2026年度(令和8年度)税制改正大綱は、中小企業にとって「攻めの投資」を後押しする減税措置が並ぶ一方で、増税や適正化の動きも本格化する、非常に大きな転換点となりました。
本記事では、経営者の皆さまに関連の深い改正ポイントについて、解説します。
【法人・投資】設備投資と研究開発を加速させる新優遇措置
特定生産性向上設備等投資促進税制の創設
2029年3月31日までの間に、生産性向上等設備の導入に係る投資計画において、設備取得価額の合計額が5億円以上(大企業は35億円以上)であり、かつ年平均の投資利益率(ROI)が15%以上となることが見込まれる等の基準について、経済産業大臣の確認を受けた場合に適用されます。
確認を受けた日から5年以内に取得等をした場合、「即時償却」と「税額控除」(取得価額の7%(建物、建物附属設備及び構築物については4%))、(当期の法人税額の20%が上限)の選択適用が可能となります。
賃上げ促進税制の見直し(中小企業特化へ)《2026年4月1日以後開始事業年度から適用》
中小企業向けの支援枠組みは維持されますが、教育訓練費の上乗せ措置が廃止されるなど、制度の整理が行われました。なお、大企業向けについては、適用期限を待たずに2025年度末で前倒し廃止となるなど、より中小企業を重点的に支援する形へとシフトしています。
研究開発税制の拡充(戦略技術領域型の創設)《2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用》
AI・量子・バイオなどの特定戦略分野に係る試験研究費について、税額控除率を40%(共同・委託研究は50%)とする「戦略技術領域型」が創設されました。控除限度超過額については、3年間の繰越しが認められます。
少額減価償却資産の特例が「40万円未満」に拡充《2026年4月1日以後の取得から適用》
少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例が、2029年3月末まで3年間延長され、全額損金算入できる資産の取得価額が、現行の30万円未満から40万円未満に引き上げられます。
※注意点:適用対象となる法人の要件が、常時使用する従業員数が「500人以下」から「400人以下」に厳格化されました。また、年間の合計限度額300万円は維持されます。
食事代補助の非課税枠が「7,500円」へ倍増《2026年1月1日以後の給与支払分から適用》
福利厚生として従業員に支給する食事代補助の非課税限度額が、月額3,500円から7,500円(税抜)に引き上げられます。実質的な「非課税の賃上げ」として、採用・福利厚生対策に有効です。
通勤手当の非課税限度額の改正
片道65km以上の遠距離通勤者の非課税限度額が引き上げられます。
また、自家用車等での通勤者について一定の要件を満たす駐車場を利用する場合には、月額5,000円を上限に駐車場料金を非課税限度額に加算できるようになります。
【個人所得】「178万円の壁」と投資環境の整備
基礎控除・給与所得控除の引上げ(178万円の壁への対応)《2026年分以後の所得税から適用》
所得税がかかり始める「年収の壁」を178万円に引き上げるため、以下の見直しが行われます。
- 本則:基礎控除が62万円、給与所得控除の最低保障額が69万円に引き上げられます。
- 特例:2026・2027年度においては、低中所得層向けにさらなる上乗せ措置が講じられ、合計で178万円(現行103万円+75万円)の非課税枠が実現します。
住宅ローン控除の拡充・延長《2030年12月31日まで延長》
省エネ性能の高い住宅の借入限度額の引上げや、子育て世帯・若年夫婦世帯への対象拡充が行われます。
また、床面積要件が50㎡から40㎡に緩和される措置も、既存住宅(中古)へ適用拡大されます。
NISA(少額投資非課税制度)の抜本拡充《2026年1月1日から適用》
個人の資産形成を後押しするため、つみたて投資枠の対象年齢が0歳まで拡充されます(現行18歳以上)。子が0~17歳の間は、年間投資枠60万円、非課税保有限度額600万円の枠が設定されます。
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し《2027年分以後の所得税から適用》
所得が極めて高い層への課税が強化され、基準所得金額が1億6,500万円(現行3億3,000万円)超の層に対し、追加の税負担を計算する税率が30%(現行22.5%)に引き上げられます。
ふるさと納税への定額上限設定《2027年分以後の所得税・住民税から適用》
現行では所得に応じて上限なく増えるふるさと納税の特例控除額について、定額上限(給与収入1億円相当)が設けられます。
暗号資産(仮想通貨)の分離課税化《2027年1月から適用予定》
暗号資産の譲渡等をした場合の課税方法が、雑所得(総合課税・最大55%)から、税率20%(所得税15%・住民税5%)の申告分離課税に移行されます。他銘柄との損益通算や、3年間の繰越控除も認められる見込みです。
防衛特別所得税(仮称)の創設《2027年1月から適用》
所得税額に対して税率1%の新たな付加税が課されます。一方で、家計負担が増加しないよう、復興特別所得税の税率を1%引き下げ、課税期間を2047年まで延長する調整が行われます。
【消費税・資産税・国際課税】制度の適正化と経過措置
インボイス制度の経過措置の見直し《2026年10月1日から適用》
3割特例
新たにインボイス発行事業者となった免税事業者が適用できる「2割特例」は2026年9月末で終了し、小規模事業者については、納税額を売上税額の3割とする「3割特例」(2年間)に移行します。
仕入税額控除
免税事業者からの仕入れに係る80%控除は、2026年10月から70%に引き下げられます。また、1免税事業者ごとの年間適用上限額も10億円から1億円に厳格化されます。
<免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例措置>

国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し
1万円以下の少額輸入貨物に係る消費税免税制度が廃止され、課税対象となります。
また、国外事業者によるデジタルサービスの販売について、プラットフォーム事業者が納税義務を負う制度が導入されます。
【資産課税】
教育資金の一括贈与の終了《2026年3月31日まで》
祖父母等から子・孫への1,500万円までの教育資金贈与の非課税措置は、延長されることとなく終了となります。
事業承継税制の延長《2027年9月30日まで延長》
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承継計画の提出期限が1年6ヶ月延長されます。
貸付用不動産の評価方法の見直し《2027年1月1日以降の相続等から適用》
購入から5年以内の貸付用不動産については、実勢価格との乖離を是正するため、原則として通常の取引価額(取得価額の80%相当等)に基づき評価するよう厳格化されます。
中小企業経営者が対応すべきポイント
今回の改正を受け、経営者が特に注視し、準備を進めるべきは以下の3点です。
5億円以上の大規模投資計画の精査
新設される「特定生産性向上設備等税制」は、現行の投資減税では対象とされていなかった建物や構築物も対象に含まれます。工場新設や大規模な修繕を検討している場合、ROI 15%の要件を満たすかどうかのシミュレーションを早期に行い、投資時期を検討しましょう。
福利厚生制度(食事補助)の見直し
非課税枠が7,500円に倍増する食事代補助は、会社・従業員双方の社会保険料負担を増やさずに「手取り」を増やせる強力な施策です。2026年1月からの適用に向け、福利厚生規定の改訂や支給方法の検討をお勧めします。
「178万円の壁」に伴う雇用・シフト管理
所得税の壁が大幅に引き上がることで、パート社員等の就業調整が緩和される可能性があります。ただし、社会保険の壁(106万・130万)については別途議論が続いているため、両者のバランスを考慮した柔軟な雇用契約やシフト管理の準備が必要です。
おわりに
2026年度税制改正は、「貯蓄から投資へ」の加速や、長年の課題であった「年収の壁」への抜本的な対策など、個人の家計から企業の投資戦略まで幅広く影響を及ぼす内容となりました。
特に中小企業にとっては、設備投資への大胆なインセンティブが与えられる一方で、インボイス経過措置の縮小や少額資産特例の対象要件厳格化など、実務面での慎重な対応が求められる項目も少なくありません。
税制は経営の羅針盤の一つです。今回の改正を「単なる税負担の変化」と捉えるのではなく、自社の生産性向上や優秀な人材確保のための「経営戦略」としてどう活用するか。改正の細かな運用については今後発表される施行令等で確定していきますが、早期に方向性を理解し、準備に着手することが、次なる成長への第一歩となります。
具体的な適用要件や自社への影響については、ぜひ当事務所へお気軽にご相談ください。
【免責事項】
本記事の内容は、2025年12月に公表された税制改正大綱、および現時点(2026年1月2日)の法令に基づいています。今後の国会での審議状況や、財務省・国税庁から発表される施行令・通達等により、具体的な適用要件や時期が変更される可能性があります。最終的な判断を行う際は、必ず顧問税理士等の専門家に直接相談した上で、ご自身の責任において行ってください。

