厚生年金保険とは?会社が労働者を雇用するうえで知っておくべきこと

労務お役立ち情報

厚生年金保険と国民年金の違いについて、あまりよく分からない人も多いのではないでしょうか。

しかし労働者を雇用するうえで、厚生年金保険の理解はとても大切です。
そこで、この厚生年金保険の概要や手続き方法について、詳しく解説していきます。

厚生年金保険と国民年金の違い

まず厚生年金保険と国民年金の違いについて、仕組みや保険料の違い、年金受給額の違いなど、さまざまな面から解説します。

それぞれの仕組みについて

厚生年金保険と国民年金はまったく別のものというわけではなく、どちらも公的年金制度の一部です。

日本に住むすべての20歳〜60歳未満の人が加入しなければならないのが国民年金(基礎年金)であり、国民年金の上に、上乗せして加入するのが厚生年金保険です。
したがって、厚生年金保険に加入している場合には、国民年金にプラスして厚生年金保険に加入しているというイメージになります。

保険料の違い

厚生年金保険と国民年金では、保険料の決定方法がまったく違います。

まず国民年金の保険料は収入に関係なく定額となっており、2021年12月現在では月額16,610円となっています。この保険料は、物価や賃金の伸びに応じて、毎年度決まった計算式によって見直されます。

一方で、厚生年金保険は収入に応じて保険料が上がっていきますが、保険料には上限が設けられており、月額118,950円(報酬月額635,000円以上)が上限となっています。また最低保険料は月額16,104円(報酬月額83,000円〜93,000円の場合)です。厚生年金保険料の半額は会社が負担します。

年金受給額の違い

どれだけ収入があっても保険料の変わらない国民年金と、保険料の半分を会社が負担する厚生年金保険ですが、その分年金受給額にも違いが出ます。

それぞれの仕組みで説明したとおり、厚生年金保険に加入している場合は、国民年金にも加入しているということになります。ですので、厚生年金保険に加入している場合には、国民年金の年金受給額に加えて、別途、厚生年金保険の年金も受給することができます。

まず国民年金は保険料が定額なので、年金受給額も定額で、令和3年度では月額65,075円となっています。ただしこの金額は、保険料を納付すべき20歳〜60歳の40年間にきちんと全額を納付している場合の満額なので、納付できていない月がある場合には、その分受け取る受給額も減額されます。

一方で厚生年金保険は、保険料の支払いが収入に応じて多くなる分、支払った保険料に応じて年金受給額も多くなります。

例えば厚生年金保険に40年間加入し、40年間の平均月収が439,000円だった場合、厚生年金保険の年金受給額は月額約90,000円になります。この月額約90,000円は厚生年金保険部分のみの金額なので、これに国民年金の月額65,075円を足しあわせた合計約155,075円が、厚生年金保険に加入していた場合の1ヶ月の年金受給額となります。

扶養する人がいる場合の違い

厚生年金保険と国民年金では、扶養する人がいる場合の取り扱いも違います。

まず厚生年金保険では、妻などの扶養する人がいる場合でも保険料は変わらず、さらに扶養されている人は保険料を負担することなく、国民年金の加入者となることができます。

一方、国民年金では扶養に入れるという仕組みがなく、各自で国民年金へ加入し各自で月額16,610円を支払う必要があります。例えば夫に扶養されている妻でも、夫が国民年金の加入者であれば、妻も夫とは別に国民年金へ加入し、さらに月額16,610円も負担しなければなりません。

会社からみた厚生年金保険

会社からみた厚生年金保険について、加入させなければならない条件や、支払わなければならない保険料について解説します。

加入の条件

会社が厚生年金保険へ加入させなければならないのは、法人の場合であれば代表者や役員等と正社員です。

個人事業主の場合でも、常時雇用している従業員が5人以上いるときには、正社員を厚生年金保険に加入させる必要があります。

その他パートタイマーなどの短時間労働者であっても、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上になる場合には、厚生年金保険への加入が必要です。

なお、上記にあてはまらない短時間労働者でも、次のすべてにあてはまるときには、厚生年金保険の加入対象となります。

【短時間労働者が厚生年金保険の加入対象となる条件】
①労働時間が週20時間以上である
②勤務期間が1年以上見込まれている
③月給88,000円以上である
④学生ではない
⑤会社に従業員が501人以上いる

ただし②と⑤の条件は今後、法改正が決まっており、2022年10月からは②の「1年以上」が「2ヶ月以上」に、⑤の「501人以上」が「101人以上」に変わります。

さらに2024年10月からは⑤の「101人以上」がさらに「51人以上」となります。

会社の保険料負担額

厚生年金保険料の計算方法は、報酬月額をもとに割り出した基準の月額に、決められた保険料率をかけて計算します。保険料率は2021年12月現在で18.3%となっており、これをかけて算出した保険料の半額を会社が負担します。

例えば報酬月額が210,000円の場合、基準の月額は200,000円で、これに18.3%をかけた36,600円が厚生年金保険料となります。この厚生年金保険料36,600円を、会社と労働者が半分ずつ負担するので、それぞれの負担額は18,300円ということになります。

加入させなかった場合の罰則

会社にとって厚生年金保険料は大きな負担となりますが、加入が必要な労働者を加入させなかった場合には、厳しい罰則が定められています。加入させなかった場合には、支払うべき期間の保険料納付が必要になるとともに、6か月以下の懲役か50万円以下の罰金となります。厚生年金保険の加入要件をしっかり把握し、加入すべき労働者が未加入となっていないか注意しておきましょう。

最近ではインターネットの普及によって、労働者も加入要件を簡単に知ることができるので労働者から所定の機関に指摘が入ることもあり得ます。また、厚生労働省も未加入の事業所をなくすために、積極的に動き始めています。未加入が把握された場合には指導が入り、それでも改善されない場合には、警察への告訴も視野に入るので注意しましょう。

厚生年金保険の加入について

厚生年金保険に加入させる場合の手続き方法や、加入後の保険料支払いの流れについて解説します。

加入の時期と手続き方法

会社が労働者を厚生年金保険へ加入させる場合には、その事実が発生してから5日以内に加入の届出が必要です。この加入の届出は、「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出することによって行い、提出方法は郵送のほか、窓口への持参や電子申請によっても行うことができます。

なお「被保険者資格取得届」には労働者のマイナンバー(個人番号)か基礎年金番号の記載が必要なので、すみやかに労働者へ年金手帳か基礎年金番号通知書、またはマイナンバーカードの提出を依頼しましょう。

保険料の納付方法

厚生年金保険料は会社と労働者が半分ずつ負担しますが、その納付方法については、まず会社が給与の支給時に労働者負担分を差し引きます。その後、会社負担分と労働者負担分を合わせた金額を、会社が年金事務所へ納付します。

なお納付方法は口座振替か、郵送で送られてくる納付書によって納付し、納付書に記載の番号を用いて電子納付(Pay-easy)することもできます。またこのときに支払うのは厚生年金保険料だけではなく、健康保険料なども合わせて納付します。

まとめ

厚生年金保険は国民年金に上乗せされる年金で、支払った保険料が多いほど、受け取れる年金額も多くなります。また保険料の半分を会社が負担してくれるので、労働者にとっては嬉しい制度である反面、会社にとっては負担になることもあるでしょう。

ただし、加入が必要なのにもかかわらず加入させなかった場合には、厳しい罰則も設けられているので注意が必要です。労働者が加入要件を満たした場合には、すみやかに加入手続きを行い、保険料の会社負担額についても把握しておくようにしましょう。

キャシュモでは、このような労務手続きについても全面的にサポートいたします。ぜひご相談ください。