平成29年12月14日に平成30年度税制改正大綱が公表されました。今回は、この大綱で明らかにされた主要な改正項目のうち、中小企業に直接影響を与える可能性が高いものを取り上げて、概要をご説明します。
個人所得課税
所得控除の見直し(H32年分以後の所得税及びH33年度分以後の個人住民税に適用)
働き方の多様化への対応とともに、所得再分配機能の回復の観点から、各種控除の見直しが行われます。
(1)給与所得控除
控除額が一律10万円引き下げられます。また、給与所得控除の上限額が適用される給与等の収入金額を850万円として、その上限額が195万円に引き下げられます。ただし、子育てや介護に対して配慮する観点から、22歳以下の扶養親族が同一生計内にいる者や特別障碍者控除の対象となる扶養親族等が同一生計内にいる者については、負担増が生じないよう措置が講じられます。
(2)公的年金等控除
控除額が一律10万円引き下げられます。また、公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合、控除額に195万5千円の上限が設けられます。さらに、公的年金等収入以外の所得金額が1,000万円を超える場合には控除額が10万円引き下げられ、2,000万円を超える場合には控除額が20万円引き下げられます。
(3)基礎控除
控除額が一律10万円引き上げられます。合計所得金額が2,400万円を超える個人についてはその合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用はできないこととなります。
(4)青色申告特別控除
青色申告特別控除の控除額が55万円に引き下げられます。ただし、確定申告を電子申告により行う者または電磁的記録の備え付け及び保存を行っている者は、控除額が65万円とされます。
森林環境税(仮称)の創設(H36年度から課税)
市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、個人住民税均等割と併せて、年額1,000円が賦課徴収されます。
資産課税
事業承継税制の特例の創設等(H30年1月1日~H39年12月31日までの間の贈与等に適用)
事業承継税制について、10年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充が行われます。
①猶予対象の株式の制限(発行済議決権株式総数の3分の2)を撤廃し、納税猶予割合80%を100%に引き上げ
②雇用確保要件の弾力化
③2名又は3名の後継者に対する贈与・相続に対象を拡大
④経営環境の変化に対応した減免制度を創設して将来の税負担に対応
一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し(H30年4月1日以後の贈与等に適用)
一般社団法人等に財産を移転することによる課税逃れを防止する観点から、個人から一般社団法人等に対して財産の贈与等があった場合において、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件(役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあること等)のうちいずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されることとなります。また、特定一般社団法人等の役員が死亡した場合には、特定一般社団法人等に相続税が課されることとなります。
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し(H30年4月1日以後の相続等に適用)
本来の趣旨を逸脱した悪用を防止する観点から、貸付事業用宅地等の範囲の縮小等の見直しが行われます。貸付事業用宅地等については、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者が当該貸付事業のように供しているものを除く。)が適用範囲から除外されます。
非居住者に係る相続税・贈与税の課税範囲の見直し(H30年4月1日以後の相続等に適用)
高度外国人材等の受入れと長期間の滞在を更に促進する観点から、外国人が出国後に行った相続・贈与については、一時的に国外に住所を移した後に贈与を行う場合を除き、原則として国外財産を相続税等の課税対象としないこととされます。
法人課税
賃上げ・生産性向上のための税制として、以下の措置が講じられます。
所得拡大促進税制の改組(H30年4月1日~H33年3月31日までの間に開始する各事業年度)
賃上げや国内設備投資を一定割合以上行った場合には、給与等支給増加額の15%の税額控除ができる制度です。さらに教育訓練費の増加要件を満たす場合には、20%の税額控除が可能です。
中小企業については、賃上げを一定割合以上行った場合には、給与等支給増加額の15%の税額控除ができ、さらに一定の要件を満たす場合には、25%の税額控除が可能となります。
情報連携投資等の促進に係る税制の創設(施行日~H33年3月31日までの間)
企業内外のデータを連携・高度利活用すること等により生産性の向上を図る等、「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)」の要件を満たすものとして認定された計画に基づく情報連携利活用設備を取得等した場合、特別償却(30%)または税額控除(5%or3%)ができる措置が講じられます。
3.租税特別措置の適用要件の見直し(H30年4月1日~H33年3月31日までの間に開始する各事業年度)
所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資をほとんど行っていない大企業について、研究開発税制等、生産性の向上に関連する税額控除の適用がされないこととなります。
消費課税
国際観光旅客税(仮称)の創設(H31年1月7日以後の出国に適用)
観光財源の確保のため、国際船舶等により本邦から出国する国際観光旅客等に対して、出国1回につき1,000円の国際観光旅客税(仮称)が課税されます。
たばこ税の見直し(H30年10月1日より段階的に増税)
「紙巻きたばこ」が、4年かけて1本当たり3円増税されます。「加熱式たばこ」も、5年かけて段階的に増税されます。
納税環境整備
大法人の法人税等の電子申告の義務化(H32年4月1日以後開始事業年度より適用)
年末調整手続の電子化(H32年10月1日以降提出分より適用)
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以上、平成30年度税制改正大綱の主要な改正項目についてご説明しました。内容については、今後の国会における法案審議の過程において、修正等が行われる可能性があることにご留意ください。なお、具体的な改正内容については、法令等の交付後、改めてご説明します。