中小企業も内部統制が必要な理由は?4つの目的と6つの要素を解説

経営お役立ち情報

「内部統制の重要性が叫ばれているが、中小企業でも必要なのだろうか?」
このような疑問をお持ちではないでしょうか?

結論は、内部統制は中小企業においても必要です。

内部統制は、上場企業だけが行う施策ではありません。会社の大小問わず、すべての従業員がスムーズに取り組めるようなルールの可視化とシステムの構築が必要です。

今回は、そもそも内部統制とは何か?内部統制の4つの目的と実現に向けた6つの要素について解説します。

内部統制とは

内部統制とは「経営者が組織の業務をうまく進めるために社内統制する仕組み」です。具体的には、取締役会や監査役などの社内管理体制がそれぞれ機能することで、社内を管理し統制を図ります。

内部統制の重要性が言われ始めたのは、2001年から2002年にかけて米国で起こった会計不祥事が発端です。2001年に米国のエンロンが会計不祥事を起こして破綻、続けて電気通信業社のワールドコムが米国史上最大と言われる4兆7,000億円もの負債を抱えて破綻しました。

この流れを受け、日本の上場企業も内部統制報告書の作成が義務付けられ、公認会計士による監査が行われるようになったのです。

内部統制の4つの目的

内部統制の目的は、以下の4つです。

・業務の有効性及び効率性
・財務報告の信頼性
・事業活動に関わる法令等の遵守
・資産の保全

それぞれ解説します。

業務の有効性及び効率性

企業は「ヒト・モノ・カネ・情報」を有効に使い、生産性を高めます。無駄な業務が発生し効率が下がれば余計なコストが発生し、経営を悪化させる要因になりかねません。

業務効率や生産性を高めるには、例えば販売におけるセールステックの活用が有効になります。セールステックとは、テクノロジーを活用して営業活動をより効率的にし、生産性を上げるツールです。

このように現在では、企業の生産性を高め、業務を効率化させるツールが多く存在します。これらを通して、業務の有効性や効率性を高めることが、内部統制のひとつの目的なのです。

財務報告の信頼性

企業の経営状態を図るうえで、財務報告は重要な指標になります。仮に粉飾決算などがあれば、融資している銀行や株主は大きな損失を受け、企業は信頼を一気に失います。

もともと企業の内部統制の必要が叫ばれた背景には、上場企業の財務報告の信頼性が不十分だった事実があります。アメリカで、株式市場を失墜させる件が起こったのを機に制定された米国SOX法をもとに、日本でも2006年6月に、金融商品取引法が成立しました。その中で、財務報告の信頼性確保にかかる内部統制報告書制度が、「J-sox」です。

財務報告の透明性が高ければ、ステークホルダーに対して信頼性が高まり、投資家からの投資や金融機関からの融資を得やすくなります。

事業活動に関わる法令等の遵守

企業は利益を追求することが目的ですが、大前提としてコンプライアンスを徹底しなければいけません。なぜなら、目先の利益に目がくらみ法令違反すれば、企業の社会的信頼価値が損なわれ、結果として存続できなくなるからです。

企業の主な法令違反の事例としては、以下のようなものがあげられます。

・食品の産地偽装
・不正会計
・顧客情報流出
・過重労働
・不正受給

このようなことが重なれば、企業は社会的信用を失い、倒産に至ります。経営の基本である法令遵守を確実に進めるうえで、内部統制が重要となります。

資産の保全

当然ですが、資産が尽きれば経営はできません。企業は資産を適切に活用して、利益を得るからです。利益の源泉になる資産を安全に管理し、運用することが内部統制の目的となります。

そのためにも、横領や不正経理などの不祥事を未然に防ぎ、管理する内部統制が企業には求められるのです。

内部統制を実現させる6つの要素

次に内部統制を実現させるための、以下6つの要素について見ていきましょう。

・統制環境
・リスクの評価と対応
・統制活動
・情報と伝達
・モニタリング(監視活動)
・IT(情報技術)への対応

統制環境

統制環境とは、内部統制を遵守して、適切に企業運営するための環境整備であり、内部統制の他の5つの要素の基盤となるものです。

統制環境は、具体的に以下の7つから成り立ちます。
・誠実性や倫理観
・経営者の意向及び姿勢
・経営方針及び経営戦略
・取締役会及び監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会(以下「監査役等」という。)
・組織構造及び慣行
・権限及び職責
・人的資源に関する方針と管理
出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

上記の通り、統制環境の整備には、企業理念や経営方針の浸透が大切になるのです。

リスクの評価と対応

リスクの対応と評価とは、「リスクマネジメント」のことで、企業には不可欠になります。企業にはさまざまなリスクが存在し、正しく認識して対応する必要があるからです。

リスクの分析(評価)では、例えば取引先の倒産による、売掛金の未回収などがあります。これに対しての対応が、倒産保険の活用や、貸倒引当金の準備などになります。

このように、想定されるリスクに対するマネジメントも、内部統制実現のための要素となるのです。

統制活動

統制活動とは、経営者の指示や組織の決定事項を正しく伝達し、共有、実行するためのプロセスです。内部統制を実現させるための、具体的な活動になります。

統制活動の取組みについては、以下があげられます。
・職務権限や職責を整理して与える
・職務を手分けして受け持つ
・社内規定や業務マニュアルを作成し整備する

例えば、資産管理において、ひとりの担当者に権限が集中すれば、私的流用や、仕入業者と癒着して代金着服などに繋がる恐れが有ります。これらの職務を、「承認」、「記録」、「管理」の複数のプロセスに分け、複数人で管理することで、不正防止に繋げていきます。

情報と伝達

内部統制実現のためには、適切なタイミングで社内外の情報を伝達することが大切になります。適切なタイミングで情報伝達されなければ、従業員は情報を正しく理解し処理できなくなるからです。

今ではIT化された情報システムが、普及しています。インターネットをベースにした、情報共有システムやアプリ、伝達方法もチャットツールなどの活用が増えてきました。以前と比較して、情報と伝達にかかるコストが、格段に下がっています。

モニタリング(監視活動)

モニタリングは、内部統制が有効に機能しているかを監視、評価するプロセスです。モニタリングは、日常的モニタリングと独立的評価の2つに分かれます。

日常的モニタリングとは、内部統制の有効性を監視するために、経営管理や業務改善などを日常の業務に組み込む手法です。

対して独立的評価とは、通常業務とは切り離した視点で、定期的または随時行われる内部統制の評価です。例えば、棚卸実数や帳簿記録との照合作業などによる、財務諸表の信頼性の担保などがこれに該当します。

IT(情報技術)への対応

事業活動に必要なITを適切に導入し、整備・運用することです。業種や業界を問わず、現代社会では業務を効率的に実施するためには、IT化は不可欠になります。

今では多くの企業が、以下の場面においてIT化を図っています。
・会計や販売、在庫管理
・セキュリティ・バックアップ等

このようにITの活用は、内部統制の実現に向けて、極めて重要な役割を担っています。そして、情報伝達の迅速化、履歴の調査、各種マニュアル化などIT自体が適切に機能しているかどうかを評価することも、内部統制の重要な要素となるのです。

中小企業も内部統制が必要な3つの理由

今後は中小企業においても、内部統制の必要性が高まってくる理由は以下の3つです。

・企業価値を高めるため
・取引先へのアピールになる
・監視を仕組み化させ社長本来の仕事に集中する

それぞれ解説します。

企業価値を高めるため

中小企業も内部統制が必要な理由のひとつは、企業価値そのものが高まることです。内部統制の活動は本来、取引先に求められて行う「守り」でなく、自社の運営方法を見直し、企業価値そのものを高める「攻め」の活動になるからです。

例えば「棚卸実数の照合は、正確な財務諸表の作成において大切です。そこから一歩進んで、適切な在庫数にするための戦略及び販売が、キャッシュフローの改善に繋がります。

このように内部統制を通して、生産性向上などの革新を図り、結果として企業の価値を高めるのです。

取引先へのアピールになる

中小企業でも内部統制の仕組みを設計し、仕組みに沿って管理することは取引先へのアピールになります。取引先が上場企業の場合、「品質」、「価格」、「納期」といった基本的な要件に加え、内部統制が十分できているかを問われるからです。

2008年4月1日より、上場企業には「内部統制報告書」の提出が義務化されました。提出義務のない中小企業でも、取引先である上場企業から内部統制強化を求められるのは、自然な流れです。

監視を仕組み化させ社長本来の仕事に集中する

中小企業の多くはトップダウン型の経営で、社長自ら内部統制で監視しているケースが多いでしょう。しかし、ある程度の人数規模になると、社内で起こっていることすべてを、社長が把握することは不可能です。社長自ら社員を詳細に監視すれば、経営戦略の立案など、本来すべき社長の仕事がおろそかになりかねません。

内部統制を整備し仕組み化することで、きめ細かい監視体制にするとともに、社長本来の仕事に集中できるのです。

まとめ

企業の不正を無くして顧客の信頼を得ることは、一見遠回りのように思えますが、業績向上には不可欠で、且つ近道になります。内部統制は、企業の成長や環境の変化と共に進化し、企業が続く限り終わりはありません。中小企業においても、内部統制の重要性を再認識し、より自社の価値を高められる施策が必要になるのです。

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