勤怠管理、できていますか?
「勤怠管理業務」というと、従業員の出勤時間・休憩時間・退勤時間・および休日等の就業状況の記録を取ることがメインとなりますが、広義では、その記録の正確性を担保することや、記録の延長にある「残業時間の抑制」「休日の適切な取得」「有給休暇の取得状況の管理」など、過重労働を未然に防ぐことまでを「勤怠管理」と捉える場合もあります。
労働者の過労死が問題になったり、働き方改革関連法案が施行されたこと等により、ここ10年勤怠管理の重要性は年々高まってきています。勤怠管理の目的および実際の運用の注意点等をしっかりおさらいしてみましょう。
企業における勤怠管理の目的とは?
勤怠管理は従業員を雇用する企業にとって、必ず対応しなければならない事項の一つとなります。一般的に勤怠管理で管理する勤怠情報は、
・出勤時間、退勤時間、休憩時間
・総労働時間
・法定内残業時間、法定外残業時間
・深夜労働時間
・所定休日労働時間、法定休日労働時間
・出勤日数、欠勤日数
・遅刻時間、早退時間
・残有給日数、有給消化日数
が中心となりますが、これらをどのような目的で管理していくのか確認してみましょう。
労働時間の把握
なんといっても勤怠管理の目的は労働時間を把握することにあります。企業には、すべての従業員の労働時間を管理することが義務づけられています。また、労働日数、労働時間、休日労働時間、時間外労働時間、深夜労働時間等の事項を賃金台帳に記す必要があるほか、その賃金台帳や、タイムカードそのもの等、労働時間の記録を保管しておく必要があります。
給与の適切な支払い
勤怠管理と給与計算は非常に密接な関係があります。勤怠管理の結果算出された残業時間、深夜労働時間、法定休日出勤時間等に対して割増賃金を支払うほか、有給の消化日数に応じた有給手当の支払い、あるいは遅早時間、欠勤日数に応じた控除など、正しい給与計算のためには、勤怠が正確に記録されていることが必須条件です。
過重労働の防止、従業員の健康管理
勤怠管理により、従業員の労働時間や残業の状況等が把握できるようになります。過重労働が原因で心身を壊すことのないよう、会社には従業員の健康管理が義務付けられています。多少の残業はやむを得ないとしても、36協定で締結した労働時間を超過しないよう、慎重に管理することが求められます。
係争の防止
客観性のある勤怠記録が管理されていなければ、過去の労働について未払い等の訴えがあった場合、正しい労働時間に基づいた正しい給与計算ができていたことの証明はできません。また、従業員が労災の訴えを起こした際に、私傷病の疑いがあるとしても、勤怠管理がしっかりされていなければ、過重労働をさせていなかった証明はできません。従業員側と会社側の双方が、正確な勤怠管理がなされている共通認識があれば、あやふやな勤怠管理に起因する係争等は発生しにくく、また、係争が発生した場合も、毅然とした対応ができます。
勤怠管理に関連する新たな法令について
上記で述べたように、勤怠管理は労働者の健康管理を目的としている他、会社のリスクを減らすためにも必要です。会社のリスクの中には、労働者からの係争という点も指摘しましたが、まず法令に違反していないかを確認しておくことが重要です。
勤怠管理に関する法令については、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」が記憶に新しいところですが、複数の条項が一気に改正されたこともあり、対応が追いついていない企業も多いことが指摘されています。
自社の勤怠管理が法改正に適用できているか、特に重要度の高い法改正についてチェックしてみましょう。
残業時間の上限の規制(特別条項の残業時間の上限)
これまで、残業時間は36協定によって管理されてきましたが、36協定において特別条項を締結すれば、1年の半分以下の月数であれば、無制限に残業時間を設定できました。
すなわち、1年のうち6か月以上は、1か月に45時間以下の残業時間に抑える必要がありましたが、のこりの6か月以下については、月150時間や月200時間、年間においては1,500時間といった、とんでもない長時間の残業時間でも届け出が受理され、その範囲内であれば残業が認められていました。
この、特別条項における残業時間に上限を設ける規定が、今回の法改正で設けられることとなりました。具体的には
・年間の上限は720時間
・2~6ヶ月の平均を80時間以内に収めること
・月間の上限は100時間
が新たに規定されました。
違反した場合は6ヶ月以下の懲役もしくは超過している従業員一人当たり30万円以下の罰金となっています。
客観的方法による労働時間の把握
これまで、勤怠管理について企業の義務が規定されていたのは、労働基準法第109条における下記条文でした。
”使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない”引用ー労働基準法第109条ー”
このように、出勤簿でどこからどこまでを管理すべきかも、出勤簿において必須で記録しなければならない事項についても、手段についても正確には規定されていませんでした。しかし、今回の法改正により、労働時間の客観的な把握義務が企業に課されることとなりました。
“事業者は、第66条の8第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。”引用ー働安全衛生法第66条の8の3ー
要するに「厚生労働省で定める方法」で勤怠管理をすることが義務化されているわけですが、この「厚生労働省で定める方法」は、厚生労働省令で明示されています。それが、「タイムカードによる記録」および「パーソナルコンピューター等の電子計算機の使用時間の記録」になります。暗に、勤怠管理専用のツールの導入を義務化しているといってもいいでしょう。
また、管理監督者や裁量労働制の適用者については、これまで労働時間の管理が必須とされていませんでしたが、管理監督者などについても、健康管理等を目的に、労働時間の管理が義務付けられました。労働時間をしっかり管理しなければならない対象者の範囲も増えています。
年次有給休暇の年5日取得義務化
これまで、有給休暇の最低取得日数というのは存在しませんでした。有給が消化されなくても罰則がなかったため、圧力をかけて有給を取得させないようにしたり、違法である買取を行ったりする企業が数多くありました。
有給休暇が、本来の目的である労働者の心身の回復に寄与していない状況を変えるため、10日以上の有給休暇が付与されるフルタイムの従業員については、最低限5日の有給を消化させることを、企業に義務付けることになりました。
なお、違反した場合は、違反した従業員一人当たり30万円以下の罰金となっています。人数の多い企業において全員が違反をした場合、罰金が非常に高額になる恐れもあり、必ず対応しておくべきと言えるでしょう。
残業が月60時間を超えた場合の割増賃金の引き上げ
原則、残業時間に対しては、通常の時間単価の25%の割増賃金を支払う必要がありますが、2010年4月1日より、60時間を超過する残業時間に対しては、更に25%を上乗せで支払うよう、法改正がなされました。
この法律について、知らなかった・あるいは、今自社で対応していない、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それには理由があります。
この法律は中小企業に対する猶予が設けられており、13年間この法律の適用は義務ではありませんでした。ですので、今の時点でも60時間超過分の残業手当を50%の割増にしていない、という企業はたくさんあるのですね。
中小企業に対する猶予が終了となるのが、2023年3月末です。それ以降、60時間超過分の割増手当についてはすべての企業で義務となり、努力義務ではなく、必須の義務となります。違反すると法令違反になってしまいます。
ちなみに、この法律には例外があります。
割増賃金の支払いではなく、代替として追加で休暇を取らせることで対応できるよう決められています。繁閑が明確にある企業の場合、忙しい時に60時間を超過する残業を従業員にお願いし、時間に余裕ができたら、代休を取ってもらい、その分の時間を残業時間から控除する形式にする方が、コスト削減につながる可能性もありますね。
勤怠管理にまつわる課題と、その解決策とは?
年々重要性が高まる勤怠管理の業務ですが、企業としての課題もいくつかあります。主な課題と、それについての対策も見ていきましょう。
勤務形態の複雑化・多様化
新型コロナウイルスの影響により、これまで比較的珍しかった在宅勤務形態を導入するニーズが急激に増加しています。
在宅勤務の中でも、勤務日の一部を在宅にする部分在宅勤務を導入する会社も増えました。また、出勤を要する勤務形態でも、時差通勤を推奨したり、変形労働制で交代に出勤日を設けることで、オフィスの空間にいる人を減らす等、勤務形態が多様化しています。
新しい勤務形態を導入する場合はもちろんですが、複数の勤務形態で勤務する従業員を設ける場合など、法令に違反しないように、適切に管理することが難しく、きちんとした管理ができていない企業が多いと言われています。
とくに新しい勤務形態を導入する場合は、自社でなんとなく対応するのではなく、社労士に相談することで、法令に適合した管理ができるでしょう。
正確性の担保
客観的方法による労働時間の管理が必要になりましたが、打刻式のタイムカードを導入しても、打刻してから残業をする従業員がいたりすると、正しい記録とは言えません。
実際に、タイムカードレコーダーを導入している企業に対しても、代理で上司に打刻されていた等、その記録が正しくないという訴えにより、係争が生じることがあります。
そのため、IPOやM&Aを控えている企業等、より厳密に正確性を証明したい場合は、パソコンで打刻できる勤怠管理システムを導入し、PCの操作記録と定期的に照合する、あるいは、入退出記録をそのまま出退勤時間として記録できるシステム等の導入を検討することも必要です。
そこまでするのは大変だけど、リスクが怖いという場合は、タイムカードの記録の締めを、従業員から役職者に申請し、承認する形式の勤怠管理システムだと、本人がタイムカードの打刻・申請をしている証明ができるので、通常の打刻機等を利用するよりは、正確性が保てるでしょう。
業務の煩雑さ
前述の新法により、残業時間の上限を管理したり、60時間未満の残業とそれ以上の残業を分けて計算する必要が出てきました。また、有給消化状況をチェックする必要性もあり、有給を一斉付与していない企業に関しては、ひとりひとり、消化状況と、付与してからの経過月数等を確認する必要が出てきます。
このように、労務担当が管理・チェックする業務が増加しており、労働時間を管理している労務担当が過重労働をしている、というケースも見受けられます。
こちらも、勤怠管理システム等を導入し、できる限り自動化したうえで、それでも管理が難しい場合は、早めにアウトソースに踏み切りましょう。
社労士法人キャシュモでは、最先端のクラウド型勤怠システムの導入をはじめ、給与計算の代行や、各種労務手続及び労務コンサルティングを提供します。勤怠管理の適正化につき、御社独力での対応に不安がありましたら、ぜひ弊社までお問合せ下さい。