ワーケーションの導入と労務管理

労務お役立ち情報

新たな働き方として注目を浴びる「ワーケーション」があります。これまでの対面一択の業務からすると異質な働き方となりますが、近年大企業などを中心に注目される働き方となっています。今回はワーケーションにおける労務管理にフォーカスをあて、解説していきます。

ワーケーションとは

ワーケーションとは(work・働く)とバケーション(vacation・休み)を合わせて、旅行や帰省中の一部の時間を活用し、仕事をするという新しい働き方です。

長期休暇は取りづらいという日本人の性格を考慮し、まとまった有給休暇を取得しながらも一定の時間働くことや、余暇を楽しみながらも働くことで、ワークライフバランスの向上に寄与するとされています。しかし、全く労働法が適用されないということにはなりませんので、労務管理分野での注意点も挙げながら確認していきます。

ワーケーションを導入した場合の労務管理

ワーケーションを導入する際の労務管理上の留意点として、就業規則において、対象者を定めることが挙げられます。

例えば新卒入社後間もない期間には一定の教育が必要と言えます。そこでいきなりワーケーションを実施するとなると支障をきたすという職種の場合は就業規則でワーケーションの対象者を定めておくことが適切です。これは新卒者に限らず、中途キャリア採用であっても一定期間経過後に対象者となることを明文化しておくということです。

次に働く時間の確認です。例えば労働基準法上、「深夜」の定義は22時から翌朝5時の特定の時間帯を指します。深夜労働の場合、22時から翌朝5時までの時間帯に働くことで深夜割増を付加して賃金を支払うことが義務付けられます。旅先で働く場合、日常とは異なる時間に働くことも珍しくありません。深夜の割増賃金を回避する意味で事前にやむを得ない場合を除き、深夜労働しないように周知しておくことが重要です。また、やむを得ず、深夜に働かざるを得ない場合は報告体制を確立しておくことが求められます。

連絡体制ついても注意が必要です。ワーケーションを行う従業員に対して「いつでも連絡が取れるように」と伝えてしまうと、場合によっては手待ち時間として、労働時間と評認識される場合があります。手待ち時間は休憩時間とは異なり、労働判例上も労働時間と解されていることから、通常の労働時間よりもむしろ長時間拘束してしまうこととなり、当該時間の賃金支払い義務が生じる場合があります。緊急の連絡事項があった場合にのみ連絡することや、メールで連絡する場合も返信を急いでいない場合はその旨記載するなどの配慮が必要です。
また、前提条件として、一般的に通常時よりも連絡がつきづらくなります。そのことを会社内で共有しておくことで、ストレスのない労務管理が可能となります。

費用負担についても明示しておく必要があります。通信費などは予め手当として支給するのか、発生した実費に応じて精算するのか決めておきましょう。
また、旅先ではオフィスでの勤務よりも情報セキュリティ対策を強化することが求められますが、その基準や費用負担の考え方を定めておかないと、どこまでセキュリティ対策 費用を支出しようか判断に迷うことが予想されます。そして、その点が不明瞭であったがゆえに情報漏洩が起きてしまっては元も子もありません。

最後に、働いた時間の報告です。そもそも主目的が長期休暇の促進である場合、あまりにも長時間働いていると目標を達成しているとは言えません。賃金とも紐づく労働時間の適切な報告方法等を定め、次回実施するまでに見つかった問題点を改善していくことが自社に合ったワーケーションを確立させる近道となります。

ワーケーションを導入した場合の情報管理

情報漏洩への防止策には最善の注意を払う必要があります。旅先はオフィスと比べて情報セキュリティが整っていないので、情報漏洩防止を充分に意識することが必要です。特に、旅先のカフェで仕事をする場合、のぞき見防止フィルターを貼ることや、USBの紛失可能性を見越してデータの保存先をオンラインストレージにするなど、可能な限り情報漏洩が起き得ない方法を選択する必要があります。

また、場合によってはセキュリティ機能が不十分な無料Wi-Fiの使用を禁止するという判断もあり得ます。そして、PCの利用は宿泊先のホテルまたは帰省先の実家に限る等、予め会社としてのルールを統一し、周知しておくことが必要です。 

ワーケーションのメリット

有給休暇5日時季指定義務の履行については一般の従業員だけでなく、いわゆる管理監督者にも適用され、達成できない場合は1人につき罰金30万円が科されます。ワーケーションでまとまった有給休暇が取得できれば、法違反の可能性は低くなると言えます。また、有給休暇の消化が進めば従業員の満足度も高くなると言えます。

また、普段とは異なる環境で仕事をすることで、これまでの固定観念に疑問を持ち、新たな視点で業務を行えるようになり、労働生産性の向上に寄与する可能性があります。

ワーケーションのデメリット

他の従業員の納得感が得られない場合があります。
例えば繁忙期でない課員がワーケーションを活用した場合に、それを知った他の繁忙期の課員はワーケーション中の従業員およびその課に対してマイナスの心証を抱くかもしれません。これを回避するには事前の周知(日程だけでなく実施する目的も合わせて)が鍵を握ります。
事前の周知が行き届いていない場合、無用な軋轢が生じる場合があるということです。

次に情報漏洩のリスクです。故意ではないにせよ通常業務時より、セキュリティが強固な環境で仕事をすることは困難です。バケーション中ではあっても、一定程度業務時間も介在することから、その間は誠実に取り組む必要があり、それだけではなく、情報管理も義務として付随します。

ワーケーションを導入する場合に明文化が望ましい論点とは

対象者の限定と会社の承認(または許可)制にすることを明記することです。例えば現場での業務が主たる業務である従業員など、実質的にワーケーションの実施が困難な職種の従業員に対しては、予め期待を抱かせない意味で、対象者を明文化しておくことが重要です。また、新卒採用後、間もない頃にまだ十分な教育ができていない従業員で情報管理の観点からも実施が困難と判断する場合も同様です。

次に、会社の承認(または許可)制にすることの意味として、ワーケーションはそもそもある程度の期間職場を離れることを想定しており、人員的に長期間職場を離れられると業務の正常な運営に支障をきたす恐れがある場合には、申請のあった日を承認(または許可)せず、別の日に実施してもらえるよう会社側に裁量を持たせておくことが重要です。

ワーケーション導入事例

ある会社では普段、複数の業務を抱え、家族サービスが後回しになっているビジネスパーソンが進行中のプロジェクトを進めながら、家族を旅行に連れていくことができ、ワークライフバランスを整えているとの事例があります。完全にいずれか一方を選択するのは困難な場合にハイブリッドに双方を進めるということです。

最後に

ワーケーションは比較的新しい働き方で、多くの会社が手探りの状態です。もちろん、医療従事者など、ほぼ物理的に実施が困難な業種もありますが、実施可能な業種がワーケーションを行う場合には、予め想定される労務リスク等への対応方法を明確化し、進めていきたい分野です。

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