10月1日から最低賃金が大幅に上がります ~最低賃金の考え方、対象となる賃金などについて解説~

労務お役立ち情報

2023年8月18日に全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました。

全国加重平均43円の引き上げは現在の制度では最高額の引き上げとなりました。また改定後の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円)であり、1,000円を超えるのは初です。

その他にも最高額(東京都の1,113円)に対する最低額(岩手県の893円)の比率が80.2%に改善するなど、注目するべきポイントが多くある最低賃金の話題ですが、今回は最低賃金の考え方、対象となる賃金などについて解説をしていきます。

そもそも最低賃金とは

最低賃金は「最低賃金法」に基づいて国が定めた1時間あたりの最低賃金額のことで、使用者は最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。最低賃金は、労働者一人ひとりの能力や経験にかかわらない最低限の賃金を保障するための制度であり、労働者の生活を守るために重要な制度です。

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類がありますが、ここでは地域別最低賃金について解説していきます。

日本の最低賃金は毎年改定されており、1978年に現行の制度に移行してからは物価や生活水準など、各地域の実情を考慮して都道府県ごとに定められています。例年7月頃に厚生労働大臣の諮問機関によって全国的な引き上げ額の目安が示され、これに基づいて8月に都道府県ごとに決定、毎年10月から新しい最低賃金が適用されます。
例として東京を挙げると、東京の引き上げの目安として提示された金額は41円で、これに対して10月1日から適用される新しい最低賃金は1,113円と、目安通りに引き上げられました。

2023年の引き上げ額は現行の制度では過去最大であり、物価の高騰による生活への影響などが考慮されたとのことです。

仮に最低賃金を下回る時給で労働者と雇用契約を交わしたとしても、この部分については無効とされます。その場合、最低賃金との差額分については後から請求され、最低賃金法もしくは労働基準法に基づく罰則もあります。会社側は現在雇用している労働者、これから雇い入れようと考えている労働者の両方について契約内容の確認が必要です。

最低賃金の対象になる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。

一般的な会社であれば基本給や、職務手当、役職手当として毎月同額を支給している賃金が該当します。ですが、毎月同額の手当であっても通勤手当や家族手当、精皆勤手当については最低賃金の計算に含めてはいけません。これらは名称の如何を問わず実態で判断されるため注意する必要があります。

その他にも、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(残業代など)
・所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
・午後10時から午後5時までの労働に対して支払われる割増賃金(深夜手当など)

最低賃金を上回っているか確かめる方法

時給制の場合

最低賃金は1時間当たりの賃金額に対して定められていますので、時給制のアルバイトやパートタイマーについては契約書上の時給と、その地域の最低賃金額を比較すれば最低賃金を下回っているか判定できます。

日給制の場合

日給制の場合については
    日給÷1日の所定労働時間≥最低賃金額(時間額)
によって確かめることが可能です。

月給制の場合

月給制の場合、以下の手順で時間あたりの賃金を求めてから最低賃金と比較する必要があります。

①1年間の会社の休日数を数えます
②年間の暦日数365日(うるう年など366日)から休日数を引いて年間所定労働日数を求めます
    年間所定労働日数=365日-総休日数
③年間所定労働日数から一か月平均の労働日数を求めます
    月平均所定労働日数=年間所定労働日数÷12か月
④月平均所定労働日数に一日の所定労働時間をかけて、月平均所定労働時間を求めます
    月平均所定労働時間=月平均所定労働日数×1日の所定労働時間
⑤支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。
    基本給    190,000円
    職務手当   20,000円
    通勤手当   5,000円
    時間外手当  35,000円
    上記の場合、通勤手当と時間外手当は最低賃金の計算に含めてはならないので、計算対象の総額は210,000円となります。
⑥最低賃金の計算対象合計を月平均所定労働時間で割って、時間あたりの賃金を求めます。
    時間当りの賃金=対象賃金÷月平均所定労働時間

月給制:東京都で働くAさんの場合
最低賃金の対象となる賃金 210,000円
月平均所定労働時間 160時間
210,000円÷160時間=1,313円(円未満四捨五入)≧1,113円(東京都最低賃金)

こうして求めた時間あたりの賃金が地域別最低賃金を下回っていなければ問題はありません。

参照:厚生労働省厚生労働省報道発表資料「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」(2023年8月21日)
参照:厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」(2023年8月21日)