今、電子契約が注目を浴びています。コロナ禍による在宅ワークの増加に加え、政府によるデジタル・トランスフォーメンションの加速、「脱はんこ」関連法案の成立など、紙を用いた仕事は急速に減っていくに違いありません。
こうしたビジネス環境の激変で、従来の契約方法は変革の時期を迎えていると言えます。急速に迫ってきた電子契約の流れに、「対応できるのだろうか」と不安を感じている人も多いのではないでしょうか。
この記事では電子契約とはなにか、導入することのメリットや進め方について解説します。これを読めば電子契約のことが理解できて、不安は解消するでしょう。
電子契約とはなにか?
電子契約とはその名のとおり契約を電子的に締結することです。契約書の文書を作成するまでは同じですが、その文書を電子データのまま、電子署名とタイムスタンプを付与し、紙による書面契約と同じ効力を持たせるというものです。
電子署名とは?
電子契約は電子署名とタイムスタンプがあって初めて成立します。電子署名とは、電子文書に対して行われる電磁的記録で、文書の作成者が本人であることと、内容が改ざんされていないことを証明します。
タイムスタンプとは?
電子文書に対し日付と時間を記録します。これは、そのデータがいつから存在しているのかということと、その時刻以降改ざんされていないことを証明するものとなります。
電子契約に関する法令を知ろう
電子契約に関しては、知っておくと役に立つ法律がいくつかあります。以下に解説します。
e-文書法
e-文書法は、2005年に施行された比較的古い法律です。以下の2つの法律からなります。
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」
これとは別に法人税法、会社法、商法、証券取引法などでは各種文書の保管が義務付けられていますが、これらを紙だけではなく電子データでも保存することを認めたものです。
後述する電子帳簿保存法のベースになるともいえる法律です。
IT書面一括法
IT書面一括法はe-文書法に先駆けて2001年に施行されました。正式名称は「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」といいます。
内容は、正式名称のとおりで、書面により交付や手続きをすることが義務付けられていたところをEメールなどの電子的な公布や手続きも認めるとしたものです。
この法律によって、保険業法・金融商品取引法・建設業法・旅行業法など多くの法律が電子的な方法で手続きできるようになりました。すべて一括でできるようになったことから「一括法」と呼ばれました。
電子署名法
電子署名法が施行されたのも、IT書面一括法同様、2001年です。これによって、手書きのサインや印鑑に替えて電子署名が法的に有効であるとみなされるようになりました。
法律の内容は、“一定の要件が満たされていれば、本人が作成したものと推定できる”としたものです。
なお、国の定める一定の基準を満たしたものは、総務大臣・経済産業大臣・法務大臣の認定を受け、公的に通用するという制度もできました。現在、法務局での手続きなどで日常的に使われています。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は2021年に改正があり、にわかに話題になりましたが、最初に施行されたのは1998年です。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。
これまで数回の改正を経て、2021年の改正で「真実性の確保」、「見読性の確保」、「検索性の確保」などの保存に関する条件を満たすことを条件に、所轄の税務署長に事前に届け出ることなく電子データで保存できるようになりました。この改正は令和4年1月1日から施行されます。
電子契約の仕組みについて解説
電子契約はどのような仕組みで成立しているのでしょうか。ここからは電子契約を成立させる各要素について解説しながら、その仕組みを見ていきましょう。
電子署名
電子契約書の方法を用いて2者間で契約が行われる場合、契約書の中身について双方(甲
・乙)が合意をしたら、甲・乙それぞれ電子署名を行うことになります。
電子署名は紙の契約書での「署名・捺印」に当たる行為です。電子的にこれを行うには、甲・乙本人の電子署名であることの証明が必要です。
これは、第三者である認証局が発行する電子証明書によって行われます。電子証明書には後で説明する「公開鍵」の所有者が記載されています。
電子契約書に電子署名をすると、本人しか知らない「秘密鍵」を用いて契約書の電子文書と電子署名が暗号化され圧縮されます。これを相手方に「公開鍵」と一緒に送ると相手はその公開鍵を用いて暗号化された文書を復号できます。
公開鍵は電子証明書によって所有者が証明されているので、開くことができた時点で、その契約文書になされた電子署名は相手方のものであるということが証明できるのです。
タイムスタンプ
タイムスタンプはそれが押された時刻を証明し、それ以降その文書が改ざんされていないことを証明するためのものです。
タイムスタンプは、電子文書から「ハッシュ値」というものをを生成して、時刻情報とともに付与します。
このハッシュ値に時刻情報を付ければ、原本データとそのハッシュ値を照合することで、その時刻以降改ざんされていないことを証明することができるというわけです。
電子契約の種類について解説
電子契約の形にはいくつか種類があります。それぞれの種類がどのようなものか解説します
電子証明書型
電子証明書型は、その契約書に付された電子署名が本人のものであることを第三者の認証機関が証明する形式です。また同時に付されたタイムスタンプで、ある時刻以降改ざんされていないことを証明します。身元確認済みの高度な電子署名で、法人同士の契約書に向いています。
メール認証型
クラウド上の電子契約プラットフォームに契約書をアップロードすると、そのアップロード先のURLが契約者のメールアドレス宛に通知されます。自分と相手がそのURLにアクセスして電子署名すれば契約は締結されます。
このURLは一時的にしか機能しないもので、想定不可能な文字列でできています。これを相手のメールアドレスに送ってアクセスできることを確認して、本人性の証明とするのです。
この方法だと、クラウド上の電子契約プラットフォームを運営する事業者の電子署名も付与することができるので「第三者の立会人」を付け、契約の正当性を担保することもできます。
電子証明書のような事前の準備が不要なので、秘密保持契約書のような対個人の契約に向いています。
ハイブリッド型
これまで紹介してきた電子契約は当事者本人同士が電子署名をするもので、いわば、“当事者型電子契約”です。これに対し、第三者の電子署名を付与して契約の正当性を担保するものが“立会人型電子契約”です。
当事者型電子契約は法的効力も高いのですが、相手方に掛ける負担が大きいので、当事者型と立会人型を契約に応じて自由に選べるようにしたものが、ハイブリッド型です。
いろいろな契約書を数多く締結しているところにおすすめです。
電子契約導入で得られるメリットとは?
電子契約を導入すればどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは5つのメリットを挙げて解説します。
コスト削減
第一にあげられるのはコストの削減です。電子契約書は収入印紙を貼る必要がありません。ほかにも、紙代、正本代、印刷代、それにかかっていた人件費など考えると、想像以上のコスト削減になります。
契約完了までの業務の効率化
契約書関連業務は、一般に次のようなプロセスをたどります。
1.契約書案の作成
2.双方の内容確認
3.契約書原本の作成
4.原本と控えの印刷・製本
5.整理・保管
6.検索・閲覧
これらを全て、コンピュータ上で行えるとなるとかなりの業務効率化になります。特に4と5に関してはその実務が不要となります。
保管場所の削減
紙の契約書を保管するための物理的なスペースが不要になります。手数とコストの削減にもつながります。
検索・閲覧が簡単
紙の書類を探す時間は生産性が低いと言わざるを得ません。電子契約書にすればキーワードで素早く検索出来るようになるため、生産性も上がります。
コンプライアンス強化
電子契約書は紙の契約書のように署名捺印してから遡った日付を記入することができなくなります。また、当事者ではない人がなりすまして署名捺印する可能性も低くなります。
このことは、全ての契約書に正当性が証明されることになるため、コンプライアンスの強化につながります。
電子契約導入の進め方
ここで、電子契約を導入する進め方についてポイントを解説しましょう。
自社の現状を確認する
まず、自社の現状を確認しておきましょう。
・保管している契約書の数
・契約書の種類別数
・年間契約書発生数
・実印契約書と認印契約書それぞれの割合
・電子契約書にしてよいものと紙の契約書のままであるべきものの区別
数に関しては概算で構いません。確認した事項は、自社にあった電子契約サービスを選ぶ参考になります。
それぞれ確認したら、どの種類の契約から電子契約にしていくのかを決め、取り組み計画を立てます。
導入効果(コスト削減、業務効率の向上)が評価できるように、対象となす目標数値をきめて取り組むようにしましょう。
セキュリティ対応を確認する
どの電子契約サービスにすればいいのか目星をつけたら、セキュリティ対応が自社にとって十分なものか確認しましょう。
電子契約書を保管するクラウドのある場所の安全性や、自社で対応すべきセキュリティ対策も出てきますのでしっかり確認をしておきます。
扱っている書類は対応しているか?
契約書の中には、書面化が義務付けられているものもあります。すなわち電子化できない契約書もあり、それは以下の契約書です。
・定期借地・定期建物賃貸借契約
・宅地建物売買等媒介契約
・マンション管理業務委託契約
・訪問販売等特定商取引における交付書面
契約情報の活用方法を確認する
取引をする上で疑問に思った際は、まず、契約書を確認しましょう。電子契約になっていれば検索も容易になるので、以前より業務効率を向上できるはずです。
また、契約には期間があり、期間終了が近づいた契約を継続する場合、内容を見直さなくてはなりません。こうした場合も電子契約書になっていれば契約期間終了の3か月前などに対象となる契約書を検索して、一気に見直すことができます。
キャビネットにしまい込んだ契約書を業務に活用することができるようになり、取引内容の見直しなどができるので業績向上に寄与できるかもしれません。
まとめ
デジタルトランスフォーメーションの大きな流れに乗って、電子契約は急速に普及して、いずれ一般的になっていくでしょう。
電子契約に対して構えるより、コスト削減や業務効率UPなど多くのメリットがあるのであれば、積極的に取り入れていった方がよいのではないでしょうか。
リスクを恐れることなく世の中の変化に対応していくことが、自社の発展につながります。電子契約にも臆することなく取り組んでいかれてはいかがでしょうか。