今年の経営ページでは経営に役立つ書籍を紹介していきます。今回ご紹介するのは、出版から40年近くが経った今なお、MBAの教材にされている一冊『競争の戦略』です。
<著者の紹介>マイケル・E・ポーター
1947年生まれのアメリカ人経営学者。1973年にハーバード大学で博士号を取得、1982年には史上最年少でハーバード大学の正教授に就任したスーパーエリートです。『競争の戦略』(1980年出版)はビジネスに関する学術書としては空前の大ヒットでした。他にも『競争優位の戦略』(1985年出版)で発表した「バリューチェーン」という企業の活動を区分したものも有名です。
<ポイント①>「収益性は5つの要因で決まる」
企業が儲かるか否かは業界の競争状況が影響します。当然ながら、競争が激しい業界にいると儲かりません。しかも競争相手は業界内の「同業者」だけではないのです。「売り手」や「買い手」、「新規参入業者」、「代替品」も競争相手としてみなします。これがポーターを一躍世界的な学者にした「ファイブフォース(5つの力)」という考え方です(図1参照)。
「同業者」が多くひしめき合っている場合、収益性が低い業界となるのは当然ですが、他の要素はどうでしょうか。例えば必要な材料を特定の「売り手(仕入先)」が独占している場合、仕入れ値が高騰します。逆に「買い手(販売先)」が自社以外の企業からも同様の商品を購入できるとしたら、販売価格が低下するでしょう。また、「新規参入業者」が出てくれば業界内の競争が激しくなり、「代替品」が誕生すれば業界の市場そのものが縮小してしまい、収益性が低下します。
ポーターは5つの力を分析して、儲けられる業界を選ぶことが重要であると主張しています。
<ポイント②>「戦略の基本パターンは3つだけ」
ポーターによれば業界内での戦い方は3つしかありません(図2参照)。まずは競争の範囲ですが、手広く市場全体を相手にするのか、ターゲットを絞るのかを決めます。市場全体を相手にする場合にとるのが、低コストを売りにする「コスト・リーダーシップ戦略」か、付加価値の高さを売りにする「差別化戦略」のどちらかです。一方で「集中戦略」は自らに有利になりそうな市場(ニッチ)だけをターゲットにする戦略もあります。
経営者は自分たちが「どの市場で、何を強みとして戦うのか」を決める必要があります。
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今回ご紹介したのは「ファイブフォースを使って分析して儲かる業界を選び、業界内では3つの戦略のいずれかを使うことで競争を勝ち残れる」という考え方でした。ポーターの考えは、自社の内部環境ではなく、外部環境の分析に重きを置いているのが特徴です。対照的に「自社がどのような強みを持っているかで競争の優位性が決まる」という主張をしている学者もいますので、機会があればそちらもご紹介できればと思います。
図1:ファイブフォース(5つの力)
図2:3つの基本戦略