中小企業では人材の確保が大きな問題の一つになっています。
せっかく予算をかけて人材を集めたのにも関わらず、定着せずに離れてしまう。こういったことを繰り返している中小企業は少なくありません。人材確保には、採用の強化とあわせて、離職率を下げることができなければうまくいきません。
中小企業の離職率の問題には、人事評価がうまくできていないことが関係しているという指摘があります。小さな会社なのだから、わざわざ制度を作って評価する必要はない、仕事ぶりを見ていればわかる、という認識の経営者もいるかもしれません。
今回は、中小企業に人事評価制度は必要か?というテーマで、中小企業が人事評価を導入することのメリットや評価の手法などについて紹介します。
人事評価制度とは
従業員の働きぶりや仕事の結果について評価し、その結果を処遇に反映させる制度で、四半期・半期・年間などの一定期間ごとに行います。
評価基準は企業によって様々ですが、基本的には「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3つの要素があります。
能力評価
仕事をしていく上での個人の能力に対して評価していきます。具体的な項目としては、次のようなものがあります。
・企画力
・プレゼン力
・事務処理力
・交渉力
数字として結果に表れるものだけでなく、個人としての努力の過程や成長を評価することで、人材育成につなげていくことができます。
業績評価
営業成績や目標の達成度など、一定期間の結果に対して評価をすることです。具体的には、下記のような項目があります。
・売上額
・成果を達成するスピード
・チームへの貢献度
・目標の達成度
・業務件数
成果に応じた報酬とすることで、従業員のモチベーション向上につながったり、企業としての業績アップの要因となります。数字として分かりやすいので、明確な評価となります。
情意評価
業務に取り組む姿勢や熱意、チームにおける役割、会社に貢献する意欲などを評価していきます。
・勤務態度
・積極性
・ルールの順守
・リーダーシップ
数字として現れないので適切に評価するのが難しい項目です。また、評価する側の主観に左右されるところもあるので注意が必要です。ただし、会社のカラーをつくっていく上では重要な評価といえます。
中小企業の人事評価制度の実態
中小企業では、制度としてどの程度人事評価に取り組んでいるのでしょうか。またその結果、どういったことになっているでしょうか。詳しく見ていくことにしましょう。
評価制度の導入率が低い
厚生労働省の雇用管理調査によると、人事評価制度がある企業の割合は、企業全体の51.0%でした。規模が大きい会社ほど導入率が高く、5000人以上では98.3%、100人以上では73.7%であるのに対し、30~99人では39.4%という低い数字となっています。統計にはありませんが、それ以下の規模では、さらに導入は低いと思われます。
制度を導入していても運用できていない
先の調査結果を見ると、企業規模が小さい会社ほど評価制度を人事考課に反映している割合が低くなっています。
制度を入れても運用がうまく回らず、形だけになっているケースも少なくないようです。また、評価に対する従業員の不満も多く、評価する側にも問題があると思われます。
結果として離職率が高くなっている
4年制大卒の新入社員の3年間の離職率を比較すると、従業員数1000人以上の大企業では20%程度であるのに対し30~99人の規模の会社では40%近くの離職率になります。これには様々な理由があるかと思いますが、評価制度がないということも一つの要因とされています。
会社で日々働いている中で、何を基準に評価されているのかわからないということから、やる気を失っていくケースもよく聞かれます。
評価制度がないことの問題点
中小企業で評価制度の導入がいまひとつ進んでいないということがわかりましたが、評価制度がないことで、どのような問題点があるかチェックしてみましょう。
生産性低下
仕事の成果や取り組みに対して評価がなければ、改善の方向性も見えず、作業効率は低下することになります。目についたミスをその場で指摘するだけでは不十分で、制度として評価していかなければ、会社全体としての生産性を上げることは難しいといえます。
人間関係悪化
制度としての評価でなければ、評価する個人の主観が大きく影響します。会社に貢献するよう頑張って成果を出しているのに、上司と仲がいい部下だけが評価が高いということでは、社内の人間関係に問題が起きることになるでしょう。透明性のある評価基準が必要になります。
人材流出
中小企業にとって、優秀な人材が流出することは、大きな痛手となります。仕事の成果を正当に評価することや、次の段階への目標や方向性を示していくことができない会社では自分の成長が感じられないと思われてしまいます。
優秀な人材ほど、そうした評価や目標設定を求めていますので、評価制度がないことで流出のリスクが高まるといえます。
人事評価制度を導入するメリット
人事評価制度を導入しないことで、どのような問題点があるかを見ていきましたが、逆に導入することで生まれるメリットにはどういったことがあるのでしょうか。確認していきましょう。
従業員のモチベーション向上による生産性向上
人事評価制度で重要なことは、明確な評価基準です。明確な基準で見てもらっているという意識が従業員に浸透していけば、モチベーションの向上につながります。
従業員それぞれに合わせた適切な目標設定ができ、継続的なフィードバックと修正ができれば仕事の質も上がり生産性の向上につながるでしょう。
離職率を抑え採用コスト低減
モチベーションが高い従業員は、そう簡単に辞めることはありません。しっかりと評価をして適切なフィードバックをいくことは、若手スタッフにとって何よりも大切なことです。そうした職場環境になれば、離職率は大きく低下します。
これまで採用にかけていたコストを抑えることになり、その分を他に活用することが可能になります。
コミュニケーションによる組織活性化
日々の仕事に追われていると、社内のコミュニケーションはどうしても目先のことばかりになってしまい、長期的な視点での話が少なくなりがちです。人事評価の制度の導入によって長期的な目標を設定し、定期的な進捗の確認を続けることは、長い目で見た自分のキャリアを考えることができます。
コミュニケーションが組織内を活性化し、従業員が積極的に仕事に取り組む環境につながっていきます。
中小企業が人事評価制度を導入する際のポイント
人事評価制度が中小企業にとってもメリットが多いということはわかっていても、導入がいまひとつ進んでいなかったり、導入しても活用されていないという実態があります。機能する人事評価制度にするためのポイントを解説していきたいと思います。
企業理念・事業計画と結びついた人事評価
人事評価は企業の理念や事業計画と結びついている必要があります。これは人事評価の重要なポイントでありながら、意外と見落としがちなことです。従業員の立てた目標が、企業理念や事業計画に沿ったものであるかどうかを、評価する立場の人は充分精査する必要があります。
人事評価制度導入の前段階で、企業理念や事業計画が従業員に浸透しているかどうかも重要なポイントです。
明確な基準で、公平性・透明性がある
人事評価の基準は、従業員に対して全て公開する必要があります。評価者の主観だけではない、公平で透明性がある基準によって評価していることを、しっかりと理解し納得してもらうことが人事評価制度をうまく運用するカギとなります。
評価内容を開示
従業員は自分がどのように評価されているのか、非常に気になります。評価の内容を開示することによって、自分の優れている部分と改善が必要な部分を把握することができます。
次の評価のタイミングで、改善した結果が評価されれば、モチベーションのアップにもつながります。
従業員へのフィードバック
人事評価制度の運用には、従業員に対するフィードバックが非常に重要です。それぞれの従業員がたてた目標に対する進捗や今後の行動予定などを確認して、目標達成のために必要なことがらをアドバイスしていきます。
今期のフィードバックをすると同時に、次期の目標につなげて、継続的な育成ができるようにしていきます。
運用しやすく柔軟性のある制度作り
人事評価制度はルールに則って運用されるものですので、例外はできる限り作らないようにしたいものです。しかしながら、企業経営において、時にはルールを守ることよりも、業績を上げることが重要という場面もあります。
例えば、時期によっては、売上を大きく増やす必要があることから、営業成績を最重要視するような評価にすることもあるかもしれません。また、特殊な仕事で、人によっては評価が難しいケースもあります。その場合は社長が判断する、ということもあるかもしれません。
制度のルールは大切にしながらも、ある程度の柔軟性を持たせることで運用しやすくしていき、継続的な運用を目指すというのが現実的といえます。
人事評価のステップ
実際に自社に人事評価制度を導入し運用していくには、具体的にどのように進めていけばいいのか、ステップごとに見ていくことにしましょう。
経営理念や企業の価値観の再認識
人事評価制度を導入する前段階として、人事評価の目的と企業理念を改めて従業員に明確にします。経営陣がどのような考えを持って人事評価制度を導入し、どういった理念を実現するために活用していくのか、ということを繰り返し伝えていく必要があります。従業員はそのメッセージを受けて、自分たちの方向性を理解することができるようになります。
評価基準を決める
人事評価の基準を決めて、それを従業員に公開します。評価の基準はできる限りわかりやすく、数字で表示できるものは数字で、言葉で表現するものは、あいまいな表現はできる限り避けて明確にするといいでしょう。
評価において何を重視するかというのは、企業理念によって変わってくるところです。企業理念があいまいだと評価基準もあいまいになってしまいます。このポイントをしっかりと詰めておくと、従業員に伝わりやすくなります。
人事評価の方法を決める
評価基準が定まったら、次に評価方法を決めていきます。人事評価のやり方には、さまざまな手法がありますので、自社の状況や方針によって選んでいくといいでしょう。
誰が、どの期間、どういった手法で評価するのかを具体的に決定したら、評価に必要な書式やマニュアルを整えていきます。併せて評価者に対する研修を進めていき、人事評価のための体制を作っていきます。
昇格、昇給、賞与への処遇設定
評価手法が決まり、準備が進んだら、評価の結果に対応した処遇を決定していきます。評価に応じた賃金テーブルを作成し、昇給や昇格の条件も評価と連動したものとして決定します。評価と処遇の基準などは、従業員に公開する方向で進めるといいでしょう。
まとめ
人事評価制度は、若手人材の離職に悩む中小企業にとって、大きなメリットがあります。そのためには、従業員に制度の趣旨をしっかり理解と納得をしてもらうことが重要なポイントとなります。人事評価制度は、継続して運用することで効果につながります。単に導入して終わりにならないよう、導入後の運用のしくみについてまでを考えておくことをおすすめします。
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