税務調査は多くの経営者にとって不安の種ですが、税務署がどのような点に着目するかを事前に把握していれば、日頃からの準備でこの不安を軽減できます。
この記事では、法人の税務調査で特によく指摘されるポイントを、実務的な観点からわかりやすく解説します。
税務調査で指摘されやすいポイントとは
期ズレ売上の計上漏れ
本来当期に計上すべき売上を翌期に繰り延べるのは厳禁。
「出荷日が当期であるにも関わらず、翌期に売上が計上されている」などといったケースでは、売上計上時期の誤り=“期ズレ”とされ、追徴課税の対象となることがあります。
期ズレは意図的ではなくても発生しやすいため、税務調査でも、重点的にチェックが行われるポイントです。
売上計上の基準(出荷基準・検収基準など)を社内で明確にし、請求書・納品書・契約書・入金の整合性を保つことが重要です。
現金売上の計上漏れ
売上の抜け漏れは重大な指摘事項。
特に飲食業、小売業、建設業など現金取引が多い業種では、「売上除外」が調査対象となりやすいです。
帳簿やレジ記録と実際の現金残高に不整合がないか、定期的に現金実査を行い確認しましょう。
交際費の処理誤り
業務に関係のない飲食・贈答の支出はNG。
交際費は、業務に関連性がない支出と判断されると経費として認められません。
「いつ・誰と・何のために・どこで」使ったかを明確に記録し、業務関連性を証明できるようにしておくことが重要です。
プライベート経費の混入
役員のプライベート支出が経費化されていませんか?
役員の個人的な支出を会社の経費に含めることは、税務調査で厳しくチェックされます。
個人的な飲食や旅行、社用車を私用で使用した際の費用などのプライベート支出が経費に混入しないよう、領収書を分け、社内ルールの整備を整備しましょう。
勤務実態のない給与
勤務実態のない家族等に給与を支払っていませんか?
家族などに給与を支払っている場合、実際に勤務している実態がなければ指摘を受ける可能性があります。
家族などが勤務している場合には、他の社員と同様に組織図や社員名簿、座席表、勤怠記録を整備し、勤務の証明を残しましょう。
外注費と給与の区分誤り
外注先は“本当に”外注か?
形式上は業務委託契約でも、勤務実態が社員に近い場合は「給与」とみなされる可能性があります。
その結果、消費税の仕入税額控除否認と源泉所得税の納付漏れという二重の指摘を受けることも。
業務委託契約書を必ず締結し、勤務形態・指揮命令関係と整合性が取れているか確認しましょう。
過大役員報酬・賞与
役員報酬の期中変更や不規則な支給に注意。
役員報酬は原則として「定期同額」でなければ損金として認められません。
期中の報酬変更や事前確定届出なしの賞与支給には要注意。
役員報酬の変更は必ず事業年度開始から3ヶ月以内に決議し、議事録を保管しましょう。賞与を支給する場合には、事前確定届出給与の届出も忘れずに。
仕掛品の計上漏れ
製造業などに多い指摘ポイント。
期末時点で製造途中の仕掛品が棚卸に含まれていないと、原価が過大計上となります。
制作中のWEB案件なども、工数や進捗に基づき仕掛品として計上が必要です。
仕掛品を正しく計上するため、製造工程別の進捗や、人ごと・案件ごとの工数を管理して記録しておくことが必要です。
在庫計上漏れ
他社や倉庫に預けた商品の計上漏れが問題に。
期末直前に仕入れた商品の在庫計上漏れや、外部倉庫や委託先に預けている「預け在庫」の計上漏れもよく指摘を受けるポイントです。
定期的に入出庫記録をチェックし、預け在庫の残高確認も行いましょう。
役員貸付金
返済実態のない貸付は“給与”とみなされる恐れ。
役員貸付金が高額・長期にわたる場合、利益供与や所得隠しと判断され、給与と指摘されることがあります。
金銭消費貸借契約書、返済計画書を作成し、利息設定を明確にしておくことが必要です。
関連会社との取引価格・貸借関係
不適正な価格設定や賃貸借に注意。
関連会社との取引における、不適正な価格設定や賃貸借なども、調査で指摘されやすいポイントです。
関連会社と取引を行う場合には、契約書・請求書等の整備、適正な価格設定が重要です。
海外取引
為替処理・源泉税・移転価格など、複雑な論点が多数。
海外取引が多い会社は、税務調査の対象になりやすい傾向があります。
特に関連会社との国際取引では移転価格税制も問われるため、より一層の注意が必要です。
輸出入に関する契約書、インボイス、通関記録、送金記録を保存し、取引内容を明確にしておきましょう。
領収書等の証憑のない経費
証憑がなければ経費性や仕入税額控除が否認される可能性あり。
領収書や請求書などの証憑がない経費は、たとえ実際に発生していても、経費として否認されたり、消費税の仕入税額控除が認められなくなる恐れがあります。
経費の証憑書類の保存を徹底し、保存漏れのない経理体制を整えることが重要です。
契約書の印紙貼付漏れ
印紙を貼っていない契約書には過怠税が課されます。
印紙を貼るべき契約書等に印紙を貼っていない場合、「本来の印紙税の3倍」の過怠税が課される可能性があります。
契約書を作成する際は印紙の要否を必ず確認し、貼付・消印を行っておきましょう。
まとめ
税務調査では、「実態があるか」「記録があるか」「説明できるか」が問われます。
以下の点を日頃から準備しておくことで、仮に調査があっても大きな問題にはなりにくくなります。
・証憑書類を正しく保管し、帳簿と整合させる
・不明点や複雑な取引は顧問税理士に相談し、税法に則った処理を心がける
・社内の経理ルールを明文化し、徹底する
税務調査は、日頃からの準備があれば恐れる必要はありません。
それでも「税務調査が来るのが不安」な場合は、「書面添付制度」(※過去記事【「書面添付制度」をご存知ですか?】もご参照ください)の利用も検討するとよいでしょう。
本記事を参考に、貴社の経理体制を今一度見直してみてはいかがでしょうか。