず労使でよく話し合うことが大切です。
働き方改革によって労働者は様々な働き方を選択できるようになります。労働者が安心して働くことができ、そして会社のために能力を発揮してもらえるよう、使用者はこの状況の変化に対応した社内ルールの策定、運用方法などについて、しっかりと準備をしておきましょう。
<参考>
・厚労省『副業・兼業の促進に関するガイドライン』
・厚労省『副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第 38 条第1項 の解釈等について』の通達