就業規則を変更するには?変更の要件や届出について解説

労務お役立ち情報

「会社のルールブック」と位置付けられるものに就業規則があります。就業規則については労働基準法第89条に根拠規定があります。10人以上の労働者を雇用する場合に成し、所轄労働基準監督署への届出が必要となります。また、一度作成した後でも法改正等があった場合、変更の手続きが必要です。今回は、就業規則を変更するにあたっての留意点にフォーカスをあて解説していきます。

就業規則設置の法的要件

就業規則は職場内の労働者の行動を規律し、労働条件として労働者を拘束させる効力を持ちます。実務上最も重要な論点としては、就業規則で定める内容が会社の「最低基準」となることであり、就業規則で定めるその基準を下回る労働条件の締結は無効とされることです。

そして、就業規則は労働者の作業場からいつでも見える状態にしておく必要があります。従業員が内容を理解していることまでは求められていませんが、周知していることは求められます。

次に常時10人以上の労働者を雇用する場合、就業規則の作成・届出が義務となります。なお、一時的に10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を雇用している場合は「10人以上」雇用していると解釈されます。また、常態的に、7人程度の労働者数で繁忙期に限り4~5人雇用するような場合は「10人以上」には該当しません。

就業規則を変更するにあたっての必要な要件

一般的には法改正を契機として変更することとなります。最近では2019年4月1日付け改正労働基準法の年次有給休暇5日時季指定義務が挙げられます。これは、使用者側から労働者の希望を聴き、例えば〇月〇日に有給休暇を取得させるべく時季指定する際には、根拠となる規定の整備を求めるものです。よって、従前の条文に「時季指定」する旨の条文を追加することが必要となります

また、法律改正以外にも変更のタイミングは訪れます。例えば、正社員転換規定や、賞与における支給割合の変更が挙げられます。正社員転換規定とは、有期契約労働者から正社員への登用をする際、対象者(例えば6か月以上引き続き勤務した有期契約労働者)、時期(例えば毎月1日付けとする)、手続き(例えば面接試験を実施し合格した場合)などの要件を明示するものです。労働者にとっては、このような規定がないと正社員への登用の条件が不明瞭となるので、必須のものとなります。

次に賞与の支給割合の変更についてですが、コロナ禍などにより先行きの事業運営が不透明となり、従前の賞与を支払い続けることが困難となっている企業も少なくありません。そのような状態であっても、就業規則の変更がなされていない場合は、就業規則の「最低基準」を下回ることができないという法的性質上、従前の額で賞与を支払わなければならない事態となります。経営上の数字は必ずしも従業員全般が把握できるものではないため、手続き的な要件(就業規則の変更と周知)は抜かりなく対応しておく必要があります。

就業規則変更にあたっての届け出先

就業規則の変更後は、遅滞なく所轄労働基準監督署へ当該就業規則を届け出なければなりません。また、変更にあたっては、意見書と変更届の2点の添付が求められます。意見書とは、就業規則変更にあたって労働組合がない事業所の場合、労働者の過半数を代表する者へ変更についての意見を聴くことが求められます。これは、意見聴取義務と呼ばれ、仮に反対意見が表明された場合に当該代表者を納得させる義務までは課されていません。

変更届については、どの条文がどのように変更になったかを明確化する書面となります。

就業規則変更のタイミング

法改正を契機とした場合の変更のタイミングは、法改正施行日と同日付とするのが一般的です。しかし、法改正自体を知り得なかった場合や、単に失念している場合もあります。その場合、遡って改正すべきかについては、他の条文への影響範囲も想定されることから、早めに専門家へ相談すべきです。

法改正以外での変更のタイミングは、給与締め日、入退職者などを総合的に勘案して決定するのが一般的です。例えば、賃金計算締め日が20日の場合で基本給を増額改定するにあたっては、1日付改正とすると、増額前の給与と増額後の給与が混在することとなり、日割り計算で対応するなど、事務の煩雑化を招くことになるので、改正日を賃金計算締め日の20日に合わせた方が賢明です。

労働条件変更時の留意点

労働条件の変更にあたっては、複数の留意点があります。先ずは、その変更が労働者にとって著しい不利益にならないか、という点です。例えばこれまで退職金制度を採用していたにもかかわらず、来年から一切支給しないという変更は明らかに不利益の程度が大きいと言え、後述する代償措置を入れる等の対応が求められます。

次に変更の必要性です。基本給の減額を行う場合を例に、見てみましょう。例えば各労働者へ基本給の減額を提示するにも関わらず、高額な役員報酬が出続けている状態や、有料職業紹介サイトに求人情報を掲載したままの状態では、労働者にとって重要な労働条件である基本給を引き下げる前に他に着手すべきことがあるのではないかという話になります。そうなると影響範囲が広い基本給の切り下げの必要性が否定されることとなり、従業員の納得感を得るのは困難と言えます。

次に内容の相当性です。相当性とは、道理にかなっているかという意味です。えば、労働組合に加入している労働者のみ基本給の切り下げを行うという判断は明らかに道理にかなっていません。原則として、労働条件の不利益変更を行う場合「応分負担の原則」により、特定層のみに不利益変更を課すという判断は、無効と判断される場合があります。

次に代償措置の有無です。先の退職金の例を挙げると、これまで保障された退職金制度をいきなり全面的に廃止するとなると、定年退職が近かった労働者にとっては、甚大な影響が窺えます。そこで、不利益変更自体は行うものの、賞与で一定額補填するなど、会社として、不利益の程度を緩和する努力姿勢を見せる必要があります。他の論点としては、不利益変更の事実と開始時期を早期に周知し、不利益変更を段階的に施行(併せて早期優遇退職制度の募集を行う)するなどの選択肢もあります。

次に交渉の経緯も重要な論点です。最終的に決断するのは会社となりますが、会社が一方的に決断するような状態では各労働者の納得感の醸成は難しく、労使紛争となるリスクがあります。特に労働組合がある企業の場合、団体交渉などは誠実に対応する必要があります。

最後に同業他社や社会通念の状況です。業界的に大規模な経営打撃(例えばコロナ禍における旅行業)を受けた場合、社会通念としても一定の不利益変更の納得感は得られやすいと考えます。

就業規則変更後の留意点

変更後の留意点としては、就業規則の手続き的な義務を果たすこと、労働者へ周知することは必須の条件となります。また、不利益変更とした場合、そもそもの制度設計に無理がなかったかどうかの再検討と今後他に同様の不利益変更を行わざるを得ない可能性はないかを精査しておくべきです。

まとめ

就業規則の変更は、不利益変更だけでなく、労働者にとって有利な変更を行うこともありますが、その場合はその内容で継続的な運用が可能かも検討しておくべきです。有利な変更をしたにも関わらず一定期間経過後に引き下げるとなった場合には、様々な段階を踏む必要があり、労使間で紛糾する事態になる場合もありますので、判断に迷う際には専門家の意見を活用することなどの選択肢も頭に入れておきたいですね。

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