緊急に備えて休日に自宅で待機させた時間は労働時間に該当しますか?
通信機器を持たせて自宅に待機させ、結果的には呼び出しが無かった場合には、自宅で自由に過ごせるのなら使用者の指揮命令下とまでは言えず、原則は労働時間に該当しません。
解説
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指します。
指揮命令下に置かれている時間とは、明示的なものであっても黙示的なものであっても、労働者に対し具体的な指示がなく、労働者が間接的に拘束されているに過ぎない場合には労働時間には含めません。
緊急の呼び出しに備えて自宅待機を命じ、呼び出し用の会社の携帯電話を携行するよう命じたとしても、呼び出しがない時間についてはどのような時間の過ごし方をしていても基本的には自由であり、結果的に呼び出しが行われなければ、使用者の指揮命令が直接及んだとはみなされず、原則として労働時間には該当しません。実際の呼び出しが行われた場合には、その時点から労働時間として算定されるものと考えられます。
しかし、場所的な拘束を受けている状態であれば、使用者の指揮命令下にあるとみなされ、その時間が労働時間とみなされる場合があります。
場所的な拘束とは?
・会社で待機させている場合
・「緊急の呼び出しがあった際には20分以内に到着しなければいけない」等の条件がある場合
・自宅から外出する時は許可を取らなければならないという指示がある場合
などの強制が伴うなど条件を付けたりする場合は、場所的な拘束性が強くなります。
他に、呼び出しが頻繁に行われるような場合や、急行しなかったことに対しての制裁があるようなケースも労働時間とみなされる可能性があります。
裁判例
例えば医療機関では宅直勤務というものがあり、自宅で待機し急患などがあった場合に、病院からの呼び出しで出勤します。この自宅待機については呼び出しがない場合には労働時間には当たらないという判断がなされています。
しかし、病院内で待機している宿日直については労働時間に含まれると判断されました。病院内の仮眠時間であっても労働者が実作業に従事していないというだけでは使用者の指揮命令下から離脱しているということはいえず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができるとされています。
病院内での仮眠時間は、場所的拘束を受けるとともに、呼出しに速やかに応じて業務を遂行することを義務付けられているので、診療の合間の待機時間においても労働から離れることが保障されているとはいえず、宿日直勤務の開始から終了までの間、医師としてその役務の提供が義務付けられているといえ、病院の指揮命令下にあるといえるとされています。
奈良病院事件(奈良地裁 平21.4.22判決)
最後に
休日や勤務時間外に労働者を自宅に待機させることはあまり好ましいものではないですが、合理的な範囲・程度のものであれば、職務の必要性からやむを得ず認められる場合もあります。
労働者に自宅待機させて呼び出した場合には、呼び出した時点から業務完了までを労働時間としてカウントして給与計算するのが良いでしょう。