成果を出すための戦略立案<経営講座第4回>

経営お役立ち情報

第4回配信となる今回は、「マーケティング」についてお届けしていきます。
前回の記事では、企業の方向づけの理論や実践方法といった「企業の戦略の立て方」に関するお話をしました。今回は、より経営の本質となる「マーケティングの思想」についてお伝えできればと思います。

1.商品・サービスとQPS

QPSに関しては、以前の章でも取り上げましたが、一度復習した上で、C(コスト)との関係を説明しておきましょう。

Q:Quality(商品、サービスそのものの内容)

P:Price(価格)

S:Service(店舗の雰囲気や評判など、実際にお金を支払わないもの)

Sのサービスに関しては、非常に分かりにくいですが、「その他」のSと考えたほうがよく当てはまります。例えば「店が近いから」「店の雰囲気がいいから」といった理由でお客様が商品やサービスを購入している場合、それはQ(クオリティー)とも、P(プライス)とも関係のない理由です。これを「サービス」と呼んでいるだけで、「その他の要素」と考えればよいです。近年、各業種に競合企業が集中し、QとPで差別化しづらくなっており、Sの要素がお客様の消費行動、選択に大きな影響を及ぼしていることが多いです。
そこで、S(サービス)の要素を具体的に考えてみましょう。繰り返しにはなりますが、S(サービス)とは、お客様がお金を支払うことなく、得られるもの全てを指すので、例えば、以下のようなものです。

具体例を挙げれば、キリがないですし、会社の業種や、ビジネスモデルかによっても、Sの要素は大きく異なってきます。自社の商品、サービスを購入してくれる可能性のある見込み客は、自社のどこを見て商品を買っているのでしょうか? Sを更に分解し、考えた上で、マーケティング戦略を練っていく必要があるでしょう。

ここまで、QPSに関して説明してきましたが、実はもう一つ、マーケティングにおいて考えておくべき要素があります。それはC「コスト」です。もっとも、お客様はQPSの組み合わせにしか興味がありません。C(コスト)はお客様には見えませんし、購入選択に直接的な影響を及ぼすことはありません。ですが、間接的な影響を及ぼすことはあります。例えば、会社が儲かっていない場合、C(コスト)削減を図ろうとするのは常道です。だからといって、安易にサービスの価格を下げてしまい、お客様が求めるクオリティーの商品・サービスを提供できなくなると、かえってお客様は逃げてしまいます。ここで言いたいのは、決して「コストを削減することがダメで、Q(クオリティー)が高ければいい」というわけではありません。Qを維持するために、Pが高すぎれば、それはそれで、お客様は逃げてしまいます。
自社のターゲット層に対して、適切なQPSの組み合わせを考えることが非常に重要で、それは、どういった顧客層をターゲットにし、どういった価格戦略を取るのかといった、市場におけるポジショニングを考えることともいえます。

2.マーケティングの軸とは、5つのP

これまで、QPSの組み合わせが重要であるとお話をしてきましたが、自社がメインターゲットとしている顧客層にフィットしたQPSの組み合わせを提供するために、考えるべきものを紹介します。

Ⅰ.Products【製品、商品】

この場合の商品とは、商品そのもののスペックはもちろんのこと、商品のパッケージなど全てを含みます。パッケージで買っている商品があることをご存知でしょうか。
例えば、贈答品です。誰かに贈り物をする時に、スーパーの包み紙で持っていく人は少ないでしょう。百貨店など然るべき場所に買いに行く方が多いと思います。こういった場合は、商品そのものだけでなく、パッケージが商品選択、購入場所に大きく影響していると言えます。

Ⅱ.Price【価格】

プライスに関して言えば、一般的に同じクオリティーで同じサービスのものなら、価格が安い商品のほうが売れるという傾向があります。ただ、注意すべきなのは、どんな商品にも「値ごろ感、価格基準」が存在します。あまりにも安すぎると、人は警戒し、なにか特別な理由があるのではないかと、逆に買わない傾向にあります。ですので、商品ごとの「値ごろ感」の上限と下限の間で値決めをしなければなりません。そのためには、町や現場に出て、他社の価格がいくらなのか、といったリサーチが欠かせません。「値ごろ」は案外、すぐに変わってしまうものです。

Ⅲ.Place【流通】

3つ目のPはPlace(流通)です。流通は、言い換えれば、「どうやって商品を手に入れるか」です。現代ではインターネットの普及で、流通が大きく変化し、AmazonなどのEコマース(電子商取引)で商品を買うのは当たり前になりました。Eコマースの普及によって、わざわざ店に赴いて商品を買う必要がなくなったのです。言い換えれば、消費者と販売者の距離が近くなり、いつでもつながるようになりました。いかに消費者に近い場所で商品を販売できるかも大事でしょう。

Ⅳ.Promotion【広告、宣伝】

4つ目のPromotion(広告、宣伝)とは、自社のQPSが他社とどう違うか、自社の強みは何かをお客様にわかっていただくための手段です。そもそも、知らないものを買ってもらうことは不可能です。広告、宣伝に関しては、従来から、テレビや雑誌、駅の看板など様々な媒体が存在しますが、今ではSNSを利用した様々なプロモーションが存在しています。
自社のターゲットの顧客層がよく利用する媒体はなにか、予算、ライバル企業の広告媒体などを検討した上で、ベストの「プロモーションミックス」を考えることが重要です。

Ⅴ.Partner【パートナー】

最後のPは、Partner(パートナー)です。専門性がどんどん高くなっていく現在の経営環境において、どのようにパートナーを選ぶかが、企業の命運を決めることも少なくありません。
かのソフトバンクが、通信事業を大きく飛躍させることができたのは、アップルの「iPhone」を当初は日本国内で独占販売できていたからです。ソフトバンクはアップルをパートナーとすることで飛躍的に業績を伸ばし、アップル側もソフトバンクに日本での独占販売権を与えることで知名度を高めるというプロモーション面や利益面で大きなメリットがありました。
このパートナーは、製品や流通のみならず、場合によっては、ファイナンスや経営に関しても、適切なパートナーを選ぶことで、企業業績や業績向上のスピードが大きく変わることが多いです。

3.リレーションシップ・マーケティング

マーケティングというと、どうしても、「新規の顧客獲得」というイメージがありますが、一度お客様になっていただけた方に、いかにして「一生のお客様」になっていただくかについて考えることもマーケティングにおいては非常に重要です。
新規営業がどれだけ上手でも、既存のいいお客様が逃げてしまえば意味はありません。実際、新規のお客様よりも、長く続くお客様のほうが結果的に儲かります。新しいお客様を獲得するため、値引きをするなど手を替え品を替え、いろいろな営業活動をするよりも、本当に自社の価値をわかってくれているお客様に、適正価格で継続的に商品を買い続けていただくほうが、結果的に儲かるのです。
さらに言えば、既存のお客様が、別の新規のお客様を紹介してくれることが一番望ましいです。それが1番の「信用」だからです。ピーター・ドラッガーは、「本当に良い会社は営業を必要としない」と言っていますが、自社が提供する商品やサービス、言い換えれば、自社の商品、サービスのQPSの組み合わせが本当に素晴らしいものであるなら、商品、サービス自体や既存のお客様が最高の「広告塔」となるのです。

4.おわりに

いかがだったでしょうか?
マーケティングの分野は、手法をただ知っただけでは意味はありません。実際に、その手法を使ってみて初めて価値があります。
この記事を読んだら、すぐに実践してみましょう。自社の4つのP、QPSをそれぞれ細かく分解してみてください。その中で、自社にとっての適切なQPSの組み合わせを考えてみましょう。コンサルタントとともに、一度行ってみるのもよいでしょう。

経営講座第5回はこちらです。

参考文献:小宮一慶「経営者の教科書」,ダイヤモンド社(2017年)