パナマ文書問題などをきっかけに、富裕層やグローバル企業の海外財産への課税に世間の関心が集まっていますが、従前より、各国の課税当局は、国外財産への課税強化に向けて連携を深めており、日本の国税庁もその動きに同調して規制や課税の強化を進めています。今回は、その一環として、平成26年1月から施行されている「国外財産調書制度」について、ご説明します。
「国外財産調書制度」の概要
毎年12月31日時点で、5,000万円超の国外財産を有する居住者(非永住者※1を除く)は、その財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年3月15日までに、住所地等の所轄税務署長に提出しなければなりません。
※1 非永住者・・・日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間の合計が、5年以下である者
国外財産とは
国外財産調書の対象となる「国外財産」とは、国外にある財産をいい、財産が国外にあるかどうかの判定については、基本的には相続税法第10条の規定に基づき、財産の種類ごとに判定します。
【国外財産の例】
・金融機関の国外支店口座にある預金
・証券会社の国外支店口座にある株式や債券
・国外にある不動産や金などの貴金属
・国外で契約した生命保険
・国外に設立した法人に対する貸付金
加算税の軽減・加重措置
《国外財産調書を提出期限内に提出した場合》
国外財産調書に記載がある国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときでも、その国外財産に係る過少申告加算税※2や無申告加算税※3が5%軽減されます。
《国外財産調書を期限内に提出しない、または記載すべき国外財産の記載がない場合》
その国外財産に関する所得税等の申告漏れが生じたときは、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税※2や無申告加算税※3について、5%加重されます。
※2 過少申告加算税…新たに納めることになった税金の10%相当額(新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%)
※3 無申告加算税…納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額
国外財産調書制度における罰則
国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合、または国外財産調書を正当な理由なく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処されることがあります。
以前は、国外財産の把握は国内財産に比べて困難でしたが、税務署は、国外財産に係る所得税や相続税の申告漏れを防ぐため、国外財産の把握に力を入れています。既に、国外送金等調書により、金融機関経由での100万円を超える海外送金の把握が可能となっているほか、平成29年1月からは、日本に金融口座を持つ非居住者の口座情報を各国税務当局に提供し、日本の居住者の海外口座情報も国税庁へ提供されるという「非居住者口座情報の自動的情報交換制度」も開始されます。この制度により居住者の海外口座情報の正確な把握が可能となることから、国外財産調書未提出者の把握も容易になると考えられています。
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上述の加重措置や罰則もあるため、提出義務者に該当する方は、期限内に適切に国外財産調書を提出することをお勧めします。提出義務者に該当するのでは?と思われる方は、北青山税理士法人にご相談ください。