相続争いを防ぐための「遺言」の基礎知識

税務お役立ち情報

「自分には大した財産はないから」「自分の家族は仲がよいから」など、自分には遺言が必要ないと考える方も多いことと思います。しかし、相続争いは必ずしも遺産が多い場合に起こるわけではなく、家族の在り方も多様化する中で、ちょっとした感情のもつれなどから相続争いに発展するケースが多いのが現状です。

そこで、今月号では、相続争いを防ぐための「遺言」の基礎知識について、先月号でご紹介した民法改正による改正事項を交えてご説明します。

遺言とは

遺言とは、自分が死亡したときに財産をどのように分配するか等について、自己の最終意思を明らかにするものです。遺言がある場合には、原則として、遺言者の意思に従った遺産の分配がされます。

遺言がない場合

遺言がない場合には、遺産の分配方法が決まっていないため、法定相続人が話し合いをして分配方法を決めなければなりません。これを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議で分配方法が決まらないと、さらに時間のかかる家庭裁判所による「遺産分割調停」や「遺産分割審判」に取り組んでいかなければなりません。

遺言の必要な方

相続人が1人で、すべての財産をその方に引き継ぐ場合には、遺言は必要ありません。遺言が必要となるのは、主に次のような方になります。

・子供のいない夫婦
(子供がいない場合には、相続人は配偶者と両親または兄弟姉妹になります)
・相続人がいない方
(相続人がいない場合には、財産は最終的に国庫に帰属します)
・相続人以外の方に財産を遺したい方
(内縁の妻、嫁、後順位の相続人、認知していない子、世話になった知人等)
・相続人同士が不仲な方
・会社や事業の後継ぎがいる方

遺言でできること

民法に定められた方式に従えば、遺言にどのようなことを書くかは自由です。ただし、法律上の効力をもつのは、法律で規定された以下の事項に限られます。

1.相続の法定原則の修正
 相続人の廃除、相続分の指定、遺産分割方法の指定等
2.相続以外の財産処分
 遺贈に関すること、寄附行為等
3.身分関係に関する事項
 子の認知、未成年後見人の指定等
4.遺言の執行に関する事項
 遺言執行者の指定

遺言の作成方式

遺言の作成方式には、主に自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの方法があります。このうち自筆証書遺言については、民法改正により2020年7月10日より法務局自筆証書遺言保管制度が創設され、制度を利用した場合のメリット・デメリットが大きく変わります。

民法改正による影響

現行制度では、「自筆証書遺言」は全文を自筆で書かなければいけないとされていることから、非常に手間がかかり、高齢者への負担も大きいと指摘されていました。また、紛失や偽造、変造、隠匿の恐れもあり、遺言が紛争の一因となるケースもありました。

今回の改正では、そのデメリットが改善され、「自筆証書遺言」がより利用しやすくなっています。自書によらない財産目録の添付は、すでに可能になっており、法務局自筆証書遺言保管制度についても、2020年7月10日に施行されることが決まっています。
法務局自筆証書遺言保管制度を利用した「自筆証書遺言」は、安全性・確実性の面で「公正証書遺言」にかなり近づいたものになっているといえます。今後は、遺言作成者のニーズに応じて、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」を使い分けていくこととなるでしょう。

<参考①>法定相続人と相続の順位・法定相続分について

         (出展:政府広報オンライン) 

例えば、被相続人に配偶者及び子がいる場合には、被相続人の配偶者と第1順位である子、またはその孫・ひ孫が相続人となります。
この場合に、子も、孫・ひ孫もいないときには、被相続人の配偶者と第2順位である父母・祖父母等が相続人となります。
そして、子、孫・ひ孫、父母・祖父母等もいないときには、被相続人の配偶者と第3順位である兄弟姉妹または甥・姪が相続人になります。

<参考②>
遺言では、自分の相続時の財産の分配までしか指定することができません。例えば、「先祖代々の土地を長男に引き継ぎ、長男の死後は、長男に子供がいないため次男に引き継ぎたい」と考えていたとします。しかし、遺言では長男に相続するところまでしか指定できないため、長男の意思によっては、先祖代々の土地は次男ではなく長男の嫁が引き継ぐことになるかもしれません。このような場合に民事信託という制度を使うと、信託契約により次の承継者まで指定することが可能になります。民事信託は多様な財産承継の形を可能にしますので、承継について複雑な要望がある場合には、民事信託の利用の検討もお勧めです。

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遺言は、今すぐ必要となるものではないため、つい先延ばしにしてしまう傾向にありますが、この機会に遺言についてご一考されてみてはいかがでしょうか。ご質問、ご相談等ございましたら、税理士法人キャシュモ資産税担当までお問い合わせください。