2025年度税制改正では、確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の拠出限度額引き上げが決定しました(詳細はこちらの記事をご覧ください。「2025年度税制改正大綱のポイント」)。一方で、受け取り時の「5年ルール」が「10年ルール」に変更され、2026年以降の受け取り時の課税ルールがより厳格化されます。
本記事では、iDeCoの受け取り時の課税ルールの変更内容と、それに伴う影響や最適な受け取り方法について解説します。
なお、この記事では、個人で加入することができるiDeCoに焦点を当てて説明していますが、給付金の受け取り方法については企業型DCも同様となるため、企業型DCに加入されている方も参考にしてください。
iDeCoの概要
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自身が拠出した掛金を運用し、資産形成を行う私的年金制度です。基本的に20歳以上65歳未満の公的年金の被保険者が加入でき、運用した掛金は60歳以降に老齢給付金として受け取れます。
●iDeCoの税制メリット
① 掛金が全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)
② 運用益が非課税(確定拠出年金内での運用商品の運用益は課税対象外)
③ 受給時にも所得控除適用(一時金は「退職所得控除」、年金は「公的年金等控除」の対象)
ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出しができないことや、運用成績によって給付額が変動する点には注意が必要です。
iDeCoの給付金の受け取り方法
iDeCoの給付金は、以下の方法で受け取れます。
1.一時金として一括受取
60歳以降75歳までの間に、一括で受け取る方法。退職所得控除が適用され、税負担が軽減されます。
2.年金として分割受取
60歳以降、5~20年の間で期間を設定し、定期的に受け取る方法。公的年金等控除が適用されます。
3.一時金と年金の併用
一部を一時金、残りを年金として受け取る方法。ただし、取り扱う金融機関が限られています。
iDeCo給付金受け取り時の税金
iDeCo給付金の受け取り時の課税方法は、選択する受取方法によって異なります。
1.一時金として受け取る場合(退職所得)
• 退職所得控除が適用され、控除後の1/2のみ課税対象
• 退職所得の計算方法: 退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
• 退職所得控除額(加入年数に応じて異なる)
o 20年以下:40万円×加入年数(最低80万円)
o 20年超:800万円+70万円×(加入年数-20年)
一般的には、退職金がない、または、少ない場合に、税金の負担が軽くなる方法です。
2.年金として受け取る場合
• 公的年金等控除が適用され、控除後の金額に課税
• 雑所得の計算方法: 雑所得=収入金額-公的年金等控除額(※)
※公的年金等控除額は、受給者の年齢、年金の収入金額に応じて定められています。
一般的には、会社の退職金やiDeCo一時金が退職所得控除額を大幅に上回る場合や、年金が少ない場合に、税金の負担が軽くなる方法です。
2025年度税制改正による変更点(10年ルール導入)
2026年1月1日以降、一時金で受け取る場合の課税ルールが変更され、iDeCo一時金を受け取った後、10年以上空けなければ退職所得控除を満額利用できなくなります。
【変更前】5年ルール
• iDeCo一時金を受け取った後、5年以上空ければ退職金にも退職所得控除を満額適用
【変更後】10年ルール(2026年以降)
• iDeCo一時金を受け取った後、10年以上空けなければ、退職所得控除が満額適用されない
<例>
• 60歳でiDeCo一時金を受け取り → 65歳で退職金受け取り
o 変更前(5年ルール):満額適用
o 変更後(10年ルール):退職所得控除が制限され、税負担が増加
【参考】改正後の退職所得控除の課税ルール(2026年~)
① 退職金とiDeCo一時金を同じ年に受け取る場合
退職金とiDeCoの期間の長い方の退職所得控除を適用
② 退職金を先に受け取る場合
iDeCo一時金の受け取りが退職金受け取り後19年以内の場合は、iDeCo一時金の退職所得控除は、退職金との重複分を引いて計算(20年以上の場合は調整不要)
③ iDeCo一時金を先に受け取る場合
退職金の受け取りがiDeCo一時金の受け取り後9年以内の場合は、退職金の退職所得控除はiDeCo一時金との重複分を引いて計算(10年以上の場合は調整不要)
最適な受け取り時期と方法のシミュレーション
「10年ルール」への変更後も、退職金とiDeCoの受け取り時期を工夫することで、税負担を軽減できます。税負担を軽減できる受け取り方法はケースによって異なりますが、一つ具体例をあげてみてみましょう。
<ケース別シミュレーション>
モデルケース:60歳で勤続35年、65歳で勤続40年の会社員
退職金2,000万円
iDeCo給付金 60歳まで加入の場合550万円、65歳まで加入の場合750万円
その他の所得なし
【ケース1】60歳で退職金・iDeCo一時金を同時受け取り
60歳:退職所得((2,000万円+550万円)―(40万円×20年+70万円×15年))×1/2=350万円
⇒所得税 27.8万円 住民税 35万円
➡税負担 約63万円
【ケース2】60歳で退職金、65歳でiDeCo一時金を受け取り
60歳:退職所得(2,000万円―((40万円×20年+70万円×15年))×1/2=75万円
⇒所得税 3.8万円 住民税 7.5万円
65歳:退職所得(750万円―(70万円×5年))×1/2=200万円
⇒所得税 10.4万円 住民税 20万円
➡税負担 約42万円
【ケース3】60歳でiDeCo一時金、70歳で退職金を受け取り(「10年ルール」回避)
60歳:退職所得:(550万円―(40万円×20年+70万円×15年))×1/2=0 ⇒課税なし
70歳:退職所得:(2,000万円―((40万円×20年+70万円×25年))×1/2=0 ⇒課税なし
➡税負担 なし(最も税優遇を受けられる)
【ケース4】60歳で退職金、65歳から5年間iDeCoを年金方式で受け取り、公的年金は70歳受給開始に繰り延べ
60歳:退職所得:(2,000万円―((40万円×20年+70万円×15年))×1/2=75万円
⇒所得税 3.8万円 住民税 7.5万円
65~70歳:年金収入150万円 ⇒非課税
➡税負担 約11万円
このシミュレーションでは、ケース3(iDeCoを先に受け取り、退職金を10年以上後に受け取る)が最も税負担を抑えられることが分かります。
ただし、退職金の受け取り時期を自由に決められるのは、経営者など一部の人に限られます。現実的な選択肢としては、一時金と年金の併用や、受け取り時期の工夫が重要になります。
なお、これはあくまでもこのケースの場合のシミュレーションとなりますので、自身のケースでのシミュレーションをしてみることが必要です。
まとめ
2025年度税制改正により、iDeCoの受け取り方に影響を及ぼす「10年ルール」が導入されます。これにより、退職金とiDeCoの受け取り時期を調整しないと、税負担が増える可能性があります。
iDeCoは拠出時に税優遇を受ける制度ですが、受取時の税制も考慮しなければなりません。自身のケースでのシミュレーションを行い、最適な受け取り方法を検討しましょう。
また、税制は今後さらに変更される可能性もあるため、最新情報の確認と専門家への相談をおすすめします。