「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ―ビスマルク―」この言葉に対して失敗などの経験から学ぶことも多いという批判がよく挙げられます。もちろん経験から学ぶことも大切で、経験から学ぶ人を愚者だとは思いません。しかし経験できることには限りがあります。
そこで皆様には、「経験からも学び、歴史からも学ぶ。賢者を超える経営者」になっていただくために、様々な経営者の「歴史」をお届けしていきたいと思います。
経営は目的ではない
次のようなお悩みをお持ちの経営者も多いのではないでしょうか。
「どうしたら上手く経営していけるのか」
他社とは違う強みを生かし、利益を出し従業員に還元し、なるべく経費は抑えて・・・
スティーブ・ジョブズから、この悩みに対する答えを探してみたいと思います。
どうしたら上手く経営できるのか。答えが見つかるかもしれないと考えた方、申し訳ありません。ジョブズはそもそも「経営を上手くやるために仕事をしているわけではない」と言っています。ジョブズが考えていたのは経営をうまくやることでもなく、お金儲けをするためでもありませんでした。
「最高のコンピューターを作るため」
そのために仕事をしていました。
ジョブズは常に「人生をかけて人々にどれだけ価値を与えられたか、何を成し遂げたかということが大切だ」と考えていたそうです。その結果、数々の非常に価値ある製品を生み出し、大きい収益を得てAppleという会社を経営していくことができたのです。
自身が起業した目的を思い出してみてください。
「商品の価値を人々に知ってもらうため」、「儲けるため」、「最高の〇〇を作るため」など目的は様々あると思いますが、おそらく「経営をうまく回すため」に起業した人はいないと思います。
しかし、うまく経営していくことが目的になってしまうケースはかなり多いです。
BPO(business process outsourcing)が主流になっていく時代、経営者自身でやる必要のないバックオフィス業務はアウトソーシングし、ジョブズのように起業当時の目的を達成するために時間を費やしてみてはいかがでしょうか。
量より質
スティーブ・ジョブズは自分が創業したAppleから一度、解雇されていたことをご存知でしょうか。しかし、ジョブズはPIXARやNeXTで成功をおさめ、業績の傾いていたAppleがNeXTを買収することになり、ジョブズがAppleに返り咲いたというエピソードがあります。
注目したいのは、ジョブズが復帰した後に経営不振のAppleをどのように立て直したのかというところです。もちろん様々な手段があったとは思いますが、今回はその中から1つ紹介させていただきます。
Appleに戻ったジョブズが行ったこと。それは商品ラインナップを7割以上の大幅カットをして4商品に絞ったのです。
ジョブズの名言に「何をしないか決めることは、何をするのかを決めるのと同じくらい大切だ」という言葉があります。
そもそも経営って何をする仕事なの?<経営講座第1回>の記事でも書いたように経営者にとって、1番大事な仕事は、「会社として何をやるか、やらないか」を考え、責任を持って決断することです。この方向づけを誤ると、その先、その企業は間違った方向に進んで行くことになるでしょう。それほどこの仕事は基本的かつ、1番重要な仕事なのです。
また、ジョブズはこのような言葉も残しています。
「どんなマーケティングでも、駄作をヒットさせることはできない」
「2本の二塁打より、1本のホームランの方がはるかに良い」
これらの言葉からも、ジョブズは質にかなりこだわりがあったことが見えてきます。
あれだけリソースのある会社でも、色々なものに手を延ばすのではなく、商品を絞ってリソースを集中させることにより、質の良いものだけを売っているのです。
色々と手を伸ばし過ぎてはいませんか。
日本の企業の99.7%は中小企業。潤沢なリソースがある企業が少ない中で、ジョブズのように何をしないかを決めて、最高品質の商品・サービスを提供できるようにリソースをそこに集中させるという判断が会社の命運を分けるかもしれません。
点をつなぐ
一方でジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの中ではこのような言葉を残しています。
「先を見通して点をつなぐことはできない。振り返ってつなぐことしかできない。だから将来何らかの形で点がつながると信じなければならない。何かを信じなければならない。直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。この手法が私を裏切ったことは一度もなく、私の人生に大きな違いをもたらした。」
これはジョブズが大学の授業に潜り込んでカリグラフィー(文字芸術)を学んでいたことが、文字を美しく表示・印刷できる初めてのコンピューターを生み出すことにつながったという話をまとめた言葉で、ジョブズは最初からコンピューターにカリグラフィーを活用できると考えて授業に潜り込んでいたわけではなく、後になってつながったことを伝え、今していることがいつか何かにつながると信じるしかないということの重要性を説いています。
2章【量より質】では先に述べたように、「何をしないか決めることが重要」と言っているジョブズだが、それを決める際には直感を信じて決めることが多かったようです。
Appleでもジョブズが気に入らないからという理由で否決されたプロジェクトやクビにされた社員も多いそうです。
逆に「最高のコンピューター」は、ジョブズが直感的に良いと思ったカリグラフィーや個人向けコンピューターなどの点と点がつながり出来上がったのです。
ここから学べることとしては、直感を信じる事も大切だということです。
論理的思考力が大事だと言われている世の中ですが、今自分がしていること、これから始めることが将来なにかの役に立つのかどうかは考えても答えは出ません。
もし無駄かもしれないと少しでも思うのであれば、それは先に述べた「何をしないか決める」際にジョブズであれば、真っ先にしない選択をするものだと思います。
直感的に「良いと思えるもの」「したいと思えるもの」それを無駄ではないと信じて続けるという選択が、将来何かにつながり、更なる価値を生み出すこともあると思います。
こんなに長い記事を最後まで読んでいただいたこと、起業してから今までしてきたこと、それも全て無駄ではありません。
いつか何かにつながると信じて続けてください。
心より応援しております。
いかがだったでしょうか。
スティーブ・ジョブズから学ぶことはたくさんあったと思います。
「経営は目的ではない」
「最高の○○を生み出す」
「質の良いものを売る」
「何をしないか決める」
「点がつながると信じる」
まだまだスティーブ・ジョブズのほんの一部ではありますが、歴史から学べることは学び、今後の経営に生かしていただきたいと思います。
ロゴの意味
最後に誰かに話したくなる豆知識を1つ紹介します。
Appleといえば、リンゴが1口かじられているロゴ。
このロゴ、なぜリンゴがかじられているのでしょうか。
一説にはアダムとイブが食べた禁断の果実を表しているなんて盛大な話まででできていますが、デザイナーがロゴのデザインについて、このように答えています。
「ほかの果物と見間違われず、一目でリンゴだと分かるようにしたかったから」
リンゴがかじられていることに深い意味はなく、さくらんぼなどの似たような果実と見間違われないためだそうです。
誰かにこの豆知識をお話する際に1-3の内容も思い出して、この記事を繰り返し読んでいただけると幸いです。
参考
スティーブ・ジョブズ 自分を貫く言葉―トーマス,アラン・ケン
スティーブ・ジョブズ 自分を超える365日の言葉―田外孝一
スティーブ・ジョブズ II-ウォルター・アイザックソン
スティーブ・ジョブズによるスタンフォード大学卒業式講演