孫子は兵法の中で「百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善の策とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策である。」という趣旨のことを語っています。「必ず勝つ方法」を考えるよりも、「そもそも戦わない方法」を考えた方が良いということです。
今回取り上げるブルーオーシャン戦略は独自の新市場(=ブルーオーシャン)を切り開き、競争自体を行わないことを目指す戦略です。
ブルーオーシャンとレッドオーシャン
「ブルーオーシャン」とは独自の新市場のことを指していて、競争が存在しない市場をいいます。対照的に「レッドオーシャン」という市場もあり、こちらは過当競争が繰り広げられて、プレイヤー(参入している企業)が血で血を洗うような状況の市場のことです。
レッドオーシャンの中にいる企業は様々な戦略を立てて、ライバルとしのぎを削り、マーケットシェアを少しでも大きく奪い取ろうとします。しかし、競争相手が増えれば増えるほど、売上や利益を伸ばすことは困難になり、レッドオーシャンはひたすら血で染まっていきます。
一方のブルーオーシャンというものは、まだ存在していない市場(=これから切り開く市場)のことなので、“競争”というものも存在していません。
高い付加価値と低コストの同時実現
現代の戦略論の権威であるマイケル・E・ポーターは、自身の競争戦略において「事業が成功するためには低価格戦略か差別化(高付加価値)戦略のいずれかを選択する必要がある」と述べています。つまり、「低価格を目指すことと、付加価値を高めることはトレードオフ(どちらか一方しか手に入らない)の関係」という考え方が経営戦略論の中では定着していました。
しかし、ブルーオーシャン戦略を提唱しているチャン・キムとレネ・モボルニュの2人は「低コスト化と、高付加価値は両立し得る」と主張しています。そのためには、自分の業界における常識を捨てて、何かを「減らす」「取り除く」、その上で特定の機能を「増やす」、あるいは新たに「付け加える」ことにより、それまでなかった価値を向上させる必要があると説いています。
任天堂のブルーオーシャン戦略
ブルーオーシャン戦略では、これまでなかった新たな需要を掘り起こして、新たな市場に乗り出すため、いったん成功すれば、大きな利益を稼げるうえに、成長スピードも速いのが特徴です。
有名企業の実例として、任天堂が家庭用ゲーム機「Wii」を発売した経緯を紹介します。
Wiiが発売される前に任天堂の主力製品だったのは「ゲームキューブ」というゲーム機でしたが、ソニーのPlayStation、マイクロソフトのXboxと厳しい競争の中で、レッドオーシャンに溺れそうになっていました。この頃、ゲーム機の主要顧客は10代から20代のゲーム好きであると考えられており、各社とも高画質化などのスペック面で競争をしていました。
そこで任天堂は「ゲームをするのは10代から20代のゲーム好き」という常識を捨て、「小さい子供から、年配の方までみんなが楽しめるゲーム機」を開発し、「非顧客を顧客化」しました。Wiiそのもののスペックはライバル製品であるPlayStation3やXboxに比べると決して高くありませんでしたが、Wiiリモコンなどの新たな機能により、ゲームになれていない人たちに付加価値を提供しました。
Wiiが大ヒットし、任天堂は利益を大きく伸ばし、2008年には従業員一人当たりの純利益が1億2千万円を記録しています。
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企業を取り巻く環境が日々変わる中で、“現状維持”は危険です。ブルーオーシャンを切り開くためには、これまで当たり前であったことから、「減らす」「取り除く」、そして「増やす」「付け加える」ことが必要になります。自社の経営戦略を立てる上で参考にしていただければ幸いです。