企業経営において、絶対に役に立つ「TOC理論」とは?<経営講座第10回>

経営お役立ち情報

「生産性を改善したにも関わらず、利益が出ない」
「業績好調な企業が、さらに生産を増やす目的で、設備増強や、オペレーターの増員を行ったが、思ったよりも利益が増えない」

一体なぜでしょうか。
そこにはきちんと理由があります。
どんな業種の企業であろうと、ビジネスに携わっている方ならば、必ず参考になるであろうビジネス論をご紹介します。

それは、「TOC(制約理論)」というものです。
この理論は、イスラエル人物理学者のE.M.ゴールドラット博士によって1974年に考案されたもので、1984年にゴールドラット博士が出版した「The Goal」という著書で、理論体系が公開されました。

様々なことに活かせる思考プロセスを学ぶことができるので、ご紹介します。

生産的とは何か

ビジネスの分野では、「生産性」「生産的」であるという言葉をよく耳にしますが、
本来、「生産的である」とはどういった表現なのでしょうか?

「機械を導入し、生産効率が上がった」

「一度にたくさんの製品が作れるようになり、生産性が高くなった」

「従業員の生産性が低い」

皆さんの中には、こういった表現を思い浮かべる方がいらっしゃるかと思います。
当記事では、「生産性」とは、以下の状態のことを表します。


「生産性」とは「目標に向かって会社を近づける行為」そのものを指し、「生産的である」とは、「目標に向かって何かを成し遂げること」を表します。

反対に言えば、会社を目標から遠ざける行為はすべて「非生産的」であるということです。
つまり、会社の「目標」がはっきりと定まってない場合には、そもそも「生産性」という概念自体、全く意味を成さないということになります。

「生産性が上がらない」と嘆く企業の本当の問題は、「生産性が上がらないこと」ではなく、「企業の目標が何なのかをよく把握していないこと」なのです。

では、そんな企業の「目標」とは一体何なのでしょうか?

企業の目標とは何か

どんな企業であっても、目標は1つしかありません。それは、「お金を儲け続けること」です。
「お金を儲ける」とは、つまり、「利益をあげること」です。
それ以外は全て、目標を達成するための「手段」です。
効率的に商品を作ることも、コスト削減を図ることも、目標達成に向けた、ただの手段の一部に過ぎません。

現場で仕事をしていると、会社の目標が細分化され、手段自体が目標化してしまうことが多々あります。例えば、A部署では、「コスト削減」が目標とされ、A部署の評価が「どれだけコストを削減できたか」によって決まるとします。そうすると、A部署は、「余分な人件費、経費の削減」といった形で、あらゆるコストを削減していくことでしょう。その結果として、A部署は、「コスト削減」という目標は達成できたかもしれません。
一方で、コスト削減をしたことによって、営業効率が下がり、売上が落ちてしまう可能性があります。そうなれば、「利益 = 売上 – コスト」なので、コストが減っても、売上が減れば、本来の企業の目標である「利益、儲け」が出ないという可能性もあります。

ここからわかるのは、「部分でなく全体を見る」ことの重要性です。
組織において、各部署の問題点に着目し、それぞれ個別に改善して問題解決を図る手法を「部分最適」と言いますが、これでは、各部署の生産性や効率は上がっても、組織全体で見ると、マイナスになってしまう場合があります。
そうではなく、組織全体としての目標を考え、組織全体の効率性を上げる「全体最適」という視点をもつことが非常に重要です。

昨今、企業の中では、この「部分最適」という問題がよく起こっています。
部署として「与えられた指標、目標は達成できているのに、利益が伸びない、評価されない」などの課題がある組織は、この「部分最適」という問題に陥っていないか、よく考えてみる必要があります。

とても当たり前なことですが、仕事をしていく中で、「作業効率」をあげることや「人間関係の問題」に注力しすぎて、この大前提を忘れがちです。
特に経営層の方々には、常に念頭においてほしいポイントです。

企業の目標を測定する3つの指標とは

企業の目標は「お金を儲け続けること」ですが、企業が儲かっているかを測定する指標とは一体何なのでしょうか?

おそらく、「当期純利益」や「キャッシュフロー計算書」「投資収益率」などの指標を思い浮かべる方もいることでしょう。しかし、そんな指標は、工場、現場で働いている従業員などにとっては、「工場のどの活動がそれらの数字に関わっているのか」が、いまいちよく分からず、現場で働いている人に伝わりづらいのが実情で、課題でした。

では、工場や現場の方にとって、企業が「儲かっているか」という目標の達成度合いを図るための指標としてはどんな指標があるのでしょうか?

Ⅰ.スループット

1つ目は、「スループット」というものです。

「スループット」とは、「販売を通じてお金を作り出す割合」のことを指します。簡単に言えば、在庫の販売を通して得た「利益」を指すと考えて良いと思います。

ポイントは、生産量ではないということで、生産しても、売れなければ、それは「スループット」ではありません。

Ⅱ.在庫

2つ目は、「在庫」です。

「在庫」とは、「販売しようとするものを購入するために投資したすべてのお金のこと」と表しますが、
簡単に言えば、「まだ販売までたどり着いていないモノ、商品をどれくらい抱えているか」ということです。

 

Ⅲ.業務費用

最後は「業務費用」です。

「業務費用」とは、「在庫をスループットに変えるために費やすお金のこと」で、
工場での労働時間も、手待ち時間も業務費用です。
「作業経費」や、「販売までのプロセスにかかる費用」
と考えてもいいかもしれません。

 

 

この「スループット」、「業務費用」、「在庫」というシンプルな3つの指標で、工場、現場のすべてが測定できるのです。
ここから考えられるのは、企業は、「スループット(商品を販売して得た儲け)」をできる限り増やし、「在庫」や「業務費用」などの「ムダ」をなるべく減らすことが目標です。
ただ、この場合には、上記3つ全ての最適化を目指す必要があります。
例えば、人を解雇すると、業務費用は改善されるものの、スループットが減り、在庫が増えることが実証されています。

では、どのように最適化していくのか、ポイントは「ボトルネック」です。
つまり、俯瞰的な視点を持ち、「全体のパフォーマンスに最もインパクトを与えているボトルネックとはどこか」?という視点をもつことが非常に重要です。

依存的事象と統計的事象の組み合わせとは

ボトルネックを説明する前にまず2つの言葉を説明します。

Ⅰ.依存的事象

まず、「依存的事象」とは、「複数作業の前後関係」を表します。
少々難しいので、例えば、皆さんが、カレーを作るとして、この「依存的事象」を考えてみましょう。
カレーを作る工程を大きく分けると、
買い出し → 具材を切る → 炒める → 煮込む → 完成」という手順ですよね。


これらの工程は一連に繋がっており、各工程はその前の工程に影響を受けます。(これを「依存している」と表現します)
当然ですが、食材を調達しなければ、食材を切ることはできませんし、具材を煮込まなければ、カレーが完成することはありません。
こういった、「作業の前後関係」のことを「依存的事象」と表現します。

Ⅱ.統計的変動

次に「統計的変動」とは、「同じ作業であったとしても、
その時々によって、作業時間にばらつきが生じる」ことを表します。

例えば、いつもと同じ作業時間でカレーを作ろうとしても、
たまたまスーパーで、じゃがいもが売り切れていて、
買い物にいつもより時間がかかってしまったり、
包丁が壊れて、いつもより作業が遅くなるなど、毎回同じ時間で作ることはなかなかできません。
こういった状況を「統計的変動」といいます。

以上の、この2つの事象が組み合わさることで、部分最適を追い求めても、全体の目標が満たせなくなってしまうことが生じます。どれだけ、「切る」、「炒める」、「煮込む」の工程の無駄を省き、最適化したとしても、買い物する工程が遅くなれば、全体的には遅くなってしまうのです。

つまり、一つ一つの作業を測ってなんとか工数を削っても、「依存的事象」「統計的変動」がある限り、余分な時間、ムダは発生してしまうということです。

ボトルネックとは

そこで、次に、工場内の経営資源を2つに分けていきます。
それが「ボトルネック」と「非ボトルネック」です。

Ⅰ.ボトルネックと非ボトルネック

ボトルネック」とは、
その処理能力が与えられた仕事と同じか、
それ以下の経営資源のことです。
非ボトルネック」とは、与えられた仕事量より
処理能力が大きい経営資源のことです。

(引用:https://blog.uwanokikaku.xyz/entry/TOC)

例えば、皆さんがカレー屋を経営しており、1日あたり100食のカレーを作りたいとします。
仮に、フライパン、鍋(= 経営資源)の能力が高く、炒める、煮込むなどの作業を1日あたり150食分行えるとしても、包丁(= 経営資源)の能力がイマイチで、材料を切る作業が70食分しか行えない場合、このカレー屋さんが作れるカレーの量は70食となります。

つまり、このカレー屋さんの作る量(スループット)を決めているのは、ボトルネックである「包丁」になります。そのため、ボトルネックを通過する処理量(= 企業が最大作れる量)を、市場の需要に合わせることがポイントになります。

Ⅱ.ボトルネックを解消する5つのステップ

ボトルネックが、その企業の最大の生産量を決めてしまうため、いくら別の工程を改善、効率化したからと言って、生産量は変化しません。
ボトルネックとなっている工程、経営資源をどうにかしない限り、スループット(販売量)が増加することはないのです。

ではどうすればよいのでしょうか。
ボトルネックを最大限活用するには以下の2つのポイントがあります。

1. ボトルネックの時間の無駄をあらゆる方法でなくす
ボトルネックの作業者の休憩時間をずらす、人材の配置を工夫するなどして、ボトルネックは、常にフル活用できるように努める

 

2. ボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やす
外注を委託する、以前に使っていた機械を再稼働させ、作業を分担させる

まずは、

①自社の「ボトルネック」を見つける
②その「ボトルネック」をどう徹底活用するかを決める
③他の製造工程における生産量を、「ボトルネック」に合わせる
④そして、最大限「ボトルネック」の能力を高める努力をする
⑤ボトルネックが解消したら再度①に戻る

「ボトルネック」は常に変化していくものです。
そのため、一度解消して終わりではなく、常にこの5つのプロセスを回しながら、全体を底上げしていく必要があります。

最後に

いかがだったでしょうか。
今回の記事は、製造業に限らず、全てのビジネスに必須の視点です。

まとめとしては、

「お金を儲け続けたい」のならば、
企業の中にある「ボトルネック」を見つけ出し、
ボトルネックを最大限活用する方法、
能力を最大限高める方法を考える事が1番近道である

ぜひ自社のボトルネックを見つけ出してみてください。

【参考文献】・エリヤフ・M.ゴールドラット/三本木亮(2001年) 『ザ・ゴール』 ダイヤモンド社