決算書の中の貸借対照表を見ると、その会社の負債総額がわかります。一般的に負債と聞くと借金のイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
しかし、会計上の負債は借入金だけではありません。会社の財務状況を把握するためには、負債の詳細を知ることが大切です。また、負債を知ることは、さまざまな財務状況の判断を可能にします。本記事では、負債の区分や財務状況の判断方法、そして負債の減らし方について解説します。
負債とは
負債とは、期日がきたら支払わなければいけない債務や、将来費用や損失となるものを指します。銀行からお金を借り入れた場合、期日までに返済しないといけません。また、商品購入代金の未払い分は、後ほど支払わなければいけません。これらは、外部から調達した資金であるため「他人資本」とも言います。
負債は、貸借対照表の右側に記載するものの一つです。なお、貸借対照表の左側には資産(総資産)、右側には負債と純資産を記載し左右の合計は同じになります。そのため、負債を式で表すと次のとおりです。
負債=総資産-資産
負債は流動負債と固定負債に分類できます。
流動負債と固定負債を分類するには二つの基準があります。
① 正常営業循環基準:企業の通常の営業活動により生じる債務は例え弁済期限が1年を超えても流動負債とする
②1年基準:貸借対照表日の翌日から起算して、1年以内に弁済期限が来るものは固定負債とする
流動負債
流動負債に該当する主なものは次のとおりです。
● 営業債務:買掛金・支払手形など 営業活動により生じた債務
● 営業外債務:未払金・短期借入金など
● 会計的負債:未払費用・前受金・引当金など
固定負債
固定負債に分類される主なものは次のとおりです。
● 長期借入金:返済期限が1年以上の借入金
● 長期未払金:返済期限が1年以上の未払金
● 退職給付引当金:将来支払う退職金に備えるもの。事業年度ごとに費用として計上する。
負債からわかる財務状況判断
負債額を利用した財務分析が可能です。ただ、負債の数値を漠然と眺めているだけでは財務状況を掴むことができません。
これから紹介する6つの指標を用いることで、負債に対する返済余力や、支払い能力などが確認できます。財務状況の判断にご利用ください。
流動比率
流動比率とは、1年以内に支払わなければならない負債に対し、主に1年以内に現金化される資産がどのくらいあるのかを表す指標です。流動比率は130~150%を維持しておくとよいでしょう。100%を下回ると危険です。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
当座比率
流動比率で利用する流動資産の中には即現金化するのが困難な棚卸資産などが含まれています。そのため、流動比率以上に厳しく支払い能力を確認できるのが当座比率になります。当座資産とは流動資産の中でも現金化しやすい次のものを主に指します。
● 現金・預金
● 受取手形
● 売掛金
● 売買目的有価証券
● 未収金
なお、流動比率と比べると条件が厳しいため100%を下回ることも珍しくありません。80%を目安とするとよいでしょう。また、売掛金や未収金の中に不良債権がある場合は、正確な数値とは言えません。
当座比率=当座資産÷流動負債×100
固定比率
固定比率は会社が長期保有する固定資産に対する自己資本の割合を示します。固定資産とは次のものです。
● 有形固定資産:建物、構築物、機械、車両、工具、土地など形がある資産
● 無形固定資産:特許権、借地権、商標権、ソフトウェアなど形がない資産
● 投資その他の資産:長期前払費用、有価証券など
どれも、資金が長期にわたり固定化されます。すぐには現金化できないため、これらの購入を短期間で返済しなければならない流動負債でまかなうと、資金繰りが苦しくなります。そこで、固定資産は安定した資源である自己資本で購入することが良いとされています。固定比率が100%を切っていれば、自己資本で全ての固定資産をまかなっていることがわかります。財務状況は健全といえます。
また、企業は借入を行うのは当然といえます。そのため、固定比率が120%程度までは安全と判断されることが多い状態です。高ければ高いほど、財務の安定性は低いと判断されます。しかし、固定比率だけで危険と判断されることはありません。次に紹介する固定長期適合率と併せて判断しましょう。
固定比率=固定資産÷自己資本×100
固定長期適合率
固定比率で分かるのは、自己資本と固定資産とのバランスだけでした。一方、固定長期適合率を利用すると、自己資本に固定負債を加えた金額と固定資産とのバランスを分析できます。固定負債には長期借入金など、支払期限が1年を超える負債を指します。
自己資本だけで全てをまかなうのは難しい場合でも、固定負債を含めると全てを賄うことができれば安心です。固定比率が100%を超えている場合でも、固定長期適合率が100%より少なければ、財務状況は健全であると判断できます。
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100
有利子負債比率
有利子負債とは、利息をつけて返済すべき負債です。具体的には次のものなどがあります。
● 短期借入金
● 長期借入金
● 社債
● 転換社債
● 受取手形割引
有利子負債比率は資産全体の中に利息をつけて返済すべき負債がどのくらいあるのかを示す指標です。有利子負債が多いほど資金繰りが悪化する可能性は高まります。自己資本率が高く有利子負債が低いほど、財務状況は安定していると判断できます。一般的に100%以下が適正目安とされています。なお、より正確に判断するためには、返済義務のない負債がある場合は除いて計算するとよいでしょう。
有利子負債比率=有利子負債÷自己資本×100
負債比率
負債比率は自己資本に対する負債(他人資本)の割合を示します。負債面から見た財務の安定性を判断できます。負債に含まれるのは、有利子負債だけではありません。支払手形や買掛金、未払金のように利子の付かない負債もあります。それらの負債も含め計算します。一般的には、負債比率が100%を下回っている場合、安全性が高く返済余力があると判断できます。
負債比率=負債÷自己資本×100
負債を減らす3つのポイント
財務状況が不健全な場合、利益を増やす対策、そして負債を減らす対策が必要です。ここでは、負債を減らすための対策を3つ紹介します。
資産の売却
資産をすべて見直します。遊休資産が含まれている場合は売却します。また、状況によっては機械や車両や建物などを売却し、レンタルを活用した方が良い場合もあるでしょう。状況に応じて検討しましょう。
不要な経費を削減する
費用を見直し、不要な経費があれば削減します。オフィスや倉庫の賃料や通信費といった、毎月かかる費用の中で抑えられるものがないか検討します。また、消耗品などが在庫過多になっているようであれば発注を控えます。この機会に、ペーパーレス化への移行を検討してもよいでしょう。
事業ごとに見直しを行う
複数の事業を運営している場合、収益をあげていない事業はないか見直しましょう。事業により利益率は異なります。利益率の低い事業を廃止し、利益率の高い事業を拡張する、という流れを検討してもよいでしょう。多くの資産が必要な利益率の低い事業があれば、それを辞めることにより、資産を手放し、負債を減らすことにつながります。
まとめ
本記事では、負債について解説してきました。負債は流動負債と固定負債に区別できます。負債を元にして、さまざまな財務状況を判断することが可能です。
財務状況が健全といえない場合は、利益を増やすこととあわせて、負債を減らすことも検討するとよいでしょう。