【労務Q&A】採用選考過程において提出を求めることが制限される書類とは

労務Q&A

採用選考過程において提出を求めることが制限される書類とはどのようなものでしょうか。

労働能力や適性等、採否の判断に関連性のある書類以外は提出を求めないようにすべきです。

採用の自由とプライバシー

使用者には契約締結の自由があり、この契約締結の自由として、使用者が雇用契約を締結する際に有するのが採用の自由です。

採用の自由について、最高裁は「使用者は労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、原則として自由にこれを決定することができる」と判示しています。この採用の自由の結果として、採否の判断資料を得るための労働者の労働遂行能力や適性について調査を行う自由も認められています。

一方、プライバシー保護の観点からみると、調査事項や調査方法によっては、応募者のプライバシーを侵害することもあり得るので、調査の自由も無制約ということにはなりません。近年、プライバシー権の位置付けが変化しつつあり、また、労働能力と関連性の薄い疾病についての調査に関して否定的な立場をとる裁判例が出されるなど、プライバシー保護が強化されていることをみると、調査事項については、かなり制約されてきているように思われます。また、法令や行政指導においても、以下に記載するように、採用過程における使用者の情報収集について制限を加えています。

職安法による制限

職安法において、労働者の募集を行う者は「その業務の目的の達成に必要な範囲内」で求職者等の個人情報を収集しなければならないとし、また、特別な職業上の必要性が存在し業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、②思想および信条、③労働組合への加入状況に関する情報を収集してはならないとしています。

厚生労働省の指導

厚生労働省は、応募者の基本的人権を尊重し、応募者の適正・能力のみを基準として公正な採用選考を行うことを求め、戸籍謄本の提出、家庭環境に関する作文、思想・信条が推測される内容の作文などの提出を求めないように指導しています。また、不適正な応募書類の使用を防ぐために、JIS規格の様式例に基づいた履歴書等を使用することを推奨しています。

まとめ

使用者は労働者の採用にあたって調査の自由を有するとはいえ、無制約ではありません。したがって、採用にあたり提出を求める書類も労働能力・適正の判断に必要なもの等業務の目的達成に必要な範囲のものとし、これを超えるようなものは提出を求めないようにすべきです。これらの事項は採用基準としないつもりでも、把握すれば結果としてどうしても採否決定に影響を与えることになってしまい、就職差別につながるおそれがあります。

採用選考に当たっては、『応募者の基本的人権を尊重すること』、『応募者の適正・能力に基づいて行うこと』の2点を基本的な考え方として実施することが大切です。