前回はランチェスター戦略の概要を記事にしました。今回は、ビール業界をケーススタディとして取り上げます。ビール系飲料全体の市場シェアは、アサヒとキリンがともに35%前後で激しく首位争いを展開しており、若干アサヒが優勢という状況です。
1985年ごろ、キリンは市場シェア60%超、圧倒的な強者でした。ところが1998年、10年前までシェア10%前後であったアサヒは、ビール単体の市場シェアでキリンを逆転、2001年にはビール系飲料全体での逆転を果たします。
ビールメーカーの歴史
アサヒは戦後の財閥解体で「大日本麦酒」が二分されて設立されました。当時の大日本麦酒の市場シェアは70%ほど、残りの30%がキリンという状況で、大日本麦酒を「西日本のアサヒ、東日本のサッポロ」に分割することで、3社とも30%ほどのシェアを持つ形で競争が始まりました。
しかし、もともと日本全国に販売網を持っていたキリンに対して、アサヒは東日本に、サッポロは西日本に新たに販売網を構築する必要があり、結果的にはキリンの一人勝ちという構図になってしまいました。
ランチェスター戦略で大逆転
先月号で「弱者の基本戦略」として、「局地戦」「一騎打ち」「接近戦」「一点集中」「陽動作戦」の5つを紹介しました。このうち、アサヒが強者であるキリンに対してとった戦略は、「局地戦」と「一点集中」です。ひとつずつ見ていきます。
特定のエリアで勝負!
1985年、上記のように追い込まれていたアサヒは、大きな決断をします。「ビール市場全体で『総合的な戦い』をしていても、キリンには勝てない」と悟り、特定の分野で戦うことにしました。
アサヒが目をつけたのは、家庭向けの生ビール市場。それまで、家庭で飲むビールと言えば熱処理をしたラガービールが主流でした。しかしアサヒは、品質管理が難しい生ビールを家庭向けに販売することを決断します。そこで発売されたのが皆様もよくご存じの「アサヒスーパードライ」です。
さらに、35歳以下にターゲットを絞り、流通チャネルはこれまでの酒屋中心から、スーパーマーケットや、ディスカウントストア中心に切り替えるなど、「強者キリンが手薄なところ」を中心に攻めていきました。辛口で、クリアな後味の同商品は話題になり、瞬く間に消費者に浸透していきました。
圧倒的なシェアを狙う!一点集中戦略
同商品が売れていく様子を、キリンをはじめとした各社も黙ってみていたわけではありません。すぐに類似品(生ビール)を市場に投入してきました。しかし、結果としてはこれがアサヒに追い風となります。
経営資源を集中投下してスーパードライの生産体制を十分に整えていたアサヒに対して、各社は「生ビールは一過性のブーム」と捉えており、増産体制をとっていませんでした。しかし、予想外の大ブームになったため、アサヒ以外のメーカーの在庫はすぐに底をつき、生ビールに対する需要のほとんどがアサヒに流れ込んできたのです。
これによりアサヒは「家庭向け生ビール市場」の圧倒的No.1となり、その後ビール飲料の主流がラガービールから生ビールにシフトしていったため、アサヒはキリンを逆転できるほどに成長できたのです。
社運をかけて、「経営資源を一点集中させ、局地的な戦いでNo.1」を目指したアサヒの戦略は、まさにランチェスター戦略のお手本と言えます。皆様の会社でも、No.1になれる市場を探し、資源を集中投資することが、収益拡大へつながるかもしれません。検討してみてはいかがでしょうか。