~2022年度税制改正~中小企業向け「賃上げ促進税制」

税務お役立ち情報

ますます厳しさを増す状況下にある企業の生産性の向上や、経営基盤の強化を支援していく必要がある等の観点から、2022年度税制改正において、現行の「所得拡大促進税制」が「賃上げ促進税制」として延長・拡大されることになりました。

「賃上げ促進税制」とは、企業が前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

「賃上げ促進税制」については、大企業向けと中小企業向けがありますが、今回は、「中小企業向け賃上げ促進税制」に的を絞り、現行の「中小企業向け所得拡大促進税制」と比較しながら、改正内容についてご説明します。

なお、この内容は2021年12月の政府決定時点のもので、今後の国会審議等を踏まえて施策内容が変更となる可能性があります。

現行の「中小企業向け所得拡大促進税制」の概要

・青色申告法人である中小企業者等(※1)が、2021年4月1日から2022年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。

・雇用者全体の給与が前年度比1.5%以上増加した場合に、その増加額の15%の税額控除ができます。

・雇用者全体の給与が前年度比2.5%以上増加し、かつ、以下のいずれかの要件を満たす場合には、25%の税額控除ができます。

①教育訓練費が前年度と比べて10%以上増加していること
②適用年度の終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされていること

・いずれの場合も、控除税額の上限は、当期の法人税額の20%となります。

(※1)中小企業者等
青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものを指します。
(1)以下のいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は本税制適用の対象外)

①資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人。ただし、以下の法人は対象外
・同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。)から2分の1以上の出資を受ける法人
・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
②資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

(2)常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
(3)協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等)

「中小企業向け賃上げ促進税制」の概要(今回の改正内容)

制度の適用期限を2024年3月31日まで延長し、税額控除率の上乗せ措置が次のとおり拡充されました。

① 雇用者全体の給与が前年度比2.5%以上増加した場合には、その増加額の30%の税額控除ができるようになります。
② 教育訓練費が前年度比10%以上増加した場合には、税額控除率が10%上乗せとなります。

上乗せ控除の要件が、現行制度より緩和され、教育訓練費10%増加という要件のみで適用できるようになりました。最大控除率も40%と大幅に増加しているため、2022年4月1日以降開始事業年度からは、自社の教育訓練費にもぜひ注目してほしいと思います。

現行と改正後の制度の比較

教育訓練費とは

上乗せ控除の要件となっている「教育訓練費」とは、国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させ、または控除させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。具体的に、どのような費用が該当するのか見ていきましょう。

法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)

① 外部から講師または指導員(以下「外部講師等」)を招聘し、講義・指導等の教育訓練等を自ら行う費用
⇒ 講義・指導等の内容は、大学等の教授等による座学研修や専門知識の伝授のほか、技術指導員等による技術・技能の現場指導などを行う場合も対象となります。
⇒ 招聘する外部講師等は、当該法人の役員又は使用人以外の者であること。(当該法人の子会社、関連会社等のグループ企業の役員又は使用人でも可)
⇒ 外部の専門家・技術者に対し、契約により、継続的に講義・指導等の実施を依頼する場合の費用も、対象となります。

② 外部講師等に対して支払う報酬、料金、謝金その他これらに類する費用
⇒ 講義・指導の対価として外部講師等に支払う報酬等。(なお、外部講師等の個人に対して報酬等を直接支払った場合に限らず、法人から講師等の派遣を受けその対価をその法人に支払った場合の費用も対象となります。)
⇒ 講義・指導等の対価として支払う報酬等に限らず、当該法人等が負担する外部講師等の招聘に要する費用(交通費・旅費(宿泊費、食費等を含みます。))も対象となります。

③ 法人等がその国内雇用者に対して、施設、設備その他資産(以下「施設等」)を賃借または使用して、教育訓練等を自ら行う費用
⇒ 当該法人の子会社、関連会社等のグループ企業の所有する施設等を賃借する場合も対象となります。
⇒ その施設等が普段は生産等の企業活動に用いられている場合であっても、賃借して使用する者が、教育訓練等を行うために賃借等する場合は対象となります。

④ 施設・備品・コンテンツ等の賃借または使用に要する費用
⇒ 施設・備品等の賃借または使用の対価として支払う費用(使用料、利用料、賃借料、借上料、レンタル料、リース料等)であること。教育訓練等のために使用されている契約期間であれば、その実際の使用期間に制約されません。
【「施設、設備・コンテンツ等」の主な例示】
◇ 施設(例:研修施設、会議室、実習室等)
◇ 設備(例:教育訓練用シュミレーター設備等)
◇ 器具・備品(例:OHP、プロジェクター、ホワイトボード、パソコン等)
◇ コンテンツ(例:コンテンツDVD、e-ラーニング内のコンテンツ等)

⑤ 教育訓練等に関する計画または内容の作成について、外部の専門知識を有する者に委託する費用

他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費)

① 法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の習得または向上のため、他の者に委託して教育訓練等を行わせる費用
【「他の者」の主な例示】
◇ 事業として教育訓練を行っている外部教育機関(民間教育会社、公共職業訓練機関、商工会議所等)
◇ 上記以外の一般企業
◇当該法人の子会社、関連会社等グループ内の教育機関、一般企業(当該法人と連結完全支配関係にある連結法人を含みます。)

② 教育訓練等のために他の者に対して支払う費用(講師の人件費、施設使用料等の委託費用

他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費)

① 法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の習得または向上のため、他の者が行う教育訓練等に当該国内雇用者を参加させる費用
⇒ 法人等がその国内雇用者を他の者が行う教育訓練等(研修講座、講習会、研修セミナー、技術指導等)に参加させる費用であること。
⇒ 法人等が直接または間接に(国内雇用者を通じて)他の者に対し支払う費用であること。(当該国内雇用者が費用の一部を負担する場合は、その負担された金額を教育訓練費から控除します。)

② 他の者が行う教育訓練等に対する対価として当該他の者に支払う授業料、受講料、受験手数料その他の費用

⇒ 教育訓練等の講座等(研修講座、講習会、研修セミナー、技術指導等)の授業料、受講料、参加料、指導料等、通信教育に係る費用等(受験手数料は、教育訓練等の一環として各種資格・検定試験が行われる場合に対象となります。)
⇒ 法人等がその国内雇用者を国内外の大学院コース等に参加させる場合に大学院等に支払う授業料等聴講に要する費用、教科書等の費用(所得税法上、学資金等として給与に該当するものを除きます。)

【教育訓練費の対象とならない費用】
(1) 法人等がその使用人または役員に支払う教育訓練中の人件費、報奨金等
(2) 教育訓練等に関連する旅費、交通費、食費、宿泊費、居住費(研修の参加に必要な交通費やホテル代、海外留学時の居住費等)
(3) 福利厚生目的など教育訓練以外を目的として実施する場合の費用
(4) 法人等が所有する施設等の使用に要する費用(光熱費、維持管理費等)
(5) 法人等の施設等の取得等に要する費用(当該施設等の減価償却費も対象となりません。)
(6) 教材等の購入・製作に要する費用(教材となるソフトウエアやコンテンツの開発費を含みます。)
(7) 教育訓練の直接費用でない大学等への寄附金、保険料

教育訓練費の明細書

上乗せ控除の要件として、教育訓練費の増加を適用する場合には、以下のような事項を記載した教育訓練費の明細書を作成する必要があります。
なお、現行制度では、この明細書を確定申告書に添付しなければなりませんが、改正後は、明細書を保存しておけば大丈夫です。
<教育訓練費の明細書の記載事項>
(1) 教育訓練等の実施時期:「年月」は必須、「日」は任意で記載
(2) 教育訓練等の実施内容:教育訓練等のテーマ、内容、実施期間
(3) 教育訓練等の受講者 :教育訓練等を受ける予定、または受けた者の氏名等
(4) 教育訓練費の支払証明:費用を支払った年月日、内容、金額、相手先の氏名または名称が明記された領収書等

まとめ

中小企業については、今回ご紹介した「中小企業向け賃上げ促進税制」と「人材確保等促進税制(改正後は「大企業向け賃上げ促進税制」」を選択適用することができます。

雇用者全体の給与が前年比1.5%以上増加していない場合でも、「人材確保等促進税制(大企業向け賃上げ促進税制)」の適用が可能となる場合があります。適用しそびれることのないように、決算前に、自社の各種給与の増加率、教育訓練費の増加率を確認し、適用できる税制を確認しておきましょう。

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