「管理職には残業代を支払わなくていい」は法律違反⁉

労務お役立ち情報

『管理職には残業代を支払う必要がない』と思っている方も多いのではないでしょうか?この認識は危険で、きちんと管理監督者の定義を理解し、実態にあった制度作りをしなければ法律に違反する可能性もあります。

今回は過去の判例等も交えながら管理監督者に対する理解を深めていきたいと思います。

1. 管理監督者とは?

「管理監督者」とは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労基法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。

具体的には以下4点が判断要素となります。

① 職務内容

労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること

② 責任と権限

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること

例えば・・・「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は管理監督者とは言えません。

③ 勤務態様

現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないようなものであること。管理監督者は時を選ばず経営上の判断や対応を求められることがあり、労務管理においても一般労働者と異なる立場に立つ必要があります。このような事情から、管理監督者の出退勤時間は厳密に決めることはできません。

例えば…遅刻や早退をしたら給与や賞与が減らされるような場合は管理監督者の判断に際しそれを否定する要素となり得ます。

④ 賃金体系

賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること。管理監督者は、その職務の重要性から定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていなければなりません。

以上のことからも労基法上の管理監督者の範囲は非常に狭く、肩書だけで管理監督者と判断することはできないので注意が必要です!

2. それってほんとに管理監督者?

「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。これは労基法が定める管理監督者の定義を会社が都合よく解釈し、「管理職」であるという理由で残業代を支払わず長時間働かせたり、休日も無給で働かせる等、ずさんな管理体制が問題視されるようになり生まれた言葉です。

社内の管理職=管理監督者と思っていませんか?

例えば「課長」。課長の多くはプレーイングマネージャー(一人でプレイヤーとしての業務と管理職としてのマネジメント業務両方の業務を担う人)です。出退勤も上司の指示に従う、給与総額は残業代を支払われる一般社員と逆転する場合もある等のような場合は、経営者と一体とは言い難く、「課長」というだけで管理監督者と判断することはできません。これを管理監督者として扱い、残業代を支払っていない場合は労基法に違反している可能性が高いことになります。

次項で「名ばかり管理職」という言葉が世に広まる要因となった“マクドナルド事件”についてみていきたいと思います。

3. 過去の裁判事例

■日本マクドナルド事件(2008年)
争点:
ハンバーガー直営店の店長が、会社に対して過去2年分の割増賃金の支払いを求めた。

この裁判の論点はハンバーガー店の店長が“管理監督者”に当たるのかという点です。裁判の判断材料として以下があげられました。

① 店長は、アルバイトの採用や育成、勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営について重要な職責を負ってはいるがその権限は店舗内の事項に限られ、企業経営上の必要から経営者と一体的な立場での重要な職務と権限を付与されているとはいいがたい。

② 店長の勤務態様については、労働時間が相当長時間に及んでおり、形式的には労働時間に裁量があるとはいっても、勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量があったとは認められない。

③ 賃金面でも、店長の平均年収が非管理職であるファースト・アシスタントマネージャーよりも約110万円高いといっても店長全体の10%の年収は下位職制の平均を下回っており、その40%は44万円上回る程度にすぎず、管理監督者に対する待遇としては、不十分である。

 以上のことから本件店長は管理監督者であるとは認められず、会社側は過去2年分の割増賃金の支払いが命じられました。

これは一例ですが、特に外食産業のフランチャイズでは厳しい判断となっている事案が多くあります。次項以降は、管理監督者の労務管理についてみていきます。

4. 管理監督者について注意すべきこと

管理監督者に該当する労働者は、労働時間、休憩、休日の制限を受けませんが、以下2点については一般の労働者と同様に扱う必要があるので注意が必要です。

・深夜労働に対する割増賃金の支払い
・年次有給休暇の付与

具体的には、午後10時〜午前5時までの間に労働した場合には一般の労働者と同様に、深夜割増賃金を支払う必要があります。また、法定の要件を満たす者に対しては、一般の労働者と同様に、法定で定める日数以上の有給休暇を付与する必要があります。

5. 働き方改革との関連

2019年4月より「管理監督者の労働時間の把握」が義務化されたことにより、企業は管理監督者の労働時間を把握することが必要となりました。

その背景として、2019年4月から施行された働き方改革関連法案により、一般労働者の労働時間が減少した分、管理職に仕事が回り過重労働となることが懸念されたからです。

管理監督者に該当するからといって長時間労働をさせていいという訳ではなく、会社側は管理監督者の過重労働による健康被害が生じないように十分配慮することが必要です。これは、「会社の安全配慮義務」であり、会社のリスク管理として意識しておくべきものと言えます。

6. まとめ

経営者は管理監督者の定義について正しく理解し、肩書きにとらわれず管理監督者に該当する実態があるのかどうかを判断することが必要となります。

もし管理職に過労死等が生じた場合は、適切な勤怠管理が行われていたかだけではなく、そもそも労基法上の「管理監督者」に該当する実態があったのかどうかも問われることとなります。そのようなリスクについても会社は十分認識した上で、日々、正しい労務管理を行なっていくことが、重要になっていくと思われます。