医療法人会計とは?一般企業の会計との違いに触れ解説

経営お役立ち情報

医療法人を設立したら、その会計方法は一般の企業と違うのでしょうか。

医療法人も、一般の株式会社など他の企業体と同様に、適切な事業運営に努める必要があるのは言うまでもありません。資産と負債のバランスや、売上と利益の関係を正確に把握する必要があります。

ただ、病院や診療所、介護施設を運営することを目的とする医療法人は、社会的役割の特殊性から企業会計とは異なる部分があります。この記事では医療法人会計について、一般の企業会計との違いに触れながら解説していきます。

改正医療法のポイント

最初に、触れておかなくてはならないのが、平成27年に成立した改正医療法です。

今後高齢化していく社会において、医療法人の重要性が高まっていくことが考えられます。そこで、医療法人にも経営の透明性とガバナンスの強化をおしすすめようと、平成27年9月に「医療法の一部を改正する法律」が成立し、公布されました。

これは、法人がある程度以上の規模になると、公認会計士か監査法人の監査を受けたり、財務情報を公表したりすることを義務付けるものです。株式会社も上場すると同様な義務が生じますが、上場の制度の無い医療法人の場合は、それより厳しい基準で同様の義務が生じます。

また、ほとんどの医療法人では医師が理事長かつ病院の院長である場合が多く、自分の親族に会社を設立させて、そこに、病院用の資材を納入させるという、いわゆる「MS法人(メディカルサービス法人)」を設立するケースが多く見られました。

今般の改正では、これらを「関係事業者」とみなし、一定規模を超えた場合、年間取引額などを記載した「関係事業者取引報告書」を毎年都道府県知事に報告する義務が課せられています。

公費で賄う社会保障費がそのまま収益となる医療法人会計には、より一層の透明性が求められるようになったのです。

医療法人制度の概要

医療法人とは、「病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設しようとする社団または財団」のことです。(医療法第39条)

医療法人は医療業務を行うための法人であり、その他の収益業務を行ってはいけないことになっています。(ただし社会医療法人は一定の収益業務を行うことができます。)

なお、剰余金が出ても配当することができません。また、法人税は原則として一般の営利法人と同様に課税されます。

医療法人の決算について

医療法人は会計に関して次の書類を作成しなければならないものとされています。(医療法第51条)

・事業報告書
・財産目録
・貸借対照表
・損益計算書
・関係事業者との取引の状況に関する報告書
・その他厚生労働省令で定める書類(通常は、純資産変動計算書と附属明細書)

これらを総称して「事業報告書等」と呼びます。これは、毎会計年度終了後2ヶ月以内に作成することが義務付けられています。例えば3月末日が会計期間の終了である医療法人は5月末までに決算を終え、事業報告書等を作成しなくてはなりません。

これは、税務申告の期限と同一であり、一般の事業会社と変わることはありません。ただ、一定規模以上の医療法人の場合は、ここで公認会計士か監査法人の監査を受け、「監査報告書」を出してもらう必要があります。

「事業報告書等」は、理事会と社員総会で承認決議を得た後、都道府県知事に届け出る必要があります。また、これにより剰余金が計算されます。

医療法人は、剰余金を配当することができないため、そのまま資本の部の剰余金の額を増加、または減少させることとなります。すなわち資産の総額が変わります。

これは一般の事業会社の概念でいうと資本金の変更と同じ意味を持つ(持分なしの医療法人の場合)ため、法務局に登記する必要もでてきます。

医療法人会計基準とは

医療法人会計基準は、厚生労働省令第95号として定められています。これは大きく分けて概要をまとめると次のような内容となっています。

総則・・・会計の原則・重要な会計方針の記載などが定められています。
貸借対照表・・・その表示方法や区分方法、資産の評価方法について定められています。
損益計算書・・・その表示方法や区分方法、事業損益の区分方法について定められています。

また、ここには貸借対照表と損益計算書の様式が定められており貸借対照表が様式第一号、損益計算書が様式第二号として基本となるフォーマットが提示されています。

全般的事項

総則には、全般的事項として原則的なことが定められています。会計を職業とする人の間では7つの企業会計原則というものがよく知られていますが、このうちの3つが医療法人会計基準に記載されています。

真実性の原則・・・不正や不当な利益操作の無い真実な決算書を作成すること
正規の簿記の原則・・・正確ですべてを網羅し、検証可能な秩序ある記録をすること。
継続性の原則・・・一度採用した会計方針は原則毎期継続して採用すること。

当然、他の原則も守って会計をしなければならないのですが、医療法人会計基準では上記3つが特に重要な原則となります。

貸借対照表

医療法人会計基準で示されている、貸借対照表の様式は表示上一般の企業と大きく変わっているところはありません。

一つだけ注意しておくべきところは「資本の部」です。資本金・資本剰余金・利益剰余金ではなく、これらに相当するものとして「積立金」が表示され、その内訳として設立積立金や繰越利益積立金が表示されます。株式などを発行せず、配当も行わない法人の記載方法です。

そのほか、資産の部や負債の部に記載される科目については様式に示されているものを基準として、不要なものを削除したり、別の勘定科目名が適当な場合はそれに変えたり、新しく付け加えたりと、わかりやすく改変してもよいことになっています。

損益計算書

医療法人会計基準で規定される損益計算書は、通常の企業会計とは少々異なります。留意すべき点は以下のとおりです。

1.事業損益の区分
事業損益は、以下の3つに区分します。

・本来業務事業損益・・・病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設業務
・付帯業務事業損益・・・医療関係者の教育用施設・疾病予防運動施設・保健衛生に関する業務等
・収益業務事業損益・・・社会医療法人のみが実施できる業務

法人本部などの組織がある場合、その費用は本来業務事業損益に含めるものとなっています。

2.事業外損益の区分
事業外損益は一括して表示し、事業損益の様に区分する必要はありません。

これら医療法人の損益計算書がこのような表示方法になっている理由は、医療法人の本来の目的に照らして、付帯業務及び収益業務が行き過ぎた余り、本来なすべき医療業務の支障となっていないかどうか外見的に判断できるようにするためだとされています。

医療法人会計の特色

医療法人会計には、その目的やこの基準制定の経緯から、一般の企業会計基準にない特有の会計処理規定があります。

特有の会計基準とは

簡便法の適用

これまでの会計慣行から移行するにあたり、運用指針に簡便法適用要件が定められています。これは前段でご紹介した7つの会計原則の中の「重要性の原則」を意識したもので、重要性のないものの処理に時間がかからないようにするためのものです。

その主なものとは次の通りです。

・リース会計・・・一定の規模要件を満たせば、通常の売買取引に準じた方式、賃貸借取引として会計処理ができる。
・退職給付会計・・・15年以内の一定の年数または、従業員の平均残存勤務年数のいずれか短い年数にわたって定額法によって費用処理できる。
・貸倒引当金・・・法人税法における貸倒引当金の繰入限度相当額が取り立て不能見込み額を下回っている場合を除き貸倒引当金に計上することができる。

減損会計

医療法人の会計基準では、公益法人会計基準の考え方を準用したうえで、固定資産の評価を時価で評価しなければならないとしています。バブル期に購入した土地など、現在価値が購入時の価値より著しく低下している場合は評価替えをし、減損会計することが必要となります。

特有の開示事項とは

改正医療法のところで触れましたが、医療法人会計基準に特有の開示事項として、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」というものがあります。これは、条件に当てはまる関係事業者については、その取引内容や金額等について都道府県知事に報告をする義務があるものです。

条件となる関係事業者とは、医療法人の役員とその近親者が代表を務める法人または個人のことです。開示すべき内容は、その法人または個人の住所、氏名、医療法人との関係、取引内容、取引金額などになります。

この取引額が1千万円以上かつ当該会計期間における事業収益額の10%を超えた場合に開示義務が生じてきます。

例えば、医療法人の理事長の配偶者が代表を務める医薬品・材料卸会社が、その医療法人の経営する病院に納入を行っている場合などが該当するでしょう。

社会保障費から収益を得る医療法人の公益性からみて、このような事例は好ましいとは言えないため、厳しい目が注がれています。

まとめ

このように医療法人会計は、その社会的役割・公益性に鑑み、適切に社会的責任を果たしているのか判断できる様につくられています。

様々な規制で、自由が無い様にも思えますが、日本の国民皆保険制度に支えられている医療法人が、経済の荒波にもまれて道を踏み外した結果、本来の医療体制が揺らいでしまうような事態を防ぐ役割があるともいえるでしょう。

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