意匠権とは?企業経営に意匠権を活用するための基礎知識

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意匠権とは

意匠権とは、意匠法に規定される、物品や建築物などのデザインを保護する権利です。意匠権者は意匠権として登録されているデザインを独占的に使用することができます。意匠権は、特許庁に意匠出願を行い、審査を経て、意匠権として登録されることで権利が発生します。

意匠法では、保護対象となる「意匠」を「物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義しています。つまり目で見ることができるものでなければならず、光や気体、音などの無体物は対象外です。

2020年の意匠法改正で、建築物や内装、画像(Webサービスやシステムのインターフェースなど)も保護対象となり、実際に意匠権として登録された事例も出てきています。意匠権として登録されると、25年間、そのデザインを独占的に使用することが可能です。

意匠権を取得するメリット

それでは意匠権取得のメリットはなんでしょうか。

何かを購入するとき、製品の見た目が決め手になったことがあると思います。製品の見た目は、その性能以上に消費者にとって大きな魅力となり得ます。また製品の見た目だけでどこの会社のものかわかることもあり、デザインは企業ブランディングの一部でもあります。そのような利益を生むデザインを他企業が真似することができないのは、意匠権があるからです。

企業経営の面から意匠権を考えると、守りの面からも攻めの面からも活用の可能性があります。
昨今増えている模倣品に対して、意匠権に基づく警告や排除、税関での意匠権侵害品の輸入差止めが可能です。意匠権を持っていることで独自性やデザイン力の証明となり、対外的な信頼性の向上や取引機会の拡大が望めます。

知財戦略の面から考えると、意匠権には、技術保護の補完という面があります。特許権として登録はできないが、その形をしているからこその機能や部品の形を保護することができます。特許権の取得とあわせて、意匠権を取得することで相互に補完しあう知的財産権を持つことになります。

意匠権の取得要件

次に意匠権として登録されるのに必要な要素5つについて説明します。

工業上利用出来る意匠であること

工業的技術を用いて、つまり機械的手段や手工業的手段でその意匠を繰り返し生産できないものは意匠登録されません。例えば、絵画や彫刻など美術作品や、盆栽のような自然物などは、工業製品として量産できるものではないため、意匠権の対象外です。

新しいものであること(新規性)

意匠出願前に公になった意匠は、救済措置はあるものの、原則意匠登録されません。公になるとは、国内外の展示会への出展や製品発表や販売、雑誌や新聞などへの掲載、インターネット上への公表などが含まれます。

簡単に創作できないこと(創作非容易性)

既に存在している意匠や物の形から簡単に思いつくもの、たとえば野菜や果物をそのまま形にした製品や有名な建築物を小物にした製品などは、意匠登録されません。

同一・類似の意匠出願や意匠権がないこと(先願主義)

自身が出願しようとしている意匠と同一または類似の意匠が既に出願されている場合、後発の意匠は意匠権として登録されません。意匠権は特許権同様、先願主義をとっているためです。

具体的な意匠であること

意匠の形態や使用目的などが出願内容から具体的に把握できない意匠は登録されません。

意匠権を取得するには

意匠権取得の流れ

先行技術調査

先行技術調査とは、類似意匠が既に登録されていないか調査することです。意匠の登録要件でもお伝えした通り、後発の意匠は意匠権を認められません。また自身の意匠が他者の意匠権を侵害していないかを確認するためにも必要な手順です。

登録されている意匠権の情報は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)というWebサイトで意匠公報を調べることで確認できます。J-PlatPatは無料で利用可能です。

意匠登録願の作成と特許庁への提出

先行技術調査で問題ないことが確認できたら、次は出願書類の準備です。
意匠出願には、意匠登録願及び図面を出願書類として提出することになります。図面にかえて、意匠登録したい物品の見本やひな形で出願することも可能です。

書類の提出には、特許庁へ郵送又は受付窓口に持参、インターネットを利用する方法があります。インターネットを利用する場合、電子証明書と無料の専用ソフトウェア(インターネット出願ソフト)が必要です。

出願書類の様式や記入の仕方、注意点などは、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する「知的財産相談・支援ポータル」というウェブサイトに公開されているので、参考にしてください。同様にインターネット出願の手順や必要なものは、特許庁が運営する「電子出願サポートサイト」で確認できます。

審査・登録

意匠出願後、特許庁で順番に審査が行われ、問題なければ意匠権として登録できる旨の査定(登録査定)が発行されます。登録査定を受領したら、登録に必要な手続きを行い、意匠登録料を支払うことで、晴れて意匠権として登録され、意匠登録証が発行されます。

審査段階で、出願内容に不備があったり、類似意匠があったりすると、拒絶理由通知書が送付されます。その場合、手続補正書で不備を修正したり、意見書で類似意匠との違いを説明したりすることで拒絶理由が解消する可能性があります。応答書類の提出に加えて、特許庁の審査官に面接を依頼することもでき、面接の場で実物を示し類似意匠との違いを説明することも可能です。

費用

意匠出願には特許庁へ手数料の納付が必要です。
自身で出願書類を作成し、書面で特許庁へ提出する場合、次のような費用がかかります。2022年1月1日時点の料金であり、法改正により手数料が変わる場合があるので、注意してください。

出願手数料:16,000円
電子化手数料:1,200円+書面1枚につき700円
意匠登録料:8,500円
*意匠登録料は、意匠権の維持に必要な手数料です。意匠権を維持している限り毎年支払いが必要であり、意匠権登録から何年目の権利かにより手数料が変動します。

自分で手続きできないときは…

自身での手続きに不安があれば、手続きを弁理士という知的財産権に関する国家資格の有資格者に依頼することもできます。弁理士に依頼する場合は特許庁への手数料のほかに、手続きごとに弁理士費用が必要ですので、その点は注意してください。

意匠権の制度

意匠制度には、特有の制度として、「関連意匠」「部分意匠」「秘密意匠」という制度があります。

部分意匠とは、意匠の一部分を意匠権として登録する制度です。
物品全体が登録された意匠権では、その意匠権の特徴的な部分だけを模倣し他の部分の形態を変えた製品が現れた場合、意匠権侵害を問えない可能性があります。そのような事態を防ぐために、自身のデザインの特徴的な部分を意匠権として保護することで、広く権利者の利益を保護しようとするのが部分意匠です。

関連意匠はデザインのバリエーションを意匠権として登録する制度です。
電化製品などがわかりやすいですが、ひとつのコンセプトから複数のバリエーションがデザインされる場合や初期のデザインから販売後に徐々に変更されていったデザインなど、それら複数のデザインを関連意匠として登録することができます。

秘密意匠とは、登録された意匠権の内容を最長3年間秘密にしておく制度です。
意匠権は登録料納付後、意匠公報として登録内容が公開され、誰でも見ることができるようになります。秘密意匠制度を利用することで、これを防ぐことが可能です。意匠権登録後、製品販売まで時間がある場合など、自社のデザインを知られたくない場合に有効です。しかし秘密意匠とした場合には、意匠権の侵害が起こった場合の権利行使に、通常意匠よりも厳しい要件が課されている点は注意が必要です。

まとめ

いかがでしたか。意匠権の概要や取得のメリット、どのように取得できるかを解説しました。

製品の売り上げや自社のブランディングにも直結するのがデザインです。デザインの重要性は大企業も中小企業も変わりません。そして意匠権の存在は、デザイン活用において無視することはできないのです。意匠権は製品の見た目やパッケージだけでなく、ネジなど部品やパーツ、操作画面なども登録することができます。華やかなものだけが意匠となるのではなく、独自性のあるものが意匠となるのです。

意匠権は知財戦略に限らず、ブランディングや経営戦略上もとても有用なものですので、一度自社製品のデザイン的な特徴を見直し、意匠権の活用について考えてみるのはいかがでしょうか。