平成20年12月1日から「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が改正され、一般社団法人や一般財団法人の設立が容易になりました。以前は行政に強いコネクションが無いと設立できなかったのですが、一般の人が組織的に公益活動を行いやすくするよう法整備がなされたものです。
実は、一般社団法人というのは、目的に制限が無く、公益事業、収益事業、共益事業いずれも可能となっており、医療機関の開設も可能となっています。
医療機関は医療法人が作るものという概念がありますが、一般社団法人で開設する医療機関とは医療法人の医療機関と何が違ってどのような特徴があるのでしょうか。
今回は、一般社団法人で医療機関を開設する場合の、審査のポイント、メリットやデメリットについて解説します。
一般社団法人とは
一般社団法人とは、人が集って作る法人です。2人以上の社員がいれば成立させることができ、利益の配当を目的とせず、基金の額や事業目的の制限はありません。官庁や都道府県の認可は不要で、法務局で登記すれば設立ができます。
災害時に活躍するボランティアなど、民間による公益活動の重要性が認識されるにつれて、「民による公益の増進」ということで、主務官庁による許可主義を廃止した、公益法人制度改革関連三法が平成20年12月に施行されました。
これは、法人の設立と公益性の判断を分離するもので、これによって剰余金の分配を目的としない社団や財団の設立が容易になりました。
一般社団法人による医療機関の開設
では、一般社団法人が医療機関を開設するとはどのようなことなのでしょうか。詳しく見ていきます。
医療法人でなくても診療所や病院を開設できる
一般社団法人は、医療法人のように事業目的が限定されていません。最初に述べたように、公益・収益・共益のいずれも可能で、剰余金の分配を目的としないのであれば、どのような事業を行ってもよいということになっています。
つまり、医療法人でない非営利法人が、診療所や病院を開設してもよいということになります。違法ではありませんし、厚生労働省でも想定されています。
個人、医療法人での開設との相違点
ここでまず、医師が個人で診療所を開業する場合と、医療法人を作って開業する場合の違いを見てみましょう。
・医師が個人で開業した場合
課税:所得税は住民税も含めると税率が最高で55%にもなる。
事業承継:自分の子に診療所を譲る際、多額の相続税がかかる。
退職金:ない
・医療法人を設立して開業した場合
課税:法人税として支払うこととなりその税率は17.59%。医師個人は給与所得者になるため給与所得控除の制度が適用されることとなる。
事業承継:自分の子に診療所を譲る際は、理事長を交代するだけでよく、相続税などはかからない。
退職金:法人で積み立てておき、退職時に受け取ることが出来る。
このほかにも、分院や介護事業所の開設など事業展開をすることが出来るようになります。
このように、診療所や病院を設立する際には法人で経営したほうが有利なのですが、医療法人設立は手間と時間がかかり、敷居が高いものになります。
医療法人を設立するには、各都道府県の医療審議会で審議されたのち、都道府県知事の認可をうけることが必要です。しかも、いつでもできるというわけではなく、1年のうち2回しかそのチャンスがありません。
それと比べると、一般社団法人は法務局に登記すればいつでも設立が可能で、都道府県知事の認可が不要です。
この点において、一般社団法人を設立したのち、診療所や病院を開設するほうが簡単で早くできて良いということになります。
一般社団法人による開設・保健所の審査のポイント
一般社団法人を設立したうえで診療所や病院をはじめる場合、都道府県知事の認可は必要ありませんが、保健所の審査を受けなくてはなりません。医療法人も同じように診療所や病院を開業する際は保健所の審査を受けています。
ここでは、保健所の審査を受ける時の審査のポイントについてみていきましょう。
非営利性の徹底
一般社団法人を開設するときの定款に「剰余金が発生しても配当しない」旨の条文があるかどうかということの他、各種の確認事項があります。これは厚生労働省より各都道府県の担当部局に宛てた『医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について』という通知文の中に確認すべき事項が列記されています。
この文書はインターネットから検索して読むことができますので、よく読んだ上でこれらすべてに問題なく答えられるように資料などを用意しておく必要があるでしょう。
目的は適切か
一般社団法人の目的を問われます。非営利であることはもちろんですが、開設申請者が本当に医療機関を開設した時に責任者として十分な人物かどうか、各種の資料を要求された上調べられることになります。診療所や病院を採算が取れないことを理由に勝手にやめられたら困るからです。
この審査は、医療法人の場合は都道府県が行っています。一般社団法人の場合は、保健所が行いますが、事例が少なく時間がかかることが予想されます。ここは注意して、証拠資料を揃えてておく必要があります。
資金計画は適切か
せっかく診療所や病院を設立したとしても、資金不足で運営できなくなってしまっては患者が困ります。公益性のある事業ですので持続可能な資金力と、計画が無ければ認可されないでしょう。
十分な資金があることを示す銀行預金の残高証明や、2年分の事業計画書などが必要資料になります。事業計画書は絵空事ではなく実現可能であることを示す根拠をもって立てる必要があります。
考えられないほど多すぎる患者数を想定している場合などがあれば、指摘されることでしょう。
代表理事は誰にすべきか
医療法人の代表者は、原則として医師または歯科医師となっていますが、一般社団法人の代表に資格は必要ありません。
審査する保健所は、院長にもしものことがあった場合、病院を存続させる体制があるかを見ますので、雇われ医師の院長が簡単に辞めてしまったが故、病院が存続できなくなるような体制だった場合には不安があることを指摘するでしょう。
代表者が医師でない場合は、院長・副院長などの形で医師を2人以上用意するか、1人の場合は医師が代表者になるなどしたほうがよいでしょう。
一般社団法人で医療機関を開設することのメリット
一般社団法人で医療機関を設立することには次のようなメリットがあります。
・法務局での登記のみで設立することができるので、タイミングを待たず、いつでも短期間で設立が可能である。
・一般社団法人なら、医療法人であるが故の様々な規制を受けない。例えば、医療介護以外の業務ができないという業務制限や、株式投資などへの制限が無い。代表者も医師・歯科医師である必要はない。
医療法人であるが故の各種届け出の手間や制限がなくなって、運営しやすくなるのがメリットとして上げられます。
一般社団法人で医療機関を開設することのデメリット
一方、一般社団法人で医療機関を開設するのには様々な壁も立ちはだかります。
・保健所の審査は厳しくなる。開設許可申請の前例が少なく、難航することが予想されるので準備を万端にする必要がある。
・医療機関を経営するにあたっては非営利性が問われるが、役員のうち親族がしめる割合が3分の1を超えると営利法人となるので、税制上の各種の優遇措置がなくなる。
医療法人に係る規制がなくなるとはいっても、行政は医療機関の公益性が保たれるようきちんと網をかけてくることは覚悟しておいた方がよいでしょう。
一般社団法人から公益法人へ
一般社団法人設立のもう一つのメリットとしては、一定の条件を満たして申請すれば、公益社団法人になることが出来るという点です。公益社団法人を設立するにはまず一般社団法人で実績を積む必要があるというステップ方式になっているのです。
公益社団法人は「新しい公共」を担う存在として、税制上の優遇措置がとられています。公益法人にはその事業が公益目的事業であれば法人税が課されません。医療機関でいうと、緊急医療・へき地医療・健康指導などの医療保健業などが公益目的事業として認定された事例があります。
行政の手が届かないような分野の公益性の高い医療や医療保健業を担うことを目的とする場合は、公益法人認定を目指した方がいいかもしれません。
まとめ
診療所を開業する場合、医療法人で作るのか、一般社団法人で作るのかは「どんな医療事業を提供したいのか」という目的で考えたほうが良いでしょう。これまでと同じような常識的な普通の診療所を開設したいのであれば、バックアップ体制が整っている医療法人が無難でしょう。
これまでとは違う新しい医療の形を目指すのであれば、一般社団法人にするのも視野に入れたほうがいいのではないでしょうか。少子高齢化が進行するこれからの社会に対応した新しい医療の在り方を模索するための一つの方法論となるのかもしれません。
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