個人がお金を借りて返せなくなった場合には、自己破産など債務整理の手続きをするまで債務は残り続けることになります。つまり、時効にかからなければ、一生涯支払い責任が続くということです。
それでは、会社法人の場合はどうでしょう。支払いができなくなった、借りたお金が返せなくなった、といった場合、最終的には倒産ということになります。では、倒産した後、債務はどうなるのでしょうか。会社が倒産したから支払いはしなくていいのか、会社が倒産したら誰が支払う責任を負うのでしょうか。
起業してもし倒産した場合どうなるのか、と不安がある方がいらっしゃるかもしれません。ぜひ最後まで読んで参考にしていただければと思います。
有限責任と無限責任とは
会社経営がうまくいかなくなると、手元のお金が乏しくなり、支払いが苦しくなっていきます。そして、どうしても支払いができなければ、最終的には倒産ということになります。その場合の債務に対する責任には、責任範囲が限定されているケース【有限責任】と、限定されずにすべての債務の支払い責任がかかるケース【無限責任】の2つのパターンがあります。
有限責任と無限責任の違い
有限責任というのは、出資した人は出資したお金の分だけ責任を負って、それ以上の責任は負わないということです。つまり、会社の設立に100万円を出資して1000万円の負債で倒産した場合、出資した100万円は返済や支払いに充てられますが、それ以上の支払い義務はありません。100万円をあきらめれば、それで済むということです。
それに対して無限責任を負う場合には、100万円を出資している会社が1000万円の負債で倒産となった場合、1000万円分の支払い責任を負います。倒産した会社の負債金額全てを支払う義務が生じるのです。この債務は個人にかかるので、個人でお金を用立てて支払いをするか、個人の資産を売却するなどして支払いに充てるしかありません。もし個人で支払いできない場合は、自己破産などの債務整理の手続きをとらなければならない状況に追い込まれます。
なぜ有限責任という考えがあるのか
借りたお金は必ず返さなければならないというのが一般的な常識ですが、なぜ有限責任という考え方が生まれるようになったのでしょうか。
世界初の有限責任の会社はオランダの東インド会社です。より広くより多くのお金を集めるためには、出資者に全ての責任を負わせるよりも、出資者の責任を出資金の範囲に限定したほうがよい、という考え方が出現しました。特に、産業革命後、多くの資金を様々な人から集めて大規模な事業を行うことが盛んになっていきました。その際、お金を出す人は、経営の詳細までを把握することはできません。それなのに、事業がうまくいかなかった場合には無限に責任を追及されるかもしれない、となると怖くて出資できなくなります。そこで、有限責任という制度が生まれ広まっていったのです。
有限責任の会社形態
会社形態の中で、有限責任となるのは株式会社と合同会社です。以前は有限会社という形態がありましたが、2006年の会社法の改正で新たに有限会社を設立することはできなくなりました。
株式会社
株式会社において、出資者は会社が発行する株式を購入する形で出資し、株主と呼ばれます。株主は所有する株式の範囲内で責任を負うことになります。
上場した会社の株式は一般公開され誰でも出資することができるようになるため、広く資金を集めることができます。会社が倒産すると株の価値がなくなりますが、それ以上の責任がないので、誰でも安心して出資することができます。
合同会社
合同会社は2006年の会社法改正で新しくできた会社形態で、アメリカのLLCをモデルに創設されました。ちなみにアップルやGoogleの日本法人も合同会社です。
合同会社の出資者も株式会社と同様に、出資金の範囲内で責任を負う有限責任です。
持ち分会社・有限責任社員・無限責任社員
合同会社と後述する合名会社、合資会社のことを法律的には「持ち分会社」といいます。株式会社では出資する株主と事業を行う取締役は分かれていますが、持ち分会社においては「出資者=会社の経営者」と考えられています。
そして、持ち分会社の出資者のことを、法律上では「社員」といいます。これは一般的な従業員としての社員とは異なります。合同会社の出資者は「有限責任社員」ということになります。
無限責任の会社形態
無限責任となる会社形態は、合名会社と合資会社です。それぞれどういった形の会社か説明していきましょう。
合名会社
合名会社では、出資する社員は全員が無限責任を負う無限責任社員となります。個人事業主が集まった形の会社が合名会社といってもいいかもしれません。
合資会社
合資会社では無限責任社員と有限責任社員の両方が存在します。実際に事業経営を行うのが無限責任社員、出資をするのが有限責任社員となっています。
有限責任と無限責任のメリット・デメリット
会社形態によって有限責任と無限責任があるということをご紹介しましたが、ここでは、どういったメリット・デメリットがあるのかを探っていきます。
有限責任・無限責任のメリット・デメリット
有限責任のメリットは、出資した金額以上に責任が追及されないということです。最悪の場合でも出資した金額が戻ってこないということであれば、出資する側の心理としてはお金を出しやすいといえます。有限責任のデメリットは特にこれといったものはありません。
これに対して、無限責任にはメリットというほどのメリットはなく、事業が破綻した時のリスクが大きすぎるというデメリットがあります。
無限責任という会社形態が存在する理由
無限責任にはこれといったメリットがない上に大きなデメリットがあります。それにもかかわらず、合名会社・合資会社という無限責任の会社があるのはなぜでしょうか。
2019年のデータでいうと、新たに設立された会社のうち、株式会社と合同会社が99%以上で、合名会社・合資会社は1%にも満たない数です。
2006年の会社法の改正で最低資本金の制限もなくなり、会社設立のハードルが低くなりましたが、それまでは、株式会社ならば最低1000万円、有限会社ならば300万円の資本金を用意しなければなりませんでした。そこまでの資本金が用意できない場合には、合名会社・合資会社を設立するしかなかったのです。事業がうまくいっていればこれらを廃止する理由もないことから、現在もそのまま残っているということのようです。
中小企業の社長の責任はどこまでか
ここまで会社の責任について、ご説明してきました。ほとんどの会社は株式会社か合同会社ですので、社長の責任は出資した分だけと考えておけばいいのでしょうか。
中小企業の責任はどこまでかかるのか
日本の会社の99%以上は中小企業です。その多くは株式会社か合同会社ですのでこれらの会社において債務に対する社長の責任は出資金の範囲だとすれば、起業のリスクはそれほど大きくないといえます。
ところが実際の社会ではそうなっていません。事業がうまくいかず、融資の返済ができずに倒産後夜逃げしたというような話は聞いたことがあると思います。なぜそうした事態に陥ってしまうのでしょうか。
なぜ中小企業の社長は実質無限責任なのか
その理由は、中小企業の融資において多くのケースで、会社の信用だけでは融資できず、会社の実質的なオーナーである社長個人の連帯保証をつけることが条件になっているからです。会社が倒産して返済できなくなれば、連帯保証人の社長個人に返済義務が生じます。このため、中小企業の社長は実質無限責任といわれているのです。
まとめ
ここまで有限責任と無限責任についてご紹介してきました。
起業するほとんどの方は、会社形態として株式会社か合同会社を選ぶことと思いますが、中小企業の社長は実質無限責任という現実も知っておいたほうがいいでしょう。事業を行っていくうえでリスクはつきものですが、どこまでそのリスクをとることができるのか、判断が重要になってきます。この記事がその判断材料の一つになれば幸いです。
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