中小企業に退職金制度は必要か?

労務お役立ち情報

かつては終身雇用が当たり前で、就職した会社で定年まで勤めあげ退職金をもらって退職するというのがお決まりのコースでした。

転職が当たり前になった今の時代において、中小企業でも退職金制度は必要といえるでしょうか。現在導入していない経営者の方の中には、退職金制度を導入するべきなのか悩んでいる方もいるかもしれません。

今回は、退職金制度を導入するメリット・デメリットや、導入する際の注意点などを紹介します。ぜひ最後までお読みください。

退職金制度とは

退職金とは、退職の際に会社から従業員に支給されるお金です。支給の仕方によって「退職一時金制度」と「退職年金制度」に分かれます。それぞれを説明していきます。

退職一時金制度

従業員の退職時に一括で退職金を支給するのが退職一時金制度です。

従業員にとっては、まとまった金額が支給されるので魅力があるといえます。そのため、求人活動の際のアピールポイントとして打ち出すことができます。また、企業にとって自由に設計できるというも、メリットになるところです。

ただし、退職金一時金のために積み立てるお金は法人税の計算上は損金にならないので、注意が必要です。

退職年金制度

従業員が退職した後、一定期間に渡って年金のように月々に分けて支給するのが退職年金制度です。退職年金制度には、確定給付企業年金と企業型確定拠出年金の2種類があります。

確定給付企業年金

確定給付型の企業年金は、予め設定した金額が確定しているタイプです。企業は金融機関等の運用会社に掛け金を支払い、運用してもらいます。

企業にとっては、掛金を損金扱いにできるというのが大きなメリットですが、運用に失敗した場合には、予定していた支給額に不足した分を企業側が負担しなければならないというリスクがあります。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金は、企業が毎月掛け金を積み立てていきますが、運用は従業員のほうで行うというタイプです。運用を従業員に任せることで、企業側には決まった金額を支払わなければならない責任がなくなります。

もし運用がうまくいかず目減りしてしまったとしても、企業が補填する必要がないので導入しやすいといえます。

退職金制度がある会社の割合

退職金制度は法律によって定められている制度ではなく、導入するかどうかは企業側で自由に決めることができます。企業にとって大きな資金負担がある制度ですが、どの程度の割合の企業が導入しているのでしょうか。

企業全体の割合

厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、企業全体の退職金制度導入の割合は、約80%の企業が導入しているという結果が出ています。これは中小零細企業も含めた数字ですので、国内のほとんどの企業で退職金制度を設けているというのが現状のようです。

このうち約73%が退職一時金制度のみを設定しており、退職年金制度のみの企業が約9%で、18%ほどの企業では退職一時金と退職年金制度の両方を導入しています。

大企業と中小企業の比較

大企業と中小企業で比較した場合では、どの程度の違いがあるのかを見てみましょう。

従業員数1000人以上の企業では92%の企業で退職金制度があり、そのうち退職一時金のみが28%、退職年金と両方導入している企業は48%にもなります。

従業員数100人未満の企業を見ると78%の企業で退職金制度があり、8割近くが退職金制度を導入していることになります。そのうち退職一時金のみが82%で、退職年金と両方導入している企業は13%程度です。

退職金制度のメリット、デメリット

退職金制度は、法律で定められているわけではないのに、これだけ多くの企業で導入されているのには大きなメリットがあるからです。

ここでは退職金制度のメリットを紹介するとともに、導入するデメリットや、退職金制度がないメリットも考えてみることにしましょう。

退職金制度があるメリット

求人活動でアピールできる

求職者が求める様々な待遇の条件の一つとして、退職金制度があるかどうかということがあります。もし2社で比較になった場合に、退職金制度があるほうが有利になります。

勤続年数が長くなる

退職金の金額は、勤続年数が長くなるほど大きくなることから、従業員の勤続年数が長くなることが期待できます。退職金がもらえるまでは続けようと、短期間で離職する従業員を定着させるモチベーションになります。

中小企業にとっては、人材の確保が大きな問題となっています。退職金制度はその問題を解消するためという側面が強いといえるでしょう。

退職金制度のデメリット

退職金制度を導入することで、その原資となるお金を用意することが企業にとっての負担となります。退職者が重なったときなどは、資金繰りに影響する可能性もあります。

また退職金制度は、一度導入すると途中で辞めるということが基本的にはできません。退職金制度の導入は、退職金を従業員に支給することを約束したということになるからです。そのため、これから導入する場合には慎重に検討する必要があります。

退職金制度がないメリット

退職金制度がない企業では、従業員が退職するときにお金の心配をする必要がないというメリットがあります。その分を運転資金として活用したり、他の福利厚生に使ったりするということも可能になります。

転職が当たり前の社会となったことで、退職金制度を導入しないという選択肢を考える企業も出てきています。

退職金の相場

自社で新たに退職金制度を導入するかどうか検討する場合、退職金の相場が気になるかと思います。ここでは、退職金の大まかな金額について見ていきます。

企業規模

まず、大企業と中小企業では、どのぐらい金額に違いがあるのかを見ていくことにしましょう。

大企業の平均的な退職金は2511万円です。それに対して中小企業の平均退職金は1189万円となっています。大企業では、中小企業の約2倍の金額ということで、かなり大きな違いになります。

勤続年数

勤続年数でどのように推移しているのか、中小企業の自己都合退職の場合の退職金を、5年ごとの金額で見ていくことにしましょう。

5年   42万円
10年 113万円
15年 214万円
20年 353万円
25年 524万円
30年 706万円

退職金は、年齢や学歴、職種等によって、かなりのばらつきがあります。ひとつの参考としていただくといいかと思います。

退職金制度を導入するには

退職金制度を自社に導入する場合、どういった形で進めていけばいいでしょうか。プロセスごとに、注意点なども踏まえて見ていくことにしましょう。

退職金制度導入の目的を整理

まず、退職金制度を導入する目的をしっかりと確認しましょう。多くの会社では、いい人材を確保するため、従業員に長く働いてもらうために導入されると思います。目的を明確にしておくことが、制度の効果を見るポイントとなります。

賃金や就業規則の現状を把握する

現状の賃金テーブルや就業規則の内容を、今一度確認しておきましょう。また従業員それぞれの賃金も把握しておく必要があります。現状とのバランスを考えて制度を決めていかないと、せっかく導入しても上手くいかない可能性があるからです。

退職金制度の形態を決める

退職金というと、一時金として支給したり企業年金として支給するなど、いくつかの方法があります。会社の状況等も考慮に入れて、どういった形態が自社にとって無理なくできる方法かを慎重に検討していく必要があります。

退職金規程を作る

退職金制度の骨子が固まったら、退職金規定としてまとめていきます。自社で作成することも可能ですが、社会保険労務士に依頼すると間違いがないでしょう。

規定には、「退職金の計算方法」「勤続年数」「対象者」「支給時期」「支給方法」といった内容が必要になります。

退職金支援制度の活用

中小企業が退職金制度を導入しやすくするために、国などが支援しています。こうした制度を活用することも検討してみるといいかもしれません。

中小企業退職金共済(中退共)

中小企業を対象にして国が設けた退職金制度が中小企業退職金共済(中退共)です。現在加入している企業数は約37万社、従業員数では約356万人にも上ります。

中退共に加入した企業は、従業員ごとに月々の掛け金を支払うだけで、その後の運用管理や退職金の支給といった業務を任せることができます。

加入するメリットとしては、掛金の一部を国が助成してくれること、掛け金の選択が自由であること、管理が簡単になること、掛け金は非課税になることなどがあります。

特定退職金共済(特退共)

中退共と似た仕組みで、特定退職金共済(特退共)というものがあります。こちらは国が行うものではなく、特定退職金共済団体(商工会議所、商工会、商工会連合会など)が中小企業主に代わって退職金の運用管理や支払いを行います。中退共と違って掛け金の助成はありません。

「中退共」と「特退共」は併用できますので、もし中退共の加入資格がある中小企業であれば、節税効果を狙って併用することも検討してみるといいでしょう。

まとめ

中小企業においても退職金制度を導入している企業は8割にのぼります。

しかし、退職金制度は一度導入すれば途中で辞めることはできない点や、従業員も転職するのが当たり前になっている状況を考えると、退職金制度を導入するかどうかは慎重に検討する必要があります。この機会に、退職金制度導入の効果とのバランスをあわせて考えてみてはいかがでしょうか。

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