中小企業のメンタルヘルス対策

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企業にとって欠かすことのできないものに「人・物・金」が挙げられます。特に「人」がこの3つの中で決定的に他と異なる性質として、感情を持っていることです。そして、感情は必ずしも外見からは正確に判断がつかないものです。そこで、重要となる取り組みがメンタルヘルス対策です。今回は「中小企業」におけるメンタルヘルス対策にフォーカスをあて、解説していきます。

メンタルヘルス対策の必要性とは

慢性的な人手不足の状態にある中小企業では、メンタル不調による一人の従業員の退職が、他の従業員の大きな負担増につながり、二次的に退職の連鎖が起こることがあります。大企業であれば、積極的に人員補填や子会社からの出向や転籍により、メンタル不調に陥った従業員の代替要員を送り込むことは可能と言えますが、中小企業の場合、そのような代替策は現実的とは言えません。すなわち、メンタルヘルス対策は中小企業こそ必要性が高いと言えます。

また、メンタル不調は顕在化してからでは手遅れで、長期休業を余儀なくされることが多く、業務に起因していることが窺われる場合、労災として事業主の責任が問われることもあります。ゆえに「事前予防」が極めて重要です。もちろん、労災だけでなく、メンタル不調になるまで会社として対応を放置していたと判断された場合、安全配慮義務違反を根拠とした民事損害賠償請求をされる可能性もあります。そのフェーズまでいってしまうと、会社の内部の問題に留まらず会社への風評被害や、社会的信用の低下にまでつながる可能性もあります。

メンタルヘルス対策の具体的な対策例

まずは、法律上義務付けられている責任を果たせていることがスタートラインとなります。例えば労働安全衛生法第66条で定める年に1度の健康診断、常時50人以上の労働者を雇用する中小企業の場合、年に1度ストレスチェック(後述)を行っていることが求められます。尚、単に実施するだけでなく、結果の通知、労働者から希望があった場合、医師との面談等も法律上、事業者に課せられた義務となります。

前提知識として、メンタルヘルスとは精神面における健康状態のことを指します。法令が遵守できていないような劣悪な環境下では、当然、各労働者の精神面での不安は想像に難くありません。以下は法律上の義務が履行できていることを前提に中小企業独自に行うメンタルヘルス対策を列挙します。

メンター制度の活用

メンタル不調に陥る割合が高い属性として新入社員が挙げられます。入社後間もない時期には新たに習得しなければならない業務プロセスや会社独自の慣習等があり、一定程度経験した社員よりも精神的な疲労度は高いと言えます。ある程度人員に余裕がある中小企業の場合は、OJTを行い、仕事をしながら後任を育成する教育方法を採用しています。その場合、様々な悩みもOJTの際に相談することもあり得ますが、やはり、仕事上一定程度の上下関係は無視できず、むしろ業務に関係すること以外は相談しづらいという場合があります。そこで、OJTにおける先輩社員とは別に、メンターを置くという発想です。そのような人的な余裕はないとの意見もありますが、中小企業の場合、毎年大量の新卒一括採用を行うことは稀であり、入社する人数もそこまで多くはないでしょう。よって、入社後間もない期間のメンタル不調を回避する目的で一定期間メンター制度を採用するのも現実的で有効な選択肢です。

定期的な面談機会

コロナ禍により、いわゆる飲み会で親睦を図るという手法が取りづらくなり、所定労働時間内で、メンタルヘルス対策を講じることが前提となります。労働者心理として、業務時間中には労働者から積極的に声はかけづらく、業務終了後には、相談したことにより相談相手の退社時間も遅くなることから結果的に相談ができずにメンタル不調に陥るというケースも少なくありません。そこで、予め所定労働時間内のスケジュールに組み込み、面談の機会を設けておきます。そうすることで、相談に対する心理的なハードルは低くなります。中には、スケジュールに組み込まれることで、仕事の進捗に支障をきたすという声もありますが、万が一メンタル不調に陥った後の生産性の著しい低下の回避、相談時における何気ない雑談を通して、逆に生産性が向上するヒントを得たりするといった副次的な恩恵もあることから、多くの中小企業で採用されています。

表彰制度

懲戒規定は整備されていても、表彰規定が整備されている企業は多くありません。仕事をしていると自身がどのように組織に貢献しているのかが見えなくなる時期が訪れます。特に、顧客と直に接しない内勤業務の場合、貢献度が感じ取れない状態が長く続くと、モチベーションの低下に起因して、メンタル不調に陥ることがあります。そこで、予め定められたスキルに到達した場合や、同僚のフォローに回るなど、所属長の推薦により貢献が認められた労働者に対して、表彰を行うという企業が増えています。組織への貢献度を感じ取れると、精神衛生上もプラスとなり、長期勤続への誘引ともなります。

メンタルヘルス対策を行わない場合のリスクとは?

最も大きなリスクは退職です。再度の募集をかければ、人員上はプラスマイナスゼロにはなりますが、退職者の教育にかけた時間は戻ってきません。そして、再び同じ教育をする必要があることから、時間的な損失は否めません。金銭的な損失は帳簿を開けば確認できます。しかし、軽視されがちな時間的な損失は、今後会社が大きくなっても取り返すことはできませんので、軽視すべきではありません。

メンタルヘルス対策における専門家とは?

医学的な見地に立つ専門家は産業医です。産業医とは労働者が健康で快適な作業環境のもとで働くことが出来るように助言指導できる特定の研修等を受けた医師を指します。労働安全衛生法上、常時50人以上の労働者を雇用する場合には産業医の選任義務がありますが、メンタルヘルス対策上、50人未満であっても助言指導を求めるという中小企業もあります。

次に、労務管理に特化した唯一の国家資格者である社会保険労務士です。社会保険労務士は労働法制に精通し、企業と労働者、双方の福祉の向上に資するために、様々な角度から助言を行います。産業医のように選任義務はありませんが、企業の労務顧問として、法的助言に留まらず、その会社で取り得る選択肢の提示や、トラブルの未然防止のために奔走する専門家です。

中小企業が意識すべき社内での必要な整備とは?

メンタルヘルス対策上重要な点は、長時間労働にならないための日々の労務管理が挙げられます。良好な人間関係が構築できていても、長時間労働は、ワークライフバランスを崩し、心身の健康を蝕むことが分かっています。当然必要な業務は行うべきですが、お付き合い残業などが文化として根付かないように、業務終了後は速やかに帰宅することを周知すべきです。また、業務の属人化や、偏りも、特定の労働者が長時間労働となるリスクを孕んでいるため、管理職等がチェックすべき部分です。

ストレスチェックとは?

2015年12月から常時50人以上の労働者を雇用する企業には年に1回以上実施することが義務付けられました。ストレスチェックは、実施するだけでなく、本人へ結果の通知をし、必要に応じて医師への面談機会の付与も必要となります。ストレスチェックは労働者の受診義務は課せられていませんが、事業主側から受診するよう勧奨することは可能です。

まとめ

メンタルヘルス対策は他社での取り組みが必ずしも自社においても有益になるとは限りません。メンタルヘルスに特化した課題は会社の数だけ存在します。必要な考え方としては、他社の取り組みも参考としながら、自社にとって有益な取り組みを模索し、実行、修正を加えていくという姿勢です。

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